以下の内容はhttps://retroaudio.blog.jp/archives/cat_262731.htmlより取得しました。


以前の記事で『詳註版シャーロック・ホームズ全集』(全10巻+別巻1ちくま文庫)が絶版で手に入れにくいという内容を取り上げた。程度の良いものはなかなかの価格だと…
裏技として取り上げたのはそのオリジナル版である『東京図書版シャーロック・ホームズ全集』の方が安価で買える可能性があるという内容だった。
実際に買ってみたので内容の違い(又は同一性)について取り上げてみたい。


以前も書いたがこのベアリング=グールド版は彼の独自研究に基づき事件の発生順に並んでいる。他の全集は一般に出版(または発表)順にまとめられているのでこの全集とは並び順が異なる。

一般的な区切りは出版の順で以下の通り。(カッコ内は出版年、そのあとは代表作)
(1887)1. (長編)緋色の研究            
(1890)2. (長編)四つの署名            
(1892)3.シャーロック・ホームズの冒険   まだらの紐 
(1894)4.シャーロック・ホームズの回想(思い出)最後の事件

(1902)5. (長編)バスカヴィル家の犬    
(1905)  6.シャーロック・ホームズの帰還 (復活)  踊る人形
(1915) 7. (長編)恐怖の谷               
(1917) 8.シャーロック・ホームズ最後の挨拶 最後の挨拶
(1927)  9.シャーロック・ホームズの事件簿  ソアブリッジ

コナン・ドイルは『回想』(1894)の最後に「最後の事件」を書き。シャーロック・ホームズを亡き者とした。終わったつもりだったのである。
ただ、世間はそれを許さず8年後に「最後の事件」より前の事件『バスカヴィル家の犬』を執筆することとなった。
さらにその後、シャーロック・ホームズは実は死んでいなかった(4年にわたり失踪していた)ことにしてシリーズを復活させることとなった。それが『帰還』以降の作品である。基本的に「最後の事件」並びに復活した「空き家の怪事件」以降の時代の事件を扱っている。(長編の『恐怖の谷』と「第二のしみ」「瀕死の探偵」「ウィステリア荘」の三短編のみが例外である)

今回購入した東京図書版はメルカリにて6冊セット1,620円という価格だった。
4巻 緋色の研究
5巻 ボヘミアの醜聞
6巻 赤毛組合
7巻 恐怖の谷(上)
12巻 ボール箱事件
13巻 最後の事件

1冊あたり270円という価格である。ちくま文庫版の2巻「緋色の研究」を持っているので東京図書版の4巻と被ることになった。(同一内容なので比較がしやすい)

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判形だがA5判サイズのようだ。勝手にB5判くらいだと想像していたので、意外と小さかった。それでも版面(はんづら)が大きい分本文の書体は若干大きく、図番も大きく扱われている。文庫サイズはやや窮屈だと思う。
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東京図書版
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ちくま文庫版
上の二つの図版は同一の内容だが、翻訳文には微妙な違いがある。(見にくいが)
テリアに牛乳をなめさせたのち、「絶命してしまった」(東京図書)「絶命した」(ちくま文庫)といったように訳文の細かい手直しはおこなわれているようだ。

ちくま文庫版は東京図書版2.1冊分を1冊(21冊÷10冊)としていて、さらに版面が少ないのでページ数が多くなる。(厚くなる)

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東京図書版は連続して読むことを想定し、長編を途中で切ることも厭わない。『恐怖の谷』が7巻、8巻の2冊にわたって収録されている。7巻の前半に2編、8巻の後半に2編短編が収録されているので、順番を気にしなければスッキリ長編だけで1冊にできたであろう。しかし、掲載順はこの全集のキモなので、このような体裁になった。(正しいと思うが読者の利便性は…)…

と、つらつら書いていたのは2022年の3月上旬のこと。


その後(3月下旬)ヤフオクで、20巻(2巻から21巻まで。なぜか第1巻が無い状態)で出品されているのを発見。送料別で2,500円(開始価格で落札)結局送料が1,327円掛かり、購入価格3,827円となった。(1冊あたり192円)図書館の除籍本で扉に蔵書印並びに図書館名の印が小口に押されている。(関東の某私立大学付属高校の印。こんなにハッキリわかってよいのか?)少なくともリセールバリューはないなあ。承知で買ったのだが、状態は3月上旬の物よりは大分悪い。ただ、書き込みやヤブレは無いようで読む分には問題が無い。(タバコ臭もない=当たり前か)

