
近年まれにみるほど女性閣僚の少ない、名実ともに真っ黒な内閣だった第一次高市内閣。

『跳ねる高市首相とトランプ氏 見えた被支配構造と「ジェンダーの囮」』(佐藤文香・一橋大学教授へのインタビュー 聞き手高橋純子・朝日新聞編集委員)。
上下ともクリックしてくださると大変うれしいです。
イギリスの経済誌エコノミストは19世紀から続く伝統ある経済誌ですが、同誌の最新号の記事とイラストは、8日投開票の衆院選で自民党が圧勝したことを受け、
「世界で最も強力な女性」
として日本の高市早苗首相を
イラストでは、青いジャケットを身にまとった高市氏が富士山とみられる山を背景に、笑顔で右手を上に掲げている様子が描かれているのですが、わたくしは最近新装開店で始めたXでの投稿で思わず、
「悪い意味でな」
と書いてしまいました。
悪い意味でな。
— 宮武嶺 (@raymiyatake) 2026年2月14日
高市首相「世界で最も強力な女性」 英誌エコノミストが特集:時事ドットコム https://t.co/WsMtjh4Vjg @jijicomより
このエコノミスト誌の記事を産経、日経、時事通信が報じているのですが、一番長い時事通信をよく読むと、
『さらに、高市氏は「日本の防衛体制の変革を加速させるのに適した立場」にあり、防衛力を多面的に高めようとする「正しい考え」を持っていると分析。
非核三原則見直しに言及したことに関し、「核兵器について語ることを含め、タブーを破ろうとする姿勢は健全」
だと評価した。』
ととんでもないことが書いてあります。
防衛力を高めようとするのが正しい考えだとか、核兵器について語ることを含め、タブーを破ろうとする姿勢は健全だとか、イギリスの財界の代弁者としてとんでもなく余計な、タカ派なことを書いてあります。

しかしそんな軍国主義的なエコノミスト誌でも、一方では高市氏に対して
「大勝利が生み出した(国民の)期待」に応えるにはより広く、大きな視野で考える必要があるとし、高市氏は「右派の忠実な支持者だけでなく日本全体の指導者」になる必要があると主張した。』
『広範な支持を「自身の狭いイデオロギー的目標を追求する許しを得たと誤解する恐れ」があると指摘。
「熱心な民族主義者」の高市氏が靖国神社に参拝するようなことがあれば、対中関係のさらなる悪化を招く上、「中国の台頭に対抗するため不可欠な、韓国との脆弱(ぜいじゃく)な歩み寄りを壊す」可能性があると警告した。』
と警告もしています。

ところでいずれにしても、エコノミスト誌の今回の記事の表題が「世界で最も強力な女性」となっている割には、女性であることが全く意味を持たない内容になっています。
そこで注目すべきは
「女性ウォッシュ」
という言葉。
女性ウォッシュとは、企業や政党が、表面上は「女性活躍」や「ジェンダー平等」を強くアピールしながら、実際には構造的な問題解決や実態が伴っていない状態を指すとのことです。
これは環境配慮を装う「グリーンウォッシュ」のジェンダー版だそうで、イメージアップを狙った「見せかけの多様性」を批判する際に使われる言葉とのこと。

https://x.com/raymiyatake/status/2022570964077449654
トランプ大統領が「この女性は勝者だ」と言いながら高市早苗首相の肩を抱くシーンに対する強烈な違和感。これは男尊女卑の象徴だ。
高市氏こそ女性ウォッシュの最たるもので、日本で初めての女性首相だということで応援したいという善男善女の素朴な思いが高市氏への高支持率を支える一番強い味方だと思います。
しかし実態はというと、高市氏は女性であるという属性をトランプ大統領の横でキャピキャピして見せるだとか、選挙演説の第一声で涙を流して見せるとか、女性の地位をむしろ押し下げるような利用しかしていません。
【新着記事】岩田 温: 高市早苗総理を非難するフェミニストたち https://t.co/hGZ28SK9tb #アゴラ
— アゴラ (@agora_japan) 2025年11月2日
岩田温という人は意地悪プラットフォーム・アゴラの中でも飛び切り性格の悪い右翼政治評論家の1人。
ネトウヨによる「無内容な高市早苗アゲ」=「サナ活」が横行し、女性やフェミニストやリベラルに高市首相誕生を喜べと強要する「高市ハラスメント」が起こっている。
ネトウヨや保守論壇が小狡く
「女性なのに、フェミニストなのに、なぜ高市首相誕生を喜べないのか」
といった意見を、リベラルやフェミニストを叩くために広げました。
しかし、高市氏が出してくる政策は選択的夫婦別姓法案を潰すための旧姓使用推進法案だとか、むしろ女性の権利を抑圧するものばかりです。
上智大学の三浦まり教授がvogue誌で
『率直に言えば、ジェンダー平等を積極的に進めない人物が首相になったことで、女性にとっては厳しい時代になったと感じています。少数与党に転落し窮地に立たされた自民党が、それを挽回するための“カード”として女性を前面に打ち出した、その側面は否定できないと思います。』
と語っていますが、女性の権利を重んじるフェミニストだからこそ、高市早苗首相を支持しないというのは当然の選択だと思います。

