『顔を捨てた男』を観てきました。
こじんまりした作品ながら、大変おもしろかったです。
顔に障害を持ち、一人でひっそり暮らす男が新薬の投与によって、ある日セバスチャン・スタンになるわけです。かっこいいですね。
これはイケると思ったセバスチャン・スタンは「前にここに住んでいた男は死んだよ」と言って過去を葬り、新しい人格として生活を初めます。
新しくできた知人たちは「お、イケメンがいる」と思うわけですが、セバスチャン・スタン本人は大きな秘密を抱えることになるので、他者に心を閉ざした生活が続きます。

そんな陰気なイケメンがふとしたきっかけから、”顔に障害がある男”を主役にした芝居に出ることになります。変形したマスクをかぶって演技をしていると「感情を素直に表出できていいねえ」なんて気分になってくる。
するとそこに、昔の自分と同じ病気で、そっくりな容貌のオズワルドが登場してしまいます。
監督としては、「マスクなしで演技できる本物の役者のほうがいいなあ」という気持ちになり、オズワルドが陽気で楽しい人柄だったのも手伝って、役の差し替えをしたくなる。
オズワルドの方は心の優しい男なので「セバスチャン・スタンの役を奪う形になるのは嫌だから、最後には病気が治ってイケメンになって彼女と結ばれることにしようよ」という提案をします。
どう考えても芝居として台無しですね。

ここで考えに考えて訳わかんなくなってしまっているセバスチャン・スタンがふいに言う言葉がいいですね。
「ありのままじゃ駄目なのか」
突然のアナ雪発言です。
そもそも幸せになるために、なぜ自分じゃないものになろうとするのか?
「だってお前は俺なのに、お前ばっかりずるい!」
というアイデンティの迷宮をさまよい続けるセバスチャン・スタン。気の毒だけど面白い。

アナ雪のエルサのように、山に引きこもって見事な氷の宮殿を作ったりするには至らないわけですが、それでもセバスチャン・スタンは映画の前半では持っていなかった怒りの表現というのはなんとか一応手に入れます。
「”ありのまま”までもう一歩の勇気だったんじゃないか、セバスチャン・スタン」
と思いつつ、なんか元気出る面白いコメディでした。
アナ雪でありながらドストエフスキーの『二重人格』でもありました。