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父(a.k.a.水道屋)、最後の秘密

父(a.k.a.水道屋)が亡くなった。

心臓が止まる瞬間まで元気だったらしいので、それはそれはびっくりさせられたが、こんなに天晴れな最期もそうあるまいと、娘としては感心しきりだ。

 

ある朝突然、「心肺停止なのですぐ来てください」と救急隊から連絡があり、病院についても意識が戻ることはないまま、死亡確認となった。

サ高住でいつも通り友人たちと一緒に朝食を囲み、どうも様子がおかしいというので救急車を呼んでもらって、そのまま倒れたあとも時間のロスなく管理人さんが娘の私に連絡をしてくれたのだ。

最後の瞬間まで何の不安もないまま逝っただろうと思えば心の底からありがたくて、翌朝には菓子折をもってサ高住にお礼にかけつけた。

 

管理人さんに話をきけば、最近の父は施設内で囲碁を教えはじめ、亡くなる前の日も碁盤を囲んだとのこと。この夏のためにエアコンを購入しており、数日中にも取り付け工事の予定だったと教えてくれた。

「本当にしょっちゅう、友達が来てたんですよ」

という父の暮らしぶりは、私が把握してたよりさらに楽しそうである。

 

そこに、事務所の前を通り掛かったご婦人を”いつも食卓で隣に座ってる仲良しさん”というので、管理人さんが呼び止めてくれた。午後にはもう火葬場に向かわねばならなかった私は、すこし挨拶と、亡くなる直前の様子だけ伺おうと思って一緒に座らせてもらう。

 

目も醒めるような美しい桜色のネイルをした品のいいご婦人は、こちらが口を挟む暇もなく怒濤の勢いでしゃべり出した。

「私は本当にショックでね」

そうですね、私もびっくりしました

「よくあちこち一緒にでかけたの」

そうなんですね、ありがとうございます

「去年の七月頃からつきあうようになって、本当に私はうれしくて」

あ、父は七月入居でしたもんね

「まわりにばれないように、一緒にでかけても、帰りは必ず別の駅を使ってね、バラバラに帰ってきてたの」

そうだったんですか。(・・・・・・え?)

「娘さんにはね、お母さんのこともあるから失礼かもしれないけど、でもあの人は本当に優しい人でね」

そうでしたね、優しかったと思います(・・・・・・ん?)

「私の方が6歳も年上で、83歳なんですよ。こんなおばあちゃんでいいの?って聞いたら、なんだそんなことっていってね」

そうでしたか、あははは(・・・・・・んんん?)

 

この上なく悲嘆に暮れつつ、女子高生のように華やいでもいるご婦人が放出する情報が私の処理能力を超えたので、強引に腕時計を見るムーブを差し挟んで、話を切り上げるしかなかった。

その後、ひとりで父の居室に入って、スマホと貴重品と棺に収める遺品をいくつかピックアップして、急ぎ火葬場に向かう。

午後の、かなり人の少なくなった火葬場で遺体の焼き上がりを待ちながら持ってきたスマホをチェックした。

 

先ほどの、桜色の爪のご婦人の名前が、LINEにも通話履歴にも、びっしりである。

「一緒にでかけられてほんとうに嬉しい」

「これからおつまみ持っていきます」

「こんなでつきあってるっていえるかしら?」

日頃から自分のことを「口が重い」と評価していた父は「了解」とか「よろしく」とか、その程度の返信しかしていないが、まんざらでもない様子はわかる。

 

思えば、サ高住に引っ越してから、毎月続けていた母の月命日のお参りも「当面やめにしよう」と言い出し、正月のお節も「もう持ってこなくていい」と言って、娘をずいぶん驚かせたのだ。出不精にならないように月に一回くらいは一緒に行こうか、と言っていた映画も最近は声のかかる回数が減っていた。

人間って恐るべき視野の狭いもので、私は勝手に「娘の生活の邪魔をしないように」と、気を遣った父が距離をはかってるのだとばかり思っていた。

 

まさか、娘と居るよりガールフレンドと居る方が楽しかったからだとはなっ!

 

翌日、退去手続きの話を聴きに、また管理人さんのところに行くと

「私たちも全然知らなかったんだけど、エアコンもふたりで一緒に買いに行ったんだって」

と教えてくれた。

レシートを見れば、エアコンと同時に、照明とカーペットと加湿器も購入している。同じ建物の中に住んでいてそんなもの一緒に買い揃えるなんて、半同棲計画ではあるまいか。

 

ちょっと父! 我が父よ!

77歳になってから友達をどんどん増やし続け、挙げ句の果てにモテモテだったなんて、ここに来て娘、マジ尊敬。

友達多いから訃報書くのこそ大変だったけど、かくも豊かな人生を飄々としまう最後のところを、ほんのすこしだけお手伝いさせてもらうことができて光栄だった。ありがとう父(a.k.a.水道屋)!




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