前述の6巻分が丸かぶりなのと、すでにちくま文庫版を所有している1巻「グロリアスコット号」、2巻「緋色の研究」、5巻「バスカヴィルの犬」と被っているので、純然たる未所有分は下記10巻分となる。
8巻「恐怖の谷 下」
11巻「ボスコム谷の謎」
14巻「空き家の冒険」
15巻「ブルースパディントンの設計図」
16巻「サセックスの吸血鬼」
17巻「踊る人形」
18巻「ゾア橋事件」
19巻「赤い輪」
20巻「マザリンの宝石」
21巻「最後の挨拶」

何はともあれ、これでベアリング=グールドの全集はすべて揃ったことになる。14巻以降が「最後の事件」で失踪していたホームズが「帰還」した後の話になるのでそれ以降がきれいにそろったことになる。

長編なら1篇(例外は『恐怖の谷』)短編は3~5篇で1冊にまとめられている。正典と言われているのは長短篇合わせて60篇なので20巻以下で収まりそうなものだが、実際には21巻になっている。これはベアリング=グールドの解説が含まれているからである。(また、21巻は「最後の挨拶」のみで残りの紙面は資料編=原著の書名や出典の記載に費やされている)
全体の構成をみると、長短編一つ一つを章のように扱っている。解説もそれぞれタイトルをつけて章のように扱っていて、通し番号が振られているので全体が一つの物語のようである。(元々の原著は上下2巻本)
この章立ては実に79ある。(正典60を含む)


解説は1巻「序曲」、2巻「最初の事件」(ちくま文庫版では第1巻「グロリアスコット号」)に集中している。1~12までがそこに含まれる。13~19までの解説は適宜、正典の間に挟まれる形になる。
例えば有名な「まだらの紐」の後に「インドでもっとも危険な毒蛇」(18章)という章が置いてある。(ネタばれしていますが…このトリックはあまりに有名だから、まあ、いいか)この章では蛇には聴覚が無いということが語られている。「まだらの紐」の重要なトリックなのだがコナン・ドイルはこの事実をしらなかったらしい。インドの蛇使いは笛を使って蛇を躍らせる(ように見える)が、蛇にはそもそも聴覚がない。笛ではなくカゴに振動を加えることで蛇を意のままに動かすのだそうだ。(為になったねぇ~)

ホームズの空白時代(死んだふりして失踪していた4年間の“大空白時代”ではなく、その他の活動が見られなかった期間の事)のことを書いた「それに君は日付のことばかり言ってるが、それが最大の謎だね」(16章)や独自の三回結婚説について書いた「ところでワトソン君、女性は君の専門領域だ」(22章)。ワトソンの負傷の矛盾(「緋色の研究」でインドの戦争で肩を撃たれたと書かれていたのに、いつのころからか足が悪いことになっていた。BBC版のドラマ「シャーロック」でもワトソンは杖を使っている=ただこれは精神的な疾患と説明されている)を書いた「きみの手が古傷の方にそっと延びて行った」(34章)。等読み物としても面白い。というかコナン・ドイル、矛盾が多すぎるぞっ!。

全集として本編を読むことももちろんだが、独立した物語としてだけではなく連続したホームズ(ならびにワトソン)の人生の物語として読むことができる。本編を読んだことがある人ほど楽しめる造りになっている。絶版なのが本当に惜しい本である。

原著の出版が1960年代、東京図書による翻訳が80年代、ちくま文庫版が90年代ということで時々で参照書物の改訂がなされている。(東京図書版の21巻、ちくま文庫版の別巻11巻)ちくま文庫版からでも20年以上経過している。本文はともかく、参考書や新たに出てきた資料のアップデートを切に希望する。(手間暇が相当かかり、たいして儲からないとは思うが…)

シャーロック・ホームズ正典60編について、事件の発生した日時は明記されていない場合が多いのだが、古来(1910年代から)シャーロッキアンの人々が研究を重ね独自に発生日を特定している。これを年代学という。(そもそもそんなことをやる必要がある?)
その年のカレンダーの曜日、ワトソンとホームズの関係性、他の事件への言及、ワトソンの家庭状況(結婚している・していない)登場人物、はてはその日の天候などを調査して発生日を特定している。当然だが、人によって見解が違う。諸説あるということだ。

