以下の内容はhttps://retroaudio.blog.jp/archives/2022-02.htmlより取得しました。


ずいぶん前に中華イヤホンのESTモデルCCA NRAの事を記事にした。静電型(ネットの表示は静磁気型)の中高音ユニットとダイナミックドライバのハイブリッドタイプで価格の安さで話題になった。

静電型(コンデンサー型)といえばSTAXの専用アンプが必要なヘッドフォンを思い出し、こんなコンパクト(筐体も、価格も)な静電型があってよいのかと思っていたが、(当然ながら)別物のようである。FitEarの静電型(EST Universal)はイヤホンタイプだが価格は143,000円。これも別物のようである。低価格なESTに興味津々というところだった。

その後、CCA NRAはなぜだかクラウドファンディングの商品となり(Japan Editionとは名ばかりの同じ商品)、ケースや安物チップを付属したものが倍くらいの価格で売り出された。
それは、別に「ご勝手に」という感じだが、あろうことか「独占」の名のもとに、日本ではクラウドファンディング以外で買うことができなくなった。(中国の直販サイトも日本向けの出荷を停止した)まあ、それも今から見ると数カ月のことで、しかも終わりの時期もネットの民は知っていた。(なんとなくだが…)
ただ、そのような独占契約を行ったKZに対して反発を感じる人も少なくなくて、禍根を残したといえるだろう。(自分はクラファン側の問題だと思っているが)

ずっと、CCA NRAに関心があり、買うならCCA(KZ ZEXではなく)の方だなと思っていたが、結局、KZ ZEXを買うことになった。つくづくCCAと縁が無いと感じている。(CCAの製品は一つも持っていない)
今回購入はヤフーショッピングでだった。ヤフーから2月の三連休まで使用可能な50%オフクーポン(上限1500円)を貰ったので、この機会にESTイヤホンを買ってみようかなと思ったのだ。
Amazonでの価格は安定して2000円台後半なのだが、ヤフーショッピングは個別のショップ販売なので3,000円から20,000円(!)まで様々な価格が付いていた。当初見ていた時はCCA NRAもKZ XEXもほぼ同価格で最低価格3100円程度(クーポン使用で1,600円程度の支払い)だった。
三連休が近くなってそろそろ使わなきゃと思って、チェックしていた店をみると、CCA NRAの価格が変動している。3,000円程度だった価格が3,700円程度まで上がっている。しかも、なぜか毎日変動している。特に最低価格で販売している店は毎日代わっていて、店名こそ違えど、店のサイトの作りが同一で同じ経営者(実質同じ店?)なのではないかと勘繰ってしまう。
安い価格で販売している店の評価はとても低くて、レビューを見ると「在庫が無いのに販売している」まあ、これはネットショップによくある販売形態(=在庫をもたない)だな、ふむふむ。と読み進むと「購入者都合でキャンセルされた」というコメントが多数あった。そんな店では買えないなあと思った。
KZ ZEXを販売しているショップは評価が高くて問題なさそうだったので、結局そちらを購入した(やはりCCAには縁がない)日曜日に購入して火曜日には到着した。連絡もスムーズで良い店だった。
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今回、購入して箱の小ささに驚いた。手元にあったZAXの箱と比べると二回り小さい感じになった。箱の厚みがあると特定の送付手段が使用できなくなるので配慮したのかもしれない。

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内容物に関してはいつもの最小限の替えチップ(白色のペラペラタイプ)と白色のケーブルだがこれは使用しないであろう。
本体の外側のフェイスプレートは亜鉛合金だが内側が透明なプラなので中見が良く見える。通常ダイナミックドライバが見える位置に静磁気ユニットが鎮座しているがそれに向かう配線が手作り感満載なヘニャヘニャ配線でやや萎える。(いや、実用上全く問題はありませんよ)
静磁気ユニットのせいか、やや筐体の厚みが厚いがこれも実用上問題ないレベル。
質感は通常のKZ同様悪くはない。軽く聞いた感じも好ましいものだった。

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果たしてこれが価格なりなのか、価格を超えたものなのか、次回じっくり聞いてみたい。

つづく

シャーロック・ホームズ正典60編について、事件の発生した日時は明記されていない場合が多いのだが、古来(1910年代から)シャーロッキアンの人々が研究を重ね独自に発生日を特定している。これを年代学という。(そもそもそんなことをやる必要がある?)
その年のカレンダーの曜日、ワトソンとホームズの関係性、他の事件への言及、ワトソンの家庭状況(結婚している・していない)登場人物、はてはその日の天候などを調査して発生日を特定している。当然だが、人によって見解が違う。諸説あるということだ。

