『ウィキッド ふたりの魔女』を観てまいりました。
劇場で何度も予告を観せられていたときは
「全然惹かれないルックだねえ。あ、『オズの魔法使い』なの、ふーん」
くらいに思っていたんですが、やたらめったら評判がよろしいらしいというので観てきましてね。
めちゃめちゃ良かった。
予告で観たときにもっとも”どうでも良い感”を持ってしまったのがアリアナ・グランデのバービー人形みたいな造形でした。
「今どきこんな女性像見せられてどうしろって言うんだ!」と思ったのも、元のミュージカルを知らなかったもんだから。
本編観れば「うーむ、すいませんでした」と声の出る批評的に素晴らしいキャラクターでコメディエンヌとしてのアリアナ・グランデの頑張りを見るにつけ落涙します。
ありとあらゆる特権の妖精みたいな存在であるアリアナ・グランデが、緑の肌のルームメイトに対してどれだけ間違えた振る舞い方をしていたのか一瞬で深く悟るシーンがあります。ひとつの台詞もないままに、突然理解に至って、そしてわかった瞬間にもう行動に出るという場面が素晴らしいのです。
浅はかな失敗もいっぱいするけどそのぶん腑に落ちたらすぐ行動できる、という若さの最大の美徳が遺憾なく発揮されていて本当に感動的なシーンでした。
それ以後のアリアナ・グランデがまた良くて。これをきっかけに色眼鏡が外れて、態度行動が一気に変化するかと思えば、全然そんなことはない。
例外をひとつ見つけて気付いた範囲で直しただけで、基本的な特権意識、態度、振る舞いは全然変わらないまま同じ失敗を繰り返し続けます。
ウィキッドの方は、親友になったはいいが「こいつナチュラルに他人を下に見るよなあ」の違和感の中で友情を育むことにはなる。この「あるある感」が観ていて大変に身にしみるところで、たまらんですね。
一方でまつろわぬ外見で生まれたウィキッド。人々に要求されるとおり常に目立たぬように充足的な立場で生きることをある瞬間に放棄して、「これが私」という自意識を主張するようになります。その事件によってもちろん、人からは「魔女」と言われるようになるわけですね。こちらもわかりみが深すぎる。
おそろしいことにはこの映画、3時間近くあるのに、前編なんです。たぶん来年くらいに続編が来るのでしょうが、まあ、長いな。長いけど、ぜひ観たい。
かくして大変な感銘をうけて帰宅した私は過去のオズ作品を観まくったのでありました。
みんな大好きジュディ・ガーランドのドロシー。
演者のジュディ・ガーランドがすでに大人の女性であるせいで「なんであんな灰色のカンザスにわざわざ帰りたがるのか」というのがさっぱりわからないという弱点は当然あるわけです。
原作のイメージだとまだ自活できる年ではないので、一人はぐれたらとにかく保護者の元へ帰りたがるというのは自然ですが、ハイティーンともなれば、むしろ「あんな田舎を脱出できてラッキー」となるほうが自然な反応なのではあるまいか。
一方で、「ジュディ・ガーランドあっての、この素晴らしい歌と踊りの世界が表現できるのだから鑑賞者はこの大いなる虚構を信じるべきなのだ」
と決意した制作者の熱意が、ある危なかっしい魅力を生んで、この作品を名作にしたんだなというのもよくわかりもする。
人の心を捉えて離さない魅力ってこういういびつさの中にこそ生まれるのかもしれず。
その点素晴らしかったのがダイアナ・ロスとマイケルジャクソンの『ウィズ』です。
ダイアナ・ロスのドロシーは24歳。住んでるのはカンザスの草原ではなくニューヨークの下町。
親戚たちに囲まれてた安心できる界隈から出ようとしない内気なドロシーが、オズの国に迷いこみます。試練の中で成長することによって大人として自信を持って元の居場所に戻っていく話です。
「内なるドロシー」にフォーカスを当てることによって、外見年齢にとらわれる必要がなくなり、オズの国で未知の経験をつむことによってむしろ少女のように活き活きとしてくるダイアナ・ロスが本当に魅力的。
場所がニューヨークであることも、自分で自信をつけさえすれば元の家に戻ってもいくらでも外の世界に出ていくチャンスがある、という可能性の広がりを示唆できていて大変すばらしい翻案だと思います。
「『オズの魔法使い』だからって魔法やらおとぎ話やら夢いっぱいの世界だと思ったら大間違いだからなっ!」
と言いたくて作ったとしか思えないウォルター・マーチのオズ。ズラリ並んだ生首やら、やたらおいかけてくる意味不明の車輪人間やら、幼女に電気ショックかけてくる精神病院やら。オズの怖さを思い知るための一本。
子供の頃テレビ放送で観て衝撃を受けた(ただし内容は一切記憶にのこらず)ような記憶があります。
ドロシーの年齢設定としてはたぶんこれが1番原作イメージに近いのではあるまいか。
そして『ウィキッド』の原作小説。映画でハマったのでつい買ったのだけど、読んだら続編が公開される前にネタが分かってしまうのかっ!と読み始めてから気づいた。
こちらもうっかり「おとぎ話でしょ?」と思って読み始めるととんでもない恐怖描写多数でびっくりでした。