このエントリは2024年legalAC番外編の記事です。
M&A案件で法律事務所の選定プロセスを紹介する。常にこのプロセスを踏んでいるわけではないが、気合を入れて選定するときはこんな感じでやっている。
(付き合いの深い外部弁護士と話し合ってこんなやり方・フォーマットを整理したものである。もし、皆さんの所属先企業で別の方法を採っている場合や、外部弁護士の立場から、こんな方法は困るとかこうして欲しいという点があれば、コメントをいただけたら嬉しい。)
1.見積りを依頼する事務所を選ぶ
相見積を依頼すると言っても、多数の事務所に総当たりするわけにはいかない。手間がかかり過ぎるし、弁護士相手とはいえ情報漏洩リスクも一応考慮せざるを得ない。私の場合は、見積りを依頼するのは最大で3事務所程度。
見積り依頼先を選定する際も色々と検討が必要で、これだけで記事が一本書けてしまうが、今回は割愛する。少なくとも、起用候補や候補を紹介してくれそうな弁護士が複数頭に浮かぶよう、日頃からの関係性作りが重要かもしれない。
2.見積り依頼書を作る
これが今回のメインテーマである。複数の事務所から有意義かつ比較可能な見積りをもらうためには、各事務所にインプットする情報の必要十分性と均質性が必要だ。必要十分性は、事務所の提案内容に利いてくる要素を過不足なく伝えるということ、均質性は各事務所に渡す情報を揃えるということだ。
(1) 検討されているM&A取引の内容
買収対象会社の事業内容・規模、取引に関与する各プレーヤーの情報、自社にとっての取引の目的、想定される取引態様(オークションかどうかなど)といった案件の基本情報を書く。
サラッと言ったが、取引段階が進む前の時点では、買収対象会社の情報が足りないことも珍しくない。例えば、どの国にどんな拠点があるかは費用やチームアップの見積りに大いに影響する要素だが、初期段階では全容を把握できないことがある。もちろん、IM等をもらっていれば利用できるが、それでも全体像は分からないことが多いので、次に説明するとおり、足りない情報は仮定を置くのが基本だ。
(2) 取引プロセスの想定
取引の内容で書いたこと以外の、見積りの前提となる情報として想定される取引プロセスを書く。M&Aは、基本的にアワリーチャージとなるが、予め作業量を見積もることはほぼ不可能なので、仮定の前提を置いて見積もってもらう。例えば取引フェーズを適宜に分けてそれぞれの前提をおくとして、DA締結ならこんな感じ。
「DA締結フェーズ:2ヵ月・SPA(相手側ドラフト70ページ)、キーパーソンのretention agreement(当社ドラフト、20ページ×2)・現地交渉@London2日×2回・同行希望・リモート交渉2時間×3回、社内打合せ2時間×7回(全てリモート)」
その他、regulatory filingの有無・対象国なども忘れずに。
いつも悩むのかDDのボリュームの書き方だ。スコープを相当限定する場合は別として、結局のところDDの作業量は開示される情報量次第なので。書く内容に困るようであれば、最初に声がけする候補先と打合せし、どういう想定を置くべきか一緒に考えてもらうのがいい。そこで整理したものと同じ条件で別の候補にも見積依頼をするのだ。
なお、上記のように見積はフェーズごとに出してもらうのがいい。案件の進捗に応じて費用の発生具合と想定とのずれ具合を確認しながら進めることができるためだが、これについては後述する。
(3) チーミング
主なメンバーとその時間単価を記載してもらう。
メンバーについては、例えば、経営最上位層幹部も関与するような案件であれば、幹部に対してもものが言える/幹部に話を聞いてもらえるよう、「重し」になるような経験豊富なパートナーを選ぶ場合がある。このような点は、実際には見積依頼先選定の段階で考慮済みであることが通常だが、必要な場合は明確に希望を伝える。同様に、過去案件などで評価のよかったシニアアソシエイトがいる場合も、可能であればチームに入れてもらいたい旨を伝える。もちろん事務所の都合もあるので希望が通らなくても文句言わない。