その成果の一つが前回扱ったウィリアム・ベアリング=グールドの大著「詳註版シャーロック・ホームズ全集」なのだが、独自路線が目立つ内容である。ただ、この翻訳(東京図書→ちくま文庫)のおかげで日本では比較的知られている説となっている。

一つ例を挙げる。前回の表で②「四つの署名」事件が③「ボヘミアの醜聞」事件より後の出来事となっていることにお気づきになったろうか。(①は「緋色の研究」数字は執筆順)

③「ボヘミアの醜聞」には日付の記載がある。「1888年3月20日」とはっきり記載されている。②「四つの署名」にははっきりした記載はないが、○○(とある出来事)から10年後との表現や「9月の夕方…」といった文章、届いた手紙の消印など(これにも問題があるのだが…後述する)から1887年9月7日の出来事だと思われる。この日付を信用すれば、②「四つの署名」の方が先の出来事と特定できるはずである。

①(81年3月)→②(87年9月)→③(88年3月)

ところが、である。ベアリング=グールドの説では③「ボヘミアの醜聞」を1987年5月22日。②「四つの署名」を1988年9月18日の出来事としているので、③「ボヘミアの醜聞」の方が先になるという。

①(81年3月)→③(87年5月)→②(88年9月)

②「四つの署名」を1888年9月とする根拠は同書②本文中に①「緋色の研究」についてホームズが批評している部分があるが、「緋色の研究」がビートンのクリスマス年鑑に掲載されたのが1887年12月なので、1887年9月の時点でホームズがそれを読むことはできなかったはず→これは1888年9月の出来事であるという理由である。(1年ズレている。ハッキリした年の記載がないため)

しかし、この説には大きな問題がある。
③「ボヘミアの醜聞」はホームズシリーズ最初の短編で、3番目に書かれた物語である。本文を読めばわかるが、③「ボヘミアの醜聞」事件の少し前から、ワトソンはベーカー街でのホームズとの同居を解消している(結婚したため)この時もたまたま、しかも久しぶり(同居解消してから一切連絡を取り合っていないのがわかる)に立ち寄ったら、事件にかかわることになったのだ。

(ここから先、盛大にネタバレしますので、未読の方は読まない方が良いかも…)

この結婚相手というのが問題で、普通に考えたらひとつ前の2番目に書かれた作品②「四つの署名」のなかで出会い、求婚したメアリー・モースタンというのが一般的な解釈だろう。そうなると当然、②「四つの署名」事件の後でないと結婚できない。

(①→②→結婚→③)

この点で③→②とするグールド説には矛盾がある。が、グールドはこの時点(③「ボヘミアの醜聞」)でワトソンは確かに結婚しているが、結婚しているのは一人目の相手(コンスタンス・アダムス)であると主張している。「四つの署名」の後二回目の結婚(メアリー・モースタン)をし、1903年に三回目の結婚(相手不明)をしたと主張している。(三回結婚説)

つまり、①→結婚(1回目)→③→②→結婚(2回目)ということである。

3回目の結婚についてはずいぶん後のことで、なおかつ本編にも言及がある(「白面の兵士」)ので謎はない。(ただ、メアリーとの別離については諸説ある。普通に考えて二回結婚説が順当、一回結婚説を主張する人もいる。ただ日本では三回結婚説が主流派なのだそうだ)
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河出文庫版 四つのサイン

なにゆえ本編の日付が信用できないか?
実はワトソン(コナン・ドイル)の記述にはたくさんの矛盾や書き間違いがあるのだが、ドイルは重版の際に修正を行っていない。(ホームズシリーズに愛着がない?途中でホームズを殺しさえしている)
シャーロッキアンは原理主義者でその矛盾にも意味を見出そうとする。(単なる書き間違えにも意味があるとする)いまだに研究材料(謎)に事欠かないのはそういう理由である。