その成果の一つが前回扱ったウィリアム・ベアリング=グールドの大著「詳註版シャーロック・ホームズ全集」なのだが、独自路線が目立つ内容である。ただ、この翻訳(東京図書→ちくま文庫)のおかげで日本では比較的知られている説となっている。

一つ例を挙げる。前回の表で②「四つの署名」事件が③「ボヘミアの醜聞」事件より後の出来事となっていることにお気づきになったろうか。(①は「緋色の研究」数字は執筆順)

③「ボヘミアの醜聞」には日付の記載がある。「1888年3月20日」とはっきり記載されている。②「四つの署名」にははっきりした記載はないが、○○(とある出来事)から10年後との表現や「9月の夕方…」といった文章、届いた手紙の消印など(これにも問題があるのだが…後述する)から1887年9月7日の出来事だと思われる。この日付を信用すれば、②「四つの署名」の方が先の出来事と特定できるはずである。

①(81年3月)→②(87年9月)→③(88年3月)

ところが、である。ベアリング=グールドの説では③「ボヘミアの醜聞」を1987年5月22日。②「四つの署名」を1988年9月18日の出来事としているので、③「ボヘミアの醜聞」の方が先になるという。

①(81年3月)→③(87年5月)→②(88年9月)

②「四つの署名」を1888年9月とする根拠は同書②本文中に①「緋色の研究」についてホームズが批評している部分があるが、「緋色の研究」がビートンのクリスマス年鑑に掲載されたのが1887年12月なので、1887年9月の時点でホームズがそれを読むことはできなかったはず→これは1888年9月の出来事であるという理由である。(1年ズレている。ハッキリした年の記載がないため)

しかし、この説には大きな問題がある。
③「ボヘミアの醜聞」はホームズシリーズ最初の短編で、3番目に書かれた物語である。本文を読めばわかるが、③「ボヘミアの醜聞」事件の少し前から、ワトソンはベーカー街でのホームズとの同居を解消している(結婚したため)この時もたまたま、しかも久しぶり(同居解消してから一切連絡を取り合っていないのがわかる)に立ち寄ったら、事件にかかわることになったのだ。

(ここから先、盛大にネタバレしますので、未読の方は読まない方が良いかも…)

この結婚相手というのが問題で、普通に考えたらひとつ前の2番目に書かれた作品②「四つの署名」のなかで出会い、求婚したメアリー・モースタンというのが一般的な解釈だろう。そうなると当然、②「四つの署名」事件の後でないと結婚できない。

(①→②→結婚→③)

この点で③→②とするグールド説には矛盾がある。が、グールドはこの時点(③「ボヘミアの醜聞」)でワトソンは確かに結婚しているが、結婚しているのは一人目の相手(コンスタンス・アダムス)であると主張している。「四つの署名」の後二回目の結婚(メアリー・モースタン)をし、1903年に三回目の結婚(相手不明)をしたと主張している。(三回結婚説)

つまり、①→結婚(1回目)→③→②→結婚(2回目)ということである。

3回目の結婚についてはずいぶん後のことで、なおかつ本編にも言及がある(「白面の兵士」)ので謎はない。(ただ、メアリーとの別離については諸説ある。普通に考えて二回結婚説が順当、一回結婚説を主張する人もいる。ただ日本では三回結婚説が主流派なのだそうだ)
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河出文庫版 四つのサイン

なにゆえ本編の日付が信用できないか?
実はワトソン(コナン・ドイル)の記述にはたくさんの矛盾や書き間違いがあるのだが、ドイルは重版の際に修正を行っていない。(ホームズシリーズに愛着がない?途中でホームズを殺しさえしている)
シャーロッキアンは原理主義者でその矛盾にも意味を見出そうとする。(単なる書き間違えにも意味があるとする)いまだに研究材料(謎)に事欠かないのはそういう理由である。

「ボヘミアの醜聞」の日にちの矛盾
前述のように「ボヘミアの醜聞」の中には事件の日時がはっきり書かれている。「1888年3月20日」という日にちだが、実は実際のカレンダーと矛盾する。
1888年3月20日は火曜日である。だが、本文にはボヘミア王の婚約発表が月曜日にたいしてホームズは「まだ3日ある」と述べている。依頼をしているのが火曜日深夜だとして翌日の水曜日から数えても3日という日にちにはならない。
それで、シャーロッキアン間では、3月20日は書き間違いで3月22日(木曜日)だった。という見解が主流で定説である。
ハッキリ書いてあっても信用ならないのである。それで、諸説生まれることになる。


