ニコンが2024年に米国RED Digital Cinema社を完全子会社化した後に、その技術的シナジーを取り入れて2025年10月に発売したのが「ZR」となります。ZRは、ニコンのZマウントの利便性と、REDの伝説的なカラーサイエンスを融合させた「Z CINEMA」シリーズの第一弾として、特に動画を中心としてクリエーターに大きな衝撃を与えた印象を受けました。私はZ7、Z9、と使ってきているので、主に静止画しか撮影しませんので、動画的な視点が欠如しているかと思いますが、1週間ほど借り受けて使ってみましたので、感想を簡潔にまとめたいと思います。
【デザイン】
従来のミラーレス機のイメージを覆す、極めてシンプルな形状が特徴だと思います。従来のミラーレスとは明らかに異なる指向です。軍艦部のダイヤル類を廃し、シャッターボタンにREDを象徴する「赤いリング」を配したミニマルな外観は、プロの現場でも違和感のない「道具感」を演出しているようで、私に貸してくれた友人も満足していました。ファンのない密閉構造による滑らかな金属ボディは、高い質感と信頼性を両立させており、プロダクトとしての完成度の高さが所有欲を満たす点は、従来のZシリースの期待を裏切らないと思います。
【画質】
REDのカラーサイエンスを継承したコーデック「R3D NE」による12-bit内部収録が最大の武器だと感じました。特に「肌の質感」と「ハイライトの粘り(ロールオフ)」において、従来のミラーレス機とは一線を画すシネマティックな描写を実現しているのが凄いです。デュアルベースISO(800/6400)の採用により、暗所でもノイズの少ないクリーンな映像が得られる点や、15ストップ以上の広いダイナミックレンジは、様々な表現を狙いたくなる作製意欲を掻き立ててくれるパワーを持っています。
【操作性】
物理ボタンを最小限に抑え、4インチの大型モニターを軸としたタッチUIに特化しています。スマートフォンのような直感的な操作感は「スマホ世代」のクリエイターに支持されるだろうと感じました。逆に従来のニコン機ユーザーからは戸惑いの声も上がるだろうとも思いました。私は後者です。しかしRECボタンとズームレバーを一体化した設計や、カスタマイズ性の高いUIは、一度慣れるとワンオペでの機動力を飛躍的に高めるだろうなあと思いました。
【バッテリー】
動画特化機として消費電力は大きいものの、本体の排熱効率を高めたファンレス設計により、カタログ値で約95分(USB給電時最大125分)の連続撮影を達成しています。プロの現場では外部給電が前提となると思いますが、本体バッテリーのみでも機動的なスナップ撮影には十分な持続力を持つと思われます。一方で、長時間のRAW収録では熱耐性が心配になりますが、これは私自身、借り受けた期間内で実験する事はなかったので、コメントは差し控えます。
【携帯性】
フルサイズセンサー搭載のシネマ機としては異例の「本体約630g」という軽量設計が驚きで、メインで使っているZ9の約半分ですから、持った瞬間に「軽すぎる」とさえ思いました。リグを組まない最小構成であれば、ジンバルへの搭載も容易で、カフェなどの狭い場所での撮影であっても威圧感を与えないサイズ感だろうと感じました。「シネマカメラの性能をポケットサイズで持ち運ぶ」というコンセプトを具現化しており、特にトラベルビデオグラファーやスナップシューターから支持を得ている事は理解出来ました。
【機能性】
世界初の32-bit float音声内部録音への対応が、音響面での革命と評されています。ゲイン調整ミスによる音割れを事実上回避できるため、ワンマン撮影での安心感が格段に向上しました。私自身が音響メーカー出身でもあり、この「音割れ」は非常に気になっていましたが、本機にはそれを解決するソリューションがあるので、極めて広いダイナミックレンジでの録音が可能だと感じました。またNikon Imaging Cloudを介したRED監修の「イメージングレシピ」が導入されているので、グレーディングなしでシネマ品質のルックを即座に適用できる点は、スピード感が求められる現代の制作現場にマッチした特徴のひとつではないでしょうか。
【液晶】
背面をほぼ占領する4インチの大画面モニターは、本機の象徴的なデバイスです。307万ドットの高精細さと1000nitの高輝度を誇り、日中の屋外でも外付けモニターなしで正確なフォーカスと色確認が可能です。スマートフォンに匹敵するレスポンスの良さと、縦位置動画にも対応した4軸チルト機構は、SNSコンテンツ制作においても非常に実用的だと感じました。
【総評】
ニコンの光学技術とREDの映像美が結合&融合した「歴史的転換点」となる一台だと思います。静止画機としての側面を大胆に削ぎ落とし、動画表現に振り切った潔さが、ニコンの新しいブランドイメージを確立したと感じました。本格的なシネマ制作から高品質なVlogまでをシームレスにつなぐ汎用性を持ち、特に「REDの絵作りをこの価格とサイズで手に入れられる」というコストパフォーマンスは素晴らしと思います。最後に私自身が購入して使うのか?と問われると「NO」です。Z9をメイン機材と単玉レンズの組み合わせで、静止画を作り出す過程に最大の楽しみを見出しているから、というのが理由になります。それと編集用のラップトップを現在改造中であり、動画データを持ち込んでも評価が難しいという環境の理由もあります。以上、わずか1週間の試用による所感です。参考になれば幸いです。