「ボヘミアの醜聞」の日にちの矛盾
前述のように「ボヘミアの醜聞」の中には事件の日時がはっきり書かれている。「1888年3月20日」という日にちだが、実は実際のカレンダーと矛盾する。
1888年3月20日は火曜日である。だが、本文にはボヘミア王の婚約発表が月曜日にたいしてホームズは「まだ3日ある」と述べている。依頼をしているのが火曜日深夜だとして翌日の水曜日から数えても3日という日にちにはならない。
それで、シャーロッキアン間では、3月20日は書き間違いで3月22日(木曜日)だった。という見解が主流で定説である。
ハッキリ書いてあっても信用ならないのである。それで、諸説生まれることになる。


「四つの署名」の明らかな間違い

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ちくま文庫版上段左から三行目に7月7日の表示
前に四つの署名事件の日にちに対して問題があると書いたが、以下のような内容である。
依頼人のメアリー・モースタンに“今日”届いた手紙の消印が7月7日。内容は「今日某所まで来てほしい」というものであった。同日夕方その場所へと向かう馬車の中で9月の情景についての記述がある。7月なのか9月なのかはっきりしない。(どちらかが書き間違えだろう。現代日本の出版界では見過ごされないレベルの間違い)
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河出文庫版 左端の行に9月7日とある
オックスフォード版を底本とする河出書房新社版全集は消印の部分の本文を9月7日に訂正している。(註釈でコナン・ドイルの「あれは間違いだった」という内容の書簡を紹介している)が、それ以外の出版物はコンプリートシャーロックホームズも含めて7月7日表記である。これはコナン・ドイルが正式に修正していないからである。(こんなのばっかりである)
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河出文庫版の註釈 16

ジェームスって誰?
もう一つだけ例を引こう。第一短編集『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている「唇のねじれた男」の中で、ワトソンの奥さんが友人にたいして「(プライベートな話ならば)ジェームスには隣に行ってもらおうか?」と言っている部分がある。(角川文庫版では固有名詞を出さずに「うちの人」という訳になっている=ジェームスが間違いだと知っていてやや苦しい訳になっている)
ご存じの通りワトソンはジョン・H・ワトソンであり、ジェームスではない。これも、単純な書き間違いだと考えられるが、シャーロッキアンはそうは思わない。
無理やりに理由をみつけて納得しようとする。ここではミドルネームのHを「ヘイミッシュ (Hamish)」であるとし、その英語読みであるジェームスを使ったとする説である。ファーストネームで呼ばない方に違和感があるのだが、それには別の理由があるのだそうだ。(ここでは触れない)

年代学を楽しめるようになったら、あなたも立派なシャーロッキアン?


おわり

(前回の続き、このネタは次回で終了)

手に入れにくい「詳註版シャーロック・ホームズ全集」の入手の裏技

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ちくま文庫版1巻

ちくま文庫版は絶版になってから20年以上経ち、中古市場で買うしかないのだが、1冊あたり1,000円から8,000円程度の(中には10,000円を超えるものもある)価格がついている。(後半の方がレアなような気がする)
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ちくま文庫版2巻
全部で10巻と別巻が1冊で11冊(前にも書いたが出版順でなく事件の発生順に編集されており、間に長文の解説が挟まれている関係で、通常、9巻の正典が10巻になっている。別巻は総合索引)になるが、11冊セットの価格は35,000円から55,000円程度の価格がついている。なかなか買える価格ではない。

ベアリング=グールドの「詳註版シャーロック・ホームズ全集」は実はちくま文庫版が初出ではない。単行本として東京図書から全21巻で出版されていたものを文庫化したのがその実体である。
文庫版の前書きに小池滋氏が書いているが、内容は東京図書版とほぼ同じで、別巻だけが新たに編集され、参考書籍類も改訂されたようだ。
ということでちくま文庫版が高値なら東京図書版をさがす手もあるといいうことだ。(単行本のため版面サイズにも余裕がある)
ヤフオクなどを見ていると、1冊100円(送料別)から出品されているようだ。
ただ、内容は同じとはいえ上記のように巻立てが異なっている。つまり全巻で21冊買わなければならないということで、探す(揃える)手間が倍かかる。

ちくま文庫版同様ベアリング=グールドの設定した発生順にならび、解説だけの巻があったりするが、おおむね長編は1巻で、短編は3~5話で1巻という構成をとっている。紙面の都合だと思うが、ちくま文庫版と切れ目が違う巻が数巻存在する。(4巻、13巻、15巻がそれに相当する下表、網掛で表示)