「四つの署名」の明らかな間違い

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ちくま文庫版上段左から三行目に7月7日の表示
前に四つの署名事件の日にちに対して問題があると書いたが、以下のような内容である。
依頼人のメアリー・モースタンに“今日”届いた手紙の消印が7月7日。内容は「今日某所まで来てほしい」というものであった。同日夕方その場所へと向かう馬車の中で9月の情景についての記述がある。7月なのか9月なのかはっきりしない。(どちらかが書き間違えだろう。現代日本の出版界では見過ごされないレベルの間違い)
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河出文庫版 左端の行に9月7日とある
オックスフォード版を底本とする河出書房新社版全集は消印の部分の本文を9月7日に訂正している。(註釈でコナン・ドイルの「あれは間違いだった」という内容の書簡を紹介している)が、それ以外の出版物はコンプリートシャーロックホームズも含めて7月7日表記である。これはコナン・ドイルが正式に修正していないからである。(こんなのばっかりである)
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河出文庫版の註釈 16

ジェームスって誰?
もう一つだけ例を引こう。第一短編集『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている「唇のねじれた男」の中で、ワトソンの奥さんが友人にたいして「(プライベートな話ならば)ジェームスには隣に行ってもらおうか?」と言っている部分がある。(角川文庫版では固有名詞を出さずに「うちの人」という訳になっている=ジェームスが間違いだと知っていてやや苦しい訳になっている)
ご存じの通りワトソンはジョン・H・ワトソンであり、ジェームスではない。これも、単純な書き間違いだと考えられるが、シャーロッキアンはそうは思わない。
無理やりに理由をみつけて納得しようとする。ここではミドルネームのHを「ヘイミッシュ (Hamish)」であるとし、その英語読みであるジェームスを使ったとする説である。ファーストネームで呼ばない方に違和感があるのだが、それには別の理由があるのだそうだ。(ここでは触れない)

年代学を楽しめるようになったら、あなたも立派なシャーロッキアン?


おわり

(前回の続き、このネタは次回で終了)

手に入れにくい「詳註版シャーロック・ホームズ全集」の入手の裏技

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ちくま文庫版1巻

ちくま文庫版は絶版になってから20年以上経ち、中古市場で買うしかないのだが、1冊あたり1,000円から8,000円程度の(中には10,000円を超えるものもある)価格がついている。(後半の方がレアなような気がする)
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ちくま文庫版2巻
全部で10巻と別巻が1冊で11冊(前にも書いたが出版順でなく事件の発生順に編集されており、間に長文の解説が挟まれている関係で、通常、9巻の正典が10巻になっている。別巻は総合索引)になるが、11冊セットの価格は35,000円から55,000円程度の価格がついている。なかなか買える価格ではない。

ベアリング=グールドの「詳註版シャーロック・ホームズ全集」は実はちくま文庫版が初出ではない。単行本として東京図書から全21巻で出版されていたものを文庫化したのがその実体である。
文庫版の前書きに小池滋氏が書いているが、内容は東京図書版とほぼ同じで、別巻だけが新たに編集され、参考書籍類も改訂されたようだ。
ということでちくま文庫版が高値なら東京図書版をさがす手もあるといいうことだ。(単行本のため版面サイズにも余裕がある)
ヤフオクなどを見ていると、1冊100円(送料別)から出品されているようだ。
ただ、内容は同じとはいえ上記のように巻立てが異なっている。つまり全巻で21冊買わなければならないということで、探す(揃える)手間が倍かかる。

ちくま文庫版同様ベアリング=グールドの設定した発生順にならび、解説だけの巻があったりするが、おおむね長編は1巻で、短編は3~5話で1巻という構成をとっている。紙面の都合だと思うが、ちくま文庫版と切れ目が違う巻が数巻存在する。(4巻、13巻、15巻がそれに相当する下表、網掛で表示)

ちくま文庫

発生順

(邦題ハヤカワ文庫版)

東京書籍21

巻別タイトル

1

 

 

1

序曲

 

1

グロリア・スコット号事件

2

最初の事件

 

2

マスグレーブ家の儀典書

 

 

2

3

緋色の研究

3

緋色の研究

 

