夜中に突然、ピピッピピッと断続的な電子音が鳴りはじめる。
はじめは空気清浄機のフィルター取り替えの合図だろう、と思ったのだ。空気清浄機にしてはちょっと音が大きい気はしたが、他に音の鳴る心当たりもないので一旦電源を落としてとりあえずフィルターを掃除機で吸ってみたりする。
「夜中にやることでもないけど、こんなにピピピピ言われてたら眠れないしな」
寒い中ごそごそと埃を吸っていると、またピピッと聞こえる。空気清浄機は今まさに、電源ごとひき抜いて手の中にあるというのに。
「……空気清浄機ではない?」
他に警告音が鳴るような電気製品があったかしら、と思いながらぐるぐると家の中を見回ってみる。冷蔵庫のドア、しまっている。ガスコンロの電池、替えたばかり。ルーター、鳴る意味がない。パソコン、こんな音はしない。ぐるぐるうろうろしている間も、なんとなく気に触る音はピピピピと鳴り続ける。
「何かわかる?」
さすがに途方に暮れて、猫に問いかける口調が普通に友達に相談してるみたいなトーンになる。しかし頼られた猫は、驚いてまんまるな目でこちらを見返してくるのみ。猫というのは、聴覚が良いうえにパラボナアンテナみたいに音源の方を向くから
「私にわからない音を聞き分けてほしくて君に頼んでるんですけど……」
たぶんこの子と一緒に暮らすようになって、最高レベルの本気度で猫特有の能力を頼っている瞬間だ。しかし、猫の目と耳はピクリとも動かず、しっかりとこちらを向いて
「うるさいから早く止めて?」
と訴えてくる。狭い家でもう探す場所なんかない。あとは何ができるというのだ。
何も思いつかなくて、もはや電源すら入っていない空気清浄機を抱えて、濡れ衣覚悟で玄関に一晩島流ししようと持ち上げたところで、壁の高いところにある火災報知器が目に入った。
「もしや?」
と思った瞬間に小さな赤いランプが光ってまたピピッと鳴る。火災報知器の電池切れサインだったのか。
報知器がそこについていることは薄々気づいてはいたが、意識にのぼらせることがまったくないので、いつの間にか視界に入っても見えなくなっていた。人間の意識が、いかに無意識で情報を取捨選択しながら視界を作り上げてるってことだ。相談したのがシャーロック・ホームズだったら「君が馬鹿だからだ」くらいのことは言われるところだな、と思いながら壁から報知器をはずし、息も絶え絶えの電池を取り出した。
平和の戻った深夜の室内で、いつも通り布団を出して猫の寝床を整えて「まろちゃん、寝るよー」と声をかける。猫は私の腹の上でゴロゴロと喉を鳴らしてようやくご満悦だ。
「……ところで、お前も鳴ってるのが報知器だってわからなかったの?」
首輪の下あたりをかいてやりながら聞いてはみるが、猫はもちろん、答えない。