ちくま文庫

発生順

(邦題ハヤカワ文庫版)

東京書籍21

巻別タイトル

1

 

 

1

序曲

 

1

グロリア・スコット号事件

2

最初の事件

 

2

マスグレーブ家の儀典書

 

 

2

3

緋色の研究

3

緋色の研究

 

4

まだらの紐

4

まだらの紐

 

5

入院患者

 

 

 

6

未婚の貴族

 

 

3

7

第二の血痕

 

 

 

8

ボヘミア国王の醜聞

5

ボヘミアの醜聞

 

8

ライゲートの大地主

 

 

 

9

唇のねじれた男

 

 

 

10

五つのオレンジの種

 

 

 

11

消えた花婿

6

赤毛連盟

 

12

赤毛連盟

 

 

 

13

瀕死の探偵

 

 

 

14

青いガーネット

 

 

4

15

恐怖の谷

7

恐怖の谷(上)

 

16

黄色い顔

8

恐怖の谷(下)

 

17

ギリシャ語通訳

 

 

5

18

四つの署名

9

四つの署名

 

19

バスカヴィル家の犬

10

バスカヴィル家の犬

6

20

ぶなの木荘

11

ボスコム谷の謎

 

21

ボスコム渓谷の謎

 

 

 

22

株式仲買店の店員

 

 

 

23

海軍条約文書

 

 

 

24

ボール箱

12

ボール箱事件

 

25

技師の親指

 

 

 

26

背中の曲がった男

 

 

 

27

ウィスタリア荘

 

 

 

28

シルヴァー・ブレイズ号事件

13

最後の事件

7

29

緑柱石の宝冠

 

 

 

30

最後の事件

 

 

 

31

空家の怪事件

14

空き家の冒険

 

32

金縁の鼻眼鏡

 

 

 

33

三人の学生

 

 

 

34

孤独な自転車乗り

15

ブルースパディントンの設計図

 

35

ブラック・ピーター

 

 

 

36

ノーウッドの建築業者

 

 

8

37

ブルース=パーティントンの設計書

 

 

 

38

覆面の下宿人

16

サセックスの吸血鬼

 

39

サセックスの吸血鬼

 

 

 

40

スリー・クォーター失踪事件

 

 

 

41

アベ荘園

 

 

 

42

悪魔の足

 

 

 

43

踊る人形

17

踊る人形

 

44

隠居した絵具屋

 

 

 

45

チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン

 

 

 

46

六つのナポレオンの胸像

 

 

9

47

ソア・ブリッジ

18

ゾア橋事件

 

48

プライオリ・スクール

 

 

 

49

ショスコム荘

 

 

 

50

三人のガリデブ氏

 

 

 

51

フランシス・カーファックス姫の失踪

19

赤い輪

 

52

高名の依頼人

 

 

 

53

赤輪団

 

 

 

54

蒼白の兵士

 

 

10

56

三破風の家

20

マザリンの宝石

 

57

マザリンの宝石

 

 

 

58

這う男

 

 

 

59

ライオンのたてがみ

 

 

 

60

最後の挨拶

21

最後の挨拶


自分も揃えるならちくま文庫でそろえるのが良いとは思うが、高価な巻は(適宜)東京図書版で買おうかなとも思っている。
(そもそもレベルが下がったといわれる後期をそろえる必要があるのか?という問題もある)

(今回は非オーディオです)

シャーロック・ホームズ全集 註釈の違いについて
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文庫版の全集の中では、圧倒的な註釈の量を誇る「詳註版シャーロック・ホームズ全集」(ちくま文庫)はベアリング=グールド自身が註釈を書いている。シャーロッキアンの様々な説を偏りなく扱っている。(日本書紀のようだ=「一書に曰く」を列記する)当時の気象(天候)等まで参照する年代学のみならず、貨幣価値や風俗、地域性など、果てはホームズが耽溺していたヘロインの質と量の解説もある。
その中で自分がどうしても馴染めないのが、コナン・ドイル出版代理人説を唱えている人がいるということ。
シャーロック・ホームズはコナン・ドイルが生み出したキャラクターであることに間違いはないが、その人たちは、コナン・ドイルはワトソンから出版を託された人物に過ぎないという立場をとる。すなわち、文中の言のとおり文書を書いたのはワトソン(ワトソンは実在の人物)でコナン・ドイルはそれを仲介した人にすぎないというという立場である。ひいては、シャーロック・ホームズも実在していると考える。ワトソンはドイルといつどこで会っていたなどの研究をしている。大人の知的な遊びとしては面白いのかも知れないが、大の大人が大真面目にやる研究ではないと思う。(フィクションの構造を無視している。ホームズだけが特別なのはなぜ?)ベアリンググールドがそういう立場かどうかはわからないが、そういった立場の説もきちんと取り上げている。