4

まだらの紐

4

まだらの紐

 

5

入院患者

 

 

 

6

未婚の貴族

 

 

3

7

第二の血痕

 

 

 

8

ボヘミア国王の醜聞

5

ボヘミアの醜聞

 

8

ライゲートの大地主

 

 

 

9

唇のねじれた男

 

 

 

10

五つのオレンジの種

 

 

 

11

消えた花婿

6

赤毛連盟

 

12

赤毛連盟

 

 

 

13

瀕死の探偵

 

 

 

14

青いガーネット

 

 

4

15

恐怖の谷

7

恐怖の谷(上)

 

16

黄色い顔

8

恐怖の谷(下)

 

17

ギリシャ語通訳

 

 

5

18

四つの署名

9

四つの署名

 

19

バスカヴィル家の犬

10

バスカヴィル家の犬

6

20

ぶなの木荘

11

ボスコム谷の謎

 

21

ボスコム渓谷の謎

 

 

 

22

株式仲買店の店員

 

 

 

23

海軍条約文書

 

 

 

24

ボール箱

12

ボール箱事件

 

25

技師の親指

 

 

 

26

背中の曲がった男

 

 

 

27

ウィスタリア荘

 

 

 

28

シルヴァー・ブレイズ号事件

13

最後の事件

7

29

緑柱石の宝冠

 

 

 

30

最後の事件

 

 

 

31

空家の怪事件

14

空き家の冒険

 

32

金縁の鼻眼鏡

 

 

 

33

三人の学生

 

 

 

34

孤独な自転車乗り

15

ブルースパディントンの設計図

 

35

ブラック・ピーター

 

 

 

36

ノーウッドの建築業者

 

 

8

37

ブルース=パーティントンの設計書

 

 

 

38

覆面の下宿人

16

サセックスの吸血鬼

 

39

サセックスの吸血鬼

 

 

 

40

スリー・クォーター失踪事件

 

 

 

41

アベ荘園

 

 

 

42

悪魔の足

 

 

 

43

踊る人形

17

踊る人形

 

44

隠居した絵具屋

 

 

 

45

チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン

 

 

 

46

六つのナポレオンの胸像

 

 

9

47

ソア・ブリッジ

18

ゾア橋事件

 

48

プライオリ・スクール

 

 

 

49

ショスコム荘

 

 

 

50

三人のガリデブ氏

 

 

 

51

フランシス・カーファックス姫の失踪

19

赤い輪

 

52

高名の依頼人

 

 

 

53

赤輪団

 

 

 

54

蒼白の兵士

 

 

10

56

三破風の家

20

マザリンの宝石

 

57

マザリンの宝石

 

 

 

58

這う男

 

 

 

59

ライオンのたてがみ

 

 

 

60

最後の挨拶

21

最後の挨拶


自分も揃えるならちくま文庫でそろえるのが良いとは思うが、高価な巻は(適宜)東京図書版で買おうかなとも思っている。
(そもそもレベルが下がったといわれる後期をそろえる必要があるのか?という問題もある)

(今回は非オーディオです)

シャーロック・ホームズ全集 註釈の違いについて
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文庫版の全集の中では、圧倒的な註釈の量を誇る「詳註版シャーロック・ホームズ全集」(ちくま文庫)はベアリング=グールド自身が註釈を書いている。シャーロッキアンの様々な説を偏りなく扱っている。(日本書紀のようだ=「一書に曰く」を列記する)当時の気象(天候)等まで参照する年代学のみならず、貨幣価値や風俗、地域性など、果てはホームズが耽溺していたヘロインの質と量の解説もある。
その中で自分がどうしても馴染めないのが、コナン・ドイル出版代理人説を唱えている人がいるということ。
シャーロック・ホームズはコナン・ドイルが生み出したキャラクターであることに間違いはないが、その人たちは、コナン・ドイルはワトソンから出版を託された人物に過ぎないという立場をとる。すなわち、文中の言のとおり文書を書いたのはワトソン(ワトソンは実在の人物)でコナン・ドイルはそれを仲介した人にすぎないというという立場である。ひいては、シャーロック・ホームズも実在していると考える。ワトソンはドイルといつどこで会っていたなどの研究をしている。大人の知的な遊びとしては面白いのかも知れないが、大の大人が大真面目にやる研究ではないと思う。(フィクションの構造を無視している。ホームズだけが特別なのはなぜ?)ベアリンググールドがそういう立場かどうかはわからないが、そういった立場の説もきちんと取り上げている。