高市早苗首相が衆院選第一声でいきなり泣き出し、「自分で解散をしておいて、何で泣いてんねん」「自分で解散したのに続けさせてほしいって…どういうことですか」と、「自分で解散」がトレンドになった(笑)。
参考図書

三浦 まり (著) 形式: Kindle版
男性政治とは,男性だけで営まれ,男性だけが迎え入れられ,それを当然だと感じ,たまに女性の参入が認められても対等には扱われない政治である.ジェンダー平等な社会を目指す推進力が生まれているが,男性政治の最後の砦,永田町がその流れを阻んでいる.こうした日本の現実を超えて,女性も,男性も,マイノリティも,誰もが生きやすい社会への道を探る.
参考記事
kojitakenの日記さんより
過去6回の選挙で毎回得票を増やし続けている酒井菜摘さん、次は来年12月の江東区長選に再挑戦されてはいかがか
村野瀬玲奈の秘書課広報室さんより
編集後記
女性最初の首相だからと素朴に高市早苗首相を応援した善男善女が、決定的に裏切られたと感じることができるのはいつなんでしょうか。
それが、高市首相の言動で戦争の危機が到来したからだった、とならないうちにわかってもらえるように頑張りたいです。
上下ともクリックしてくださると大変うれしいです。
【ロンドン時事】英誌エコノミスト最新号(14~20日)は、高市早苗首相を「世界で最も強力な女性」と紹介する特集記事を掲載した。先の衆院選で自民党を大勝に導いた高市氏は「自国を変革する歴史的な機会を手にした」とし、それを無駄にしないため諸課題に正面から取り組み、変革に踏み出すべきだと論じた。
富士山を背景に笑顔で右手を挙げる高市氏のイラストが添えられた記事は、自民党は日本の政治を長く支配してきたが「これほど決定的な勝利を収めたことはかつてない」と指摘。「大勝利が生み出した(国民の)期待」に応えるにはより広く、大きな視野で考える必要があるとし、高市氏は「右派の忠実な支持者だけでなく日本全体の指導者」になる必要があると主張した。
さらに、高市氏は「日本の防衛体制の変革を加速させるのに適した立場」にあり、防衛力を多面的に高めようとする「正しい考え」を持っていると分析。非核三原則見直しに言及したことに関し、「核兵器について語ることを含め、タブーを破ろうとする姿勢は健全」だと評価した。
一方で、広範な支持を「自身の狭いイデオロギー的目標を追求する許しを得たと誤解する恐れ」があると指摘。「熱心な民族主義者」の高市氏が靖国神社に参拝するようなことがあれば、対中関係のさらなる悪化を招く上、「中国の台頭に対抗するため不可欠な、韓国との脆弱(ぜいじゃく)な歩み寄りを壊す」可能性があると警告した。
「女性ウォッシュに惑わされず、政治を監視して」──政治学者の三浦教授は“女性首相”の誕生をどう捉えるか
2025年を語る上で欠かせないトピックとして、日本初の女性首相誕生があるだろう。世界的に大きな注目を集める一方、「女性にとっては厳しい時代になった」と政治学者の三浦まり教授は語る。ファッションや外見に関する報道が加熱することで覆い隠されてしまう本質に目を向けながら、政治における“女性性”の作用と読み解き方を解説する。
By NANAMI KOBAYASHI
2025年12月13日

「女性ウォッシュに惑わされず、政治を監視して」──政治学者の三浦教授は“女性首相”の誕生をどう捉えるか
Photo: Hulton Deutsch / Getty Images
──三浦教授は女性議員を増やすことを目的とし、一般社団法人「パリテ・アカデミー」を立ち上げられています。政治学という大きなフィールドで、そのテーマに尽力されている背景をお聞かせください。
元々は福祉国家の研究をしていました。なかでも労働政策を国際比較で見ると、ジェンダーの視点はどうしても欠かせません。日本は他国と比べても性別分業がはっきりと残っているのに、それを改善するための政策が十分に整っていない。そう考えたとき、やはり国会に女性議員が少ないことが影響して、ジェンダー視点を取り込んだ政策が実施されづらいのではないかと考えるようになりました。そこで「誰が国会議員になりやすいのか」「なぜ女性がなりにくいのか」といった点を研究するようになったのです。
ですから、単に女性議員の人数が増えればよいという話ではありません。ジェンダー平等を本気で推進する女性が増えなければ、人数が多少増えてもジェンダー平等な政策にはたどり着きません。また政策が実現するとともに、社会全体の文化や規範も変わっていく必要があります。数はあくまで「通過点」であり、そこから確実に「質」や「目的」につなげていくことでジェンダー平等な社会に向かっています。
──「パリテ・アカデミー」や「FIFTYS PROJECT」などの活動によって、地方議会や国会で女性議員の数は徐々に増えています。実際に増加はどのような変化をもたらしていますか。
数が増えてきたのは、社会の意識変化の表れでもあります。パリテ・アカデミーは2018年設立で、ちょうど「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(候補者男女均等法)」が成立したタイミングでした。このころを分岐点に、選挙のたびに女性候補者・当選者の数が報道されるようになったのです。以前は、告示日はもちろんのこと、数日経ってようやく新聞の社会面に載るか載らないか、という状況でした。それが今はもう告示初日から各党ごとに女性の割合が報じられています。それだけ社会が注目しているということです。それによって政党にプレッシャーが働くようになりました。
地方選挙では、女性候補が上位当選することは珍しくなく、保守的なベテラン男性を破る事例が増えています。現代の社会は閉塞感が強く、物価高や暮らし向きに対する不満から、新たな政治家を求める有権者が増えている。その結果、男性主体な政界のなかで女性に対する期待が高まり、実際に当選につながるケースが見られます。ただし「女性」と一括りにしても経験や志向は多様ですから、どのように政策につながるかは個別に見ていく必要があります。男性中心でハラスメントが蔓延しがちな政界に女性が飛び込むには相当な思いが必要です。男性候補は若いうちから政治家を志していたり、資金や人脈を持っていることが多い一方、女性はそうした下支えが少ないことが多いです。そのため大きな動機として「女性であること」や「母親であること」を踏まえた政策を進めたい方が比較的多く見られます。
一方で、議会に入ると女性はどうしても周縁的な位置に追いやられてしまいます。そのなかで、“男性的”な振る舞いを身につけていく女性もいるでしょう。政治家は有権者に選ばれ、議会での既存勢力との関係のなかで活動する仕事ですから、本人の信念そして入っていく議会がどのぐらい女性フレンドリーかによって、政治家としての「育ち方」が変わり、立ち振る舞いが変化することがあります。初めは市民目線でも、旧来の作法やしきたりに染まっていってしまうことも。またその逆もあります。理想的には市民がその過程を見守り、成長を評価して再選につなげることが望ましいのですが、現状では市民側に議会をウォッチするノウハウが十分に広がっていないのが実情です。また、見えないところで地域をよくする活動をしている議員は多数いるのに、メディアや情報の偏りで必ずしも適切に評価されていません。結局は利権への関与が明らかな人物が再選されることもあり、最大の課題の一つだと考えています。
女性の「数」だけでなく、「質」に目を向ける局面

マーガレット・サッチャーはその強硬的な姿勢から「鉄の女」と呼ばれた。“男性よりも男性らしく”振る舞った女性首相の1人と言えるだろう。 Photo: Georges De Keerle / Getty Images
──これまでの歴史を振り返っても、男尊女卑のなかで生まれた「男性よりも男性らしく」振る舞う女性議員像がありますね。さらに、女性議員が一括りに語られる一方、ソーシャルメディアの台頭とともに政治家が“人気商売化”し、知名度やキャラクター重視の傾向も見られます。
確かに、ファンダム的な支持を含め、ソーシャルメディアの発達とともに政治はより「人気商売化」しています。インターネットの世界で人気を得るために求められるのは“ネタ”です。炎上商法を含め、キャラが立った候補者が注目を浴びる状況が続いています。もちろん、そうした人が議会にいても構わないのですが、全員がそうなってしまうと政治が前に進まない。だからこそ、候補者をどう真っ当に評価するか、真剣に議論する必要があります。
ちょっと面白いことを言った人に振り回される状況を食い止めなければ、政策論争は置き去りにされ、劣化していきます。本当に恐ろしいことです。2018年以降は女性の数の増加が注目され、実際に人数は少しだけ増えました。だからこそ、次は「質」にも目を向けるステージに来ている。私はそう考えています。
──次のステージですね。
高市首相を含め、さまざまなポジションに女性が増えてきました。ただ、日本は首相1人で社会が変わるような独裁国家ではありません。野党や各省庁、委員会を見ていくと、意思決定の中枢に女性が十分にいるとは言えません。実際、閣僚も高市さんを含めて女性は3人にとどまっています。女性首相が誕生したから「達成」ではなく、そこで立ち止まらず「意思決定の要職に女性がいるのか」と批判的に問い続けることが必要です。ステージごとに期待値を上げていかなければならない。これからは、政治の重要ポストに女性がどれだけいるのかという、「質」と「数」の掛け算の議論です。
加えて、女性といっても多様ですから、社会の多様性に応じて議員も多様でないといけません。なんなら男性議員も多様じゃないんです。男女ともに本当の社会の多様性に応じてるんですか、政治がごく一部の人のものになっていませんか、と問いかけることでステージがアップしていく。それが必要だと思います。
男性が窮地を抜け出すための“カード”として利用される女性

高市内閣の顔ぶれ。首相を含め女性は3人に留まっており、数の面でも十分とは決して言えない。またこの日も、高市のファッションについての報道が多数。歴代男性首相では見られなかったことだろう。 Photo: Anadolu / Getty Images
──10月に日本初の女性首相として高市早苗氏が選出され、国際的にも注目を集めています。女性議員を増やす運動を続けてきた三浦教授は、それをどう受け止めましたか。
率直に言えば、ジェンダー平等を積極的に進めない人物が首相になったことで、女性にとっては厳しい時代になったと感じています。少数与党に転落し窮地に立たされた自民党が、それを挽回するための“カード”として女性を前面に打ち出した、その側面は否定できないと思います。
現代社会が女性リーダーを受け入れる空気に変わってきたからこそ、それが自民党にとって有効なカードになったわけです。しかしその“カード”が、党内でも特に保守的で、ジェンダー平等に消極的な人物だった。ジェンダー平等の前進ではなく、むしろそれを抑え込むために女性を使う。実際、選択的夫婦別姓や婚姻の平等といった論点は後退するでしょう。
一方で、「女性なのに、フェミニストなのに、なぜよろこばないのか」といった声が、女性の分断を煽るように広がる状況もあります。ですが、むしろフェミニズムの立場から支持しないという選択は当たり前だと思います。
──「カードを切る」という表現が印象的です。つまり、ジェンダー平等のためではなく、政界の中心にいる男性たちが選んだ“戦略的カード”だったということですね。
当然そうですよね。高い支持率を背景に、マスメディアも巻き込んで一気に盛り上げていく。話題の“ネタ”は尽きません。特に女性であることで、ファッション誌などの報道も過熱します。女性誌もこぞって取り上げる。キャラクターが立っていてメディア映えする要素が多い人ですから、とにかく“ネタ”が豊富なんです。
私はこれを、自民党による「女性ウォッシュ」、あるいは「さなえウォッシュ」だと見ています。重要な外交課題、特に日中関係などは極めて緊張した状態にあり、経済的には大打撃です。それを覆い隠すように“ウォッシュ”が行われている。そもそも彼女の就任自体が、「政治とカネ」の問題から世論の関心を逸らす役割も担っています。外交や政治資金といった本質的な論点から、「初の女性首相」という話題性で注意をそらす。その役割を期待されている側面は否めないと思います。ジェンダーや女性性が政治的に利用される構図は、今回に限らず繰り返されてきました。有権者はそれを読み解く力を持つ必要があるでしょう。
──外見やファッションに関する報道やソーシャルメディア上の反応が