微に入り細を穿つ註釈にはこういった内容もあった。

第一長編「緋色の研究」第一部のサブタイトル 
「元陸軍医ジョン・ワトソン博士の回顧録より復刻」
(Being a Reprint from the Reminiscences of John Watson, M.D.,Late of the Army Medical Department)
と、あるのに対し、元々の「回顧録」というものがどういう形式のものであったかを類推している。一般に存在が確認されていない(当たり前だ)ので私家出版だったのではないか云々。やっぱり大真面目に取り上げるものではない気がする。(フィクションはフィクション)
「緋色の研究」はコナン・ドイルのホームズシリーズ第一作(二作目以降を書くつもりだったかは疑問)でちょっと思わせぶりなサブタイトルをつけただけだと思う。それをまあ、ああだ、こうだと…これがシャーロッキアンという人々なのかもしれない。

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河出書房新社版「全集」も単行本版ではちくま文庫版を量的に大きく上回るヴォリュームの註釈となっている。ここでは図書館で借りた単行本版とちくま文庫版の註釈の違いをみてみたい。

「緋色の研究」(「緋色の習作」河出書房)の中で、ホームズをワトソンが同居するにあたり条件等を話し合う中でワトソンが喫煙する(「シップス」という銘柄を吸っている)と述べたことに関して、「シップス」の説明。

ちくま文庫版
「シップス」というのは「海軍煙草」とも称される、船乗りに好まれた強い煙草で、オロンテーズ号(戦地で負傷したワトソンが帰国する際、乗船した)で乗組員からもらったものだろう。ただ、これも一時的なものであった。として他の作品で別の煙草を吸っているのをホームズが指摘していることを根拠に述べている。(要約・シェリー・キーン女史の説)
河出書房版
「シップス」という煙草の説明はほぼ同じだがベアリング=グールドの著作(ちくま文庫版)を引いて、やや違う見解を示している。オロンテーズ号での帰国の途上では煙草を吸えるような体調ではなく、ここで、「シップス」を出したのは、「これから活動的な人間(ホームズの事)と生活を共にしていこうとするにあたり、船員の洗練された習慣を身に付けていることを述べることで適応性があることをホームズに伝えようとしているもの。としている。(要約)

引用もあるので河出書房版の方が倍くらいの分量になっている。

一般に言われているようにちくま文庫版はシャーロッキアン的で、書いてあることすべて(間違っていることも含め)に意味をもとめ、微に入り細を穿つような内容だが、河出書房版は書誌的で事柄に対する事実を細かく述べる内容である。例えば前回触れたが、ワトソンが経験した実在の戦闘(マイワンドの激戦)で誰と誰が戦い、戦死者が双方どれくらい出て、戦いの結果どうなったかを細かく解説する。ちなみにこれは「緋色の研究」の本編とは全く関係がない。従軍して負傷した事実だけが必要なのだ。

まあ、どちらもそこまで書く必要があるかというところまで書いている感はある。
読んでいるうちは面白いのだが、本編に集中したい人には邪魔になる。その点、河出書房版は註釈が巻末にまとめられているので気にせず読める。(ただ註釈を読みながらだと煩雑になる=一長一短)

どちらが良いかということに関しては「好み」としか言いようがないが、読んでいて面白いのはちくま文庫版の方だろうか。

どちらも手に入れにくいのだが、河出書房版は現行の文庫版でお茶を濁す方法もある。(お勧めしませんが)個人的には河出書房版の本編翻訳文が好みではなく、(ワトソンの「君」、「おまえ」、「おれ」、「ぼく」、「わたし」問題とは違う次元の嫌さ)その点でもちくま文庫版の方が良いと思う。

(手に入れにくい「詳註版シャーロック・ホームズ全集」入手の裏技については次回書きます)