グローバルファームであれば、日本/事務所本拠地国/対象国など、どの拠点のチームにどのような関与をしてもらいたいかもイメージを伝えた方が良い。例えば、日本チームをフル活用してクライアント側での時差/言語のストレスを無くしたい場合もあれば、実力の高い本拠地国のチームと直接やり取りする体制にし日本チームの関与はほぼ不要、という場合もある*1。
(4) 事務所のアピールの依頼
案件の内容に応じた事務所のアピールも記載してもらうよう依頼する。
例えば、類似案件・対象企業の業界での対応実績や予想される特定の論点への対応能力(例えばCFIUS対応がネックになりそうな時は実績あるロビイストが使えるとか)を書いてもらう。
特に、初めて起用する事務所であれば、社内で選定理由を丁寧に示す必要があり、そのネタをもらうのは重要である。海外の事務所については日本企業案件の実績も聞くと良いかもしれない。メジャーな日本企業との実績があれば、社内の安心感を得ることができる。ただ、単に一国の競争法届出を担当しただけなのに、日本企業との実績多数とアピールしてくる事務所もあるので、中身には注意が必要だ。
3. 起用事務所を選定する
コンフリクトチェックをクリアし見積りが出揃ったら事務所を選ぶ。この時、当然金額感は念頭に置くが、それで判断することは少ない。
案件への対応能力や、主担当の弁護士とのやりやすさ(どんなに優秀な人でも、私自身を含む自社側のメンバーと何かしら合わない場合は選びにくい)などを主として考慮する。海外の弁護士では英語の分かりやすさ(アクセントや話すスピード、回りくどさ)も切実に重要なポイントとなり得る。何より自分が「この人と電話で英語で議論するのキッツイなぁ」と思う場合は慎重に考える。
金額面では、主に実動するメンバーやアソシエイトの時間単価に大きく差がある場合などは考慮することがある。
依頼部門には、前提の変動により、金額も大きく変動することを明示した上で、費用感を伝える。金額に不満が出た場合は、基本的には金額の合理性を説明して納得してもらうよう努めるが、マジで金がない部門については、予算枠を考慮して、起用の仕方を工夫・相談する(もちろん、予算の制約が厳しい場合は、出せる金額を予め聞いた上で、その範囲でできることを候補先に相談する)。
なお、選定は素早く行い、決めたらなるべく早く各候補に結果を連絡すべきである。その際、落選した候補に対しても、見積りプロセスへの協力いただいたことに丁寧に感謝を述べるのは当然である。
4. 見積書を活用したコストマネジメント
案件進行中は定期的に費用の発生状況、案件の進捗、見積り金額を見比べて、費用をコントロールする。具体的には、依頼部門に追加予算の確保をお願いしたり、事務所に費用を抑制するような進め方を相談したりする。基本的に、見積り以上に費用がかかったからと言ってディスカウントをお願いすることはないが、その要因はきちんと把握して、必要に応じて改善策を考える。事務所側の費用コントロールがルーズだと思われる場合は申し入れる。
見積りで前提条件を明確にしておくことで、その条件のズレに応じて予実分析ができるので、予算超過時も社内プロセスを進めやすくなる。案件進行に応じて前提が大きく変わった場合は、改めて見積りをしてもらうこともある。もちろんこれは起用先選定のためでなく、予算管理のためである。
5. まとめ
このようなプロセスは、(如何に大きな売上につながるとはいえ)事務所側にとっても一定の手間がかかるので、ちゃんとやるのは必要な時だけにしている。つまり、出来レースの形式的な相見積もりはとらず、本当に起用先を検討する場合にのみやるべきと考えている。
ここまで、ほぼ殴り書きのエントリにお付き合いいただきありがとうございました。何かの参考になれば幸いです。