- 作者: 私屋カヲル
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2005/12/12
- メディア: コミック
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1.はじめに
こどもの時間とは、新人教員青木大介が、担当することになった3年1組で、児童に誘惑されたりしながら、児童と一緒に成長していく物語である*1
さて、こどものじかん1巻にこんな話がある(p142以下)
りんの指導に悩んだ青木先生は、昔のクラスの業務日誌を読み、りんが親をなくしており、親戚と同居していることを知った。
その後、プリントを配る際に、りん以外のクラスメイトには「ちゃんとお家の方に渡すんだぞ」といっていたのに、りんには「親戚の方にわたすんだぞ」と言ってしまった。
青木先生の行為は法律的にどう判断されるのか?
2.秘密漏えい罪で有罪?
(1)どんな場合に秘密漏えい罪になるのか?
公務員は「職務上知ることのできた秘密」を漏らしてはならない(地方公務員法34条)とされ、これに違反すると1年以下の懲役又は3万円以下の罰金という「刑罰」が科せられる(地方公務員法60条2号)。
問題は、青木先生は「職務上知ることのできた秘密」を漏らしたといえるかである。
ここで考えるべきなのは、どうしてこの規定ができたかであろう。それは、公務をきちんと(民主的・能率的に)運営するためといわれる*2。
本来、公務は公開されるべきである。それは、国をどう運営するかは、その一員(主権者)である国民がみんなで議論して決めるべきであり、その議論の前提として、国民に情報が開示されなければいけないからである。
しかし、国の持っている情報の中には、国民の監視になじまない情報や、開示されることで、うまく行政が働けなくなってしまったりするものがある。たとえば、プライバシーにかかわる事項は国民が監視するのにはなじまず、公開されると思えば、教えてもらえなくなる。逮捕状が出たことや、入札の価格が公開されれば、犯人は逃げるし、談合は増える。だからこそ、このような情報について守秘義務を課すことにより、公務をきちんと運営していこうとしているのである。
すると、「秘密」とは、このような必要性がある情報に限るべきであり、プライバシー情報、逮捕状の発布・入札価格等に限定されるべきである。それ以外については、原則どおり広く公開し、討論・批判の対象とすべきである。
そして、このような「秘密」である限り、広い保護が必要であろう。「職務上知ることのできた」という点は広く解されており、職務遂行する上で知ることのできた秘密は、職務と無関係に知ったような例外的場合を除いては、「職務上知ることができた」と言える(587頁)。入札予定価格の決定が職務でなくとも、自分の職務に関連して価格を知ることができる場合ならば、この価格をバラさせないよう、守秘義務を課すべきである。
(2)青木先生の行動
さて、青木先生の行動を考えよう。家族構成は私的な事項であり、プライバシーの内容をなしている。そして、単なる家族構成ではなく、両親ともいないという、マジョリティーでないことを内容とする場合には、それを秘匿したいという心情は強い。このような事項についてもよりよい教育をするためには、公務員が知る必要があるところ、「公務員に教えるとバラされる」というのでは、誰も教えてくれなくなる。そこで、守秘義務を課すことで、プライバシー侵害を防ぎ、これにより、安心して公務員に情報を提供してもらえるようにする必要がある。
この観点からは、両親ともおらず、親戚だけだという事項は「秘密」である。
さらに、指導要綱は、公務員がその職務の過程で作成したものであり、児童・生徒の指導上の参考事項を記載することで、その生徒の指導に携わるものが指導する上での参考にしようとしている。そうすると、りんの指導という「職務」に関連して知ったといえることは明らかである。
以上より、「職務上知ることのできた秘密」にあたり、青木先生はこれをクラスの全生徒の前で漏らしている。
(3) 故意がなく無罪
ところが、青木先生はわざと漏らしたわけではない。刑法には、故意犯処罰の原則というのがある。要するに、「わざと」行った場合には当然に罰せられるが、「過失」つまり「間違って」「うっかり」やってしまった場合、「うっかりやった場合でも処罰する」という特別の規定がない限り処罰されないのが原則なのである。
本件でも、地方公務員法には過失犯処罰の規定がないので、青木先生は、無罪である。
3 りんのプライバシーをどう保護する?
しかし、それでは、りん達のプライバシーが保護されない。安心して学校に情報を伝えることができなくなってしまう。
また、りんの受けたダメージを回復することも必要であろう。
(1)国家賠償
国または地方公共団体の公務員が国民に損害を与えた場合、国は国民に対し損害を賠償する責任を負う(国家賠償法1条)。その際には、公務員に過失
があることが必要である。
今回の場合、青木先生は、重大なプライバシーにかかる事実を知ってしまった以上、これをもらさないように厳重に管理する義務があった。しかし、これを安易にもらしてしまった。そこで、過失は容易に認められるだろう。
よって、りんが国を相手に国家賠償訴訟を起こし、これにより慰謝料等の損害を賠償してもらうことができる。
(2) 個人情報保護法
また、このように安易に個人情報が漏れるような体制をとっていた学校にも責任がある。行政機関個人情報保護法によると、行政機関の長は、個人情報が安易に漏れないような体制をきちんととらなければいけないとされている(6条)。しかし、指導要録を見る場合の手続き、見た後の情報保護手続き等が定められている形跡がなく、安易に情報を知り、安易に情報を漏らし得る状況となっている。これでは、体制をきちんと整えていたとはいえないだろう。そこで、個人情報保護違反となる。
まとめ
誤って(過失により)個人情報を漏らしてしまった青木先生は秘密漏えい罪では無罪である。
しかし、国は国家賠償法により責任を負うし、個人情報保護法違反となる。
これにより、りんのプライバシーは(最低限の)保護を受けることになる。