前回記事の河出書房版単行本の価格について

今回、図書館で単行本版2種を借りて読んだが、その定価は「冒険」が4,000円(税別)「緋色の習作」が2,800円だった。確かに高校生が買える値段じゃあないかも。
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現在の9巻セット40,000円を超える価格というのも、プレミアというほどのものではないのかもしれない。(古書としては高いが、定価がもともと高かった)誰でも読めるようにという配慮は、あながち間違いではなかったのかもしれない。でもそれならば単行本も出版し続けてほしかった。(少なくとも電子書籍版は単行本版にしてほしかった)

(今回は非オーディオです)

数回前に「シャーロックホーム全集を読むなら」という記事を書いた。(2021年11月1日)
2022年現在、読むべき全集は角川文庫版かネット上の「コンプリートシャーロックホームズ」だと書いた。その結論に変わりはないのだが(角川文庫版はやはり読みやすい)、自分自身は少し変わった方向に進んで行っている。

その話の前に、前回の記事で触れなかった文庫全集について拾遺集的に扱ってみたい。
前回は絶版ものも含めて6社(角川、新潮、ハヤカワミステリ、ちくま、光文社、創芸推理)取り上げた。
その他、文庫を出版している主要な出版社には講談社、集英社、小学館、文春、幻冬舎、河出書房新社、中央公論社、徳間書店などがあるが、このうちシャーロック・ホームズ全集として全編翻訳しているのは河出書房新社の河出文庫だけだ。

意外なことに二大出版社の講談社(音羽系)と小学館(一ツ橋系)本体の文庫には全集がない。まあ、小学館はもともと文芸系の文庫に力を入れていないが…
それでも講談社文庫の方は70年代から80年代の頭にかけて「緋色の研究」「四つの署名」「バスカヴィル家の犬」「冒険」「回想」「帰還」「最後の挨拶」7冊47篇を出版していた。(「事件簿」と「恐怖の谷」が未訳。この47篇を1冊にしたシャーロック・ホームズ大全という出版形態もあった)翻訳は鮎川信夫。

集英社文庫では傑作選という名前で1冊出している。
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旧版の表紙 イラストは山下和美
傑作選というものの「冒険」の内半分の6編(ボヘミア王の醜聞、赤毛連盟、花婿の正体、六つのオレンジの種、唇のねじれた男、まだらの紐)を訳出したもので、なんとも中途半端。全部読みたい人にはお勧めできない。翻訳が中田耕治(アルフレッド・ベスター「虎よ!虎よ!」)なだけに惜しい。中田耕治による解説、コナン・ドイルの年譜。高橋克彦の鑑賞の手引き付き。これしか読まないのならよいかも知れない。(学校で指定図書にするような目的で編集された?)

全集を発行している河出文庫版は全9巻のハードカバーで出版されたものを文庫化したものである。
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文庫版と単行本版(図書館で借りた)

本来かなり詳細な註釈が付いていたが、文庫化にあたり、大幅に削られた(後述)単行本版は入手困難だが文庫版は(書店になくても)河出書房新社のネットショップで購入可能である。←多分、近所の書店に頼めば取り寄せてくれる。電子書籍版もあるらしい。(セコハン市場で、高値で買う必要はない。ちなみに単行本版は全9巻セットで40,000円を超えている)
翻訳がシャーロッキアンの小林司、東山あかねである。新潮文庫の延原訳に敬意をはらいつつ、独自の見解で翻訳をしている。
その最たるものが第一長編の書名。原著名A Study in Scarletは一般的に「緋色の研究」と訳されている。(延原訳がそうだった)こちらの版では「緋色の習作」と翻訳されている。シャーロッキアンとしての研究の成果で「緋色の習作」の方がふさわしいらしい。(「研究」は誤訳と書いている)
第二長編は大多数の翻訳が「四つの署名」だが、これも原著名The Sign of FourでSignはSignatureではないことに注意が必要である。Signatureは文字通り署名(サイン)の意味だ。Signは動詞では署名するという意味になるが、名詞では兆しや符合、合図の意味である。厳密にいうと「四つの署名」はおかしいということになる。河出文庫版は「四つのサイン」と原題をそのまま訳している。
第三長編のThe hound of the Baskervilles「バスカヴィル家の犬」に関しては「バスカヴィル家の猟犬」の方が正しいという見解を持っているが、より普及している延原訳に沿った名前を採用している。(自分が子供の頃は「バスカービルの魔犬」というタイトルだったような気がするが…)

