2023年の4月から「源氏物語」をオンラインで学んでいる。毎月2回の講座で、原則ひと月に1巻ずつ、長い巻はもう少し時間をかけて読み進んでいくのだが、今ちょうど梅の美しい頃に、第三十二帖「梅枝」を読み終わった。源氏物語は全五十四帖なので、ようやく真ん中あたりを過ぎたところだ。
源氏物語の魅力はストーリー性、個性豊かな登場人物など様々あるが、私は日本の伝統文化に彩られた、平安貴族たちの雅な暮らしぶりに大いに惹かれる。和歌、雅楽、舞、お香、書、そして和菓子。
前に、第九帖「葵」の巻に出てくる「亥の子餅」を作った話を書いた。
今回は第三十四帖「若菜上」に出てくる「椿餅」を作ってみようと思う。椿餅は2月の季節菓子で、平安時代から続く日本最古級の和菓子と言われているが、若菜上の巻では若い貴族たちが蹴鞠(けまり)を楽しんだ後に食べるおやつとして登場する。
椿餅(つばいもちい)や梨、みかんといった食べものが、箱の蓋にいろいろと無造作に置かれているのを、若い人々ははしゃぎながら取って食べている。(「源氏物語」角田光代訳)
時代は変われど、ひと運動した後の若者たちの晴れやかな笑顔、にぎやかな雰囲気が伝わってくる。しかし、なぜ蹴鞠の後に椿餅なのか。蹴鞠の毬は鹿革で作られている。獣の皮は不浄とされるので、邪気祓いのために、破邪の木である椿の葉で包んだ椿餅を食べたというのだ。何気ない場面だけど、その深い意味を知ると大変興味深い。
中にあんこを入れるようになったのは江戸時代中期からで、平安時代にはまだ「小豆餡」はなく、甘葛(あまずら)というツタの樹液を煮詰めたものを加えていたそうだ。メープルシロップのようなものかな?
私も平安風にあんこは入れないことにした。その代わり玄米水飴でほんのり甘くするというアイデアはどうだろうか。

道明寺粉に水を加えて10分ぐらいおく。ふやけたら、よく絞った濡れ布巾に包んで蒸し器で蒸す。

蒸し上がったらボウルに入れて、塩ひとつまみと玄米水飴を少しだけ加えてみた。想像するに、平安時代の甘さもきっとほんのり甘いぐらいだったのじゃないかな。俵型に丸めたら6個できた。
椿の葉っぱで上下包んだらできあがり。葉っぱのおかげで、丸めただけの餅がいきなり上品な佇まいに。さすが古来から霊力が宿るとされた椿マジックだ。

椿は髪用の椿油が有名だが、葉っぱにも油分があって、葉っぱで包むことによって餅が乾燥するのを防ぐ効果があるそうだ。こうした当時の人々の暮らしの知恵にはいつも驚かされる。
そう言えば、昨年石見銀山に旅行した時に「椿窯」に立ち寄ったことを思い出した。その時、椿の花が描かれた茶碗や小皿などを買ったんだっけ。
椿のお皿に椿餅をのせてみたら、赤い花と緑の葉っぱのコントラストで、なかなかいい感じに!

葉っぱを持てば手が汚れないので、蹴鞠の後に気軽につまむにはぴったりだったのかも。(葉っぱは食べられません!)
余談ですが、先日精進料理を食べに行ったら、椿の花の天ぷらが出てきて感動した。椿の花が食べられることは知識としては知っていたけど、臆病な私はなかなか自分で天ぷらにする勇気はなくて、、。でもお店で出されたのなら安心だ。

美しい春の恵みの天ぷら。椿の花、蕗の薹、栗、銀杏、大葉などに、パセリ塩をかけていただいた。サクサクしてとても美味しかった。
若菜上の巻で、41歳の光源氏は蹴鞠もせず、椿餅も食べない。はしゃぐ若者たちを穏やかに見つめるだけだ。椿は冬に花を咲かせ、緑の葉が落ちないことから、生命力の象徴として描かれることが多いが、同時に花首からポトリと落ちるので、「死」を連想させる。
ここで登場する椿餅が、光源氏の「老い」や「死の影(終焉)」を暗示しているという解釈もあるそうだ。そう言えば、若い柏木も椿餅を食べなかったな。柏木は、第三十六帖「柏木」の巻で死ぬんだった。怖い怖い。
3月は「藤裏葉」、そして4月はいよいよ怒涛の展開の始まり「若菜上」に入る。椿餅の予習はしてあるし、今から楽しみだ。