微に入り細を穿つ註釈にはこういった内容もあった。

第一長編「緋色の研究」第一部のサブタイトル 
「元陸軍医ジョン・ワトソン博士の回顧録より復刻」
(Being a Reprint from the Reminiscences of John Watson, M.D.,Late of the Army Medical Department)
と、あるのに対し、元々の「回顧録」というものがどういう形式のものであったかを類推している。一般に存在が確認されていない(当たり前だ)ので私家出版だったのではないか云々。やっぱり大真面目に取り上げるものではない気がする。(フィクションはフィクション)
「緋色の研究」はコナン・ドイルのホームズシリーズ第一作(二作目以降を書くつもりだったかは疑問)でちょっと思わせぶりなサブタイトルをつけただけだと思う。それをまあ、ああだ、こうだと…これがシャーロッキアンという人々なのかもしれない。

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河出書房新社版「全集」も単行本版ではちくま文庫版を量的に大きく上回るヴォリュームの註釈となっている。ここでは図書館で借りた単行本版とちくま文庫版の註釈の違いをみてみたい。

「緋色の研究」(「緋色の習作」河出書房)の中で、ホームズをワトソンが同居するにあたり条件等を話し合う中でワトソンが喫煙する(「シップス」という銘柄を吸っている)と述べたことに関して、「シップス」の説明。

ちくま文庫版
「シップス」というのは「海軍煙草」とも称される、船乗りに好まれた強い煙草で、オロンテーズ号(戦地で負傷したワトソンが帰国する際、乗船した)で乗組員からもらったものだろう。ただ、これも一時的なものであった。として他の作品で別の煙草を吸っているのをホームズが指摘していることを根拠に述べている。(要約・シェリー・キーン女史の説)
河出書房版
「シップス」という煙草の説明はほぼ同じだがベアリング=グールドの著作(ちくま文庫版)を引いて、やや違う見解を示している。オロンテーズ号での帰国の途上では煙草を吸えるような体調ではなく、ここで、「シップス」を出したのは、「これから活動的な人間(ホームズの事)と生活を共にしていこうとするにあたり、船員の洗練された習慣を身に付けていることを述べることで適応性があることをホームズに伝えようとしているもの。としている。(要約)

引用もあるので河出書房版の方が倍くらいの分量になっている。

一般に言われているようにちくま文庫版はシャーロッキアン的で、書いてあることすべて(間違っていることも含め)に意味をもとめ、微に入り細を穿つような内容だが、河出書房版は書誌的で事柄に対する事実を細かく述べる内容である。例えば前回触れたが、ワトソンが経験した実在の戦闘(マイワンドの激戦)で誰と誰が戦い、戦死者が双方どれくらい出て、戦いの結果どうなったかを細かく解説する。ちなみにこれは「緋色の研究」の本編とは全く関係がない。従軍して負傷した事実だけが必要なのだ。

まあ、どちらもそこまで書く必要があるかというところまで書いている感はある。
読んでいるうちは面白いのだが、本編に集中したい人には邪魔になる。その点、河出書房版は註釈が巻末にまとめられているので気にせず読める。(ただ註釈を読みながらだと煩雑になる=一長一短)

どちらが良いかということに関しては「好み」としか言いようがないが、読んでいて面白いのはちくま文庫版の方だろうか。

どちらも手に入れにくいのだが、河出書房版は現行の文庫版でお茶を濁す方法もある。(お勧めしませんが)個人的には河出書房版の本編翻訳文が好みではなく、(ワトソンの「君」、「おまえ」、「おれ」、「ぼく」、「わたし」問題とは違う次元の嫌さ)その点でもちくま文庫版の方が良いと思う。

(手に入れにくい「詳註版シャーロック・ホームズ全集」入手の裏技については次回書きます)


前回記事の河出書房版単行本の価格について

今回、図書館で単行本版2種を借りて読んだが、その定価は「冒険」が4,000円(税別)「緋色の習作」が2,800円だった。確かに高校生が買える値段じゃあないかも。
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現在の9巻セット40,000円を超える価格というのも、プレミアというほどのものではないのかもしれない。(古書としては高いが、定価がもともと高かった)誰でも読めるようにという配慮は、あながち間違いではなかったのかもしれない。でもそれならば単行本も出版し続けてほしかった。(少なくとも電子書籍版は単行本版にしてほしかった)



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