今回いろいろ集めてみたが、角川文庫版の旧版(鈴木幸夫訳)の破壊力がすごい。

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なにしろ書名が「シァーロク・ホウムズの冒険」である。手元にあるのが昭和60年6月10日31版とのことで36年前に発行された文庫本である。(その時点で31版!)この頃でも十分に古い翻訳だったのではないだろうか。角川文庫の扉には不死鳥のマークがあるが、これは角川春樹時代のもの。(自分にとっては古い感じはしない)角川春樹が放逐された後、もとに戻った。
「ボヘミア国王の色沙汰」(「ボヘミアの醜聞」)のアイリーン・アドラーがアイリーニ・アドラア、ワトソンはウォトスンだ。(日暮雅通によると英国英語だとアイリーニが正しいそうだ。ただ本人の翻訳版=光文社文庫でもアイリーンと訳している。アドラー自身がアメリカ出身のため?)

冒頭の自分自身が向かっている方向について

普通に翻訳の違いを楽しむ方向で読んでいたが、だんだんそれに飽き足らなくなった。
その大きな要因が註釈の存在である。
文庫版の全集で註釈があるのは、光文社文庫、河出文庫、ちくま文庫で、左から順に註の量が増えていく。(右側に行くほど多い)
光文社文庫の註釈は訳者(日暮雅通)自身がつけたもので、最小限かつ的確なものだ。
たとえば「青いガーネット」の中にあるcommissionaire(コミッショネア)という単語に関して、延原訳と石田訳は守衛、鈴木訳ではメッセンジャー、日暮訳では便利屋と訳されている。光文社文庫の註釈は簡潔に説明している。曰く退役軍人を組織したもので文書の配達や警備など依頼された仕事をする。この職種の人物は他の短編にも登場しているが、ポイントは彼らが警官(もしくは郵便配達人)によく似た制服を着ていることだ。(「青いガーネット」では彼の姿をみて警察と勘違いして、暴漢たちが証拠品を残して逃亡する)
どの翻訳でも間違いではないと思うが、いろいろな仕事をするという意味で便利屋というのが一番正確だ。ただ、字面で便利屋と書くとややイメージが変わってしまうので、コミッショネアとルビをふった上、註釈で解説を加えていると思われる。(ちなみにコンプリートシャーロックホームズでは「退役軍人で、今は守衛やポーターなどの仕事をしている」と説明定な表現になっている)ちなみに「青いガーネット」の注釈の数は7個で1ページ程度の文字数である。

河出文庫のものはオックスフォード版の註釈を翻訳したもので前述のように文庫版で大幅に削られている。今回、単行本を図書館で借りることができたので、比較してみた。
第一長編の「緋色の習作」
単行本の注釈の数は385(!)である。これはちくま文庫版の184の倍以上という数である。単行本のほぼ半分は注釈というヴォリュームであった。ちなみに文庫版はわずか68である。しかも項目の内容も相当に減らされている。
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文庫版では3番目の「マイワンドの激戦」の項目(左端)は単行本では12番目。これはまだ本文2ページ目だがそれほど飛ばされている。(1ページの間に8項目カットされている)
「マイワンドの激戦」の説明文は文庫版は日付(1行)のみだが、単行本はほぼ1ページ使って、戦いの内容、戦死者の数など詳細に記述している。
これはもはや同じ注釈とは言えないのではないだろうか。
せっかく翻訳出版したものを文庫化する際にここまで削る意味が分からない。一応翻訳者の「文庫版によせて」という文章の中に削った理由が書いてはあるが…曰く「・・・今回は中・高生の方々にも気軽に親しんでいただきたいと考えて、註釈部分は簡略化して、さらに解説につきまして若干短くまとめたものを再録することにしました・・・」とある。
解説についても読んでみたが、文章の中ほどで数行にわたって削除されるというような「まとめ」方でこれは著者(オーウェン・ダドリーエドワーズ)に対して失礼なのではないだろうか。これで単行本が出版され続ければ問題は無いが、文庫版が出た時点で絶版になっている模様。現在は文庫版しか読めない状況である。(だから単行本がプレミア価格になる)

つづく



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