『大切な瞬間を切り取る、愛用品としてのカメラ。』 富士フイルム FUJIFILM X-Pro3 ボディ [ブラック] Renshaw_cellさんのレビュー・評価

常に首から下げておけるカメラの強みはこういうところで発揮されますね。	急に駆け出した我が子にも35/1.4のピントが合います！第3世代では難しいシーンです。	11月末の発売なので、植物系の写真はまだあまり撮れていません。
23/2との組み合わせは街中のスナップなどで大活躍します。	暗い室内、激しい逆光でも正確かつ素早いAFができるので感動します。	このビジュアルに惚れます。

　愛用品は、最先端や多機能という性能面だけでなく、手に馴染むデザインや製品にまつわるストーリーなどの要素も強く影響するから不思議です。私の愛用品も、手作業の工程のある革靴や、自動巻の時計、伝統的な手編みのニットといったように、機能性や利便性のみを追求したものではありません。合理的に考えれば、最先端の機能や利便性をストイックに追求した品の方が長期間の利用に耐えられそうに思うのですが、「最先端」という価値はすぐに陳腐化してしまうので、愛用品ではなく消費の対象になってしまいがちです。かく言う私も10年以上5D系のフルサイズ機に重いレンズを何本も「消費」してきましたが、1年ほど前に Xマウントに移行し、今回、義理の妹の結婚式（12月）を好きなカメラで撮影したいと思い、X-Pro3を予約して販売初日に入手しました。

　X-Pro3はhidden LCDのせいで使い手を選ぶカメラという印象を抱かれやすいカメラですが、1ヶ月使用してみると、XF35/1.4のような古いレンズも高速で動作するAFや、高精細なEVFなどデジタル機器としての魅力も詰まっていて、カメラ任せでも手軽に良い写真が撮れる高性能かつ最先端のデジタルカメラとしての顔も持っています。しかし、私にとってのX-Pro3の魅力は新機種が出れば色褪せてしまう性能面よりも、首から下げていても違和感を感じさせない美しくも控えめなデザイン、「瞬間を切り取る」感覚を感じさせるシャッターフィーリング、（私の想像ですが）こんな万人受けしないカメラを世に送り出した開発陣の熱意やカメラへの愛情といった私の主観でしか判断することしかできない部分にあります。また、これらの魅力は容易く色褪せることはないでしょうから、X-Pro3は私にとって息の長い愛用品になるのではないかと期待しています。本末転倒ではありますけど、X-Pro3の良否は価格.comのレビューを読むよりも手に取って自身の感性で判断した方が良いのかもしれません。

　もちろん、20万円もするカメラですから「同じ値段でフルサイズが買える」とか「同じ値段でもっと性能の良いカメラが買える」という費用対効果についても議論すべきだと思います。ただ、私のように家族の日常や旅先の風景を切り取るという用途ならば、15年前の普及型デジタル一眼が発売された頃ならいざ知らず、今はAPS-Cどころかm4/3でも必要十分な性能が担保できています。特殊な環境、被写体を対象とする場合や特定のレンズに拘るのでなければ、無意味なスペック競争からは距離を置き、自分が愛するカメラで大切な瞬間を切り取る方が幸せなことも多いのではないでしょうか。

　X-Pro3がきっかけとなって、トッピング全部乗せで何味か分からなくなってしまったラーメンのようなカメラだけでなく、カメラブランドの哲学を示すようなシンプルかつ個性的なカメラがもっと発売されるようになると良いですね。賛否はあるでしょうが、デジタルカメラ不振の時代にあえてこれをやったフジの開発陣には拍手を送りたいと思います。