紅葉の盛りで美しかった公園も、数日目を離すとほとんどの葉が地面に落ちてしまって、嘘みたいにさみしい光景に変わっている。
道を行く人も各々、冬用のジャケットに衣替えだ。だいたいのところみんな煮染めたような色合いになっているのは、10人中7人くらいがユニクロのダウンジャケットを着ているからだろう。実際、ダウンなんて普通は高価なもの、ユニクロか無印以外の場所で手にいれる方法が私にもよくわからない。しかしながら、そのおかげで出来上がった光景は、政府支給の国民服を着ている人たちの群れみたいに見えて寂しいのも事実なのだ。
おお寒。と、黒のジャケットのポッケに手を突っ込んだまま長い階段を下りていたら、向こうから階段を上がってきた上品な高齢女性にすれ違いざま、声をかけられた。
「あなた、きれいな色ねえ。そのマフラー。作ったの?向こうから歩いてきて綺麗な色がずっと見えてたの」
と、あらかた葉っぱが落ちきってしまっている道を振り返って指を指す。
私はといえばその名も「トマト」という名前の毛糸で編んだマフラーをしていた。もうちょっと頑張ればセーターくらい編めそうな大量の毛糸を使って、分厚く長く編んだものをグルングルンに首に巻いて。実際、このさみしくなっていく光景の中でトマト色の毛糸の山が歩いてくるのは目立つのかもしれない。
そういえば色鮮やかな手編みのものを身につけていると年上の見知らぬ女性によく褒められる。もしかしたらビフォー・ユニクロの時代を長く生きてきた人ほど「最近の冬はみんな黒づくめでつまんない」と内心思っているのかもしれない。
あら、嬉しい、ありがとうございます。この毛糸は本当は靴下を編む用の糸でドイツで生産されたものを輸入販売してるみたいなんですよ。などとニコニコと喋りながら、おやおやこのマダムは天使なのかもしれないな、という気になってくる。
「真っ赤な口紅ぎゅっとつけるといいわよ。かわいい顔してるんだから」
なんてついには愉快なお世辞まで言ってもらって「あはは。やってみます」と上機嫌。
わかるわかる。せっかく目立つ赤なんだからついでにファム・ファタールみたいな口紅をつけて見る人をビビらせていくの楽しそうですよね。分かる分かる。
でも私としては「野面で白髪交じりで、全体に黒っぽくて、さっき沼から上がってきたみたいな風貌なのに、なんでマフラーだけそんなにバッキバキなの」っていうばさらっぽい文脈のほうが、今ちょっとおもしろいのよね。あと十年くらい経ったら散歩にも真っ赤な口紅つけて歩くのが楽しくなったりとかするかしら。
そっかあ、見知らぬ年上の同性に、真っ赤な口紅がいいよ、なんて言ってもらっちゃった。人生ってこんなに楽しいことがいきなり起こったりするんだな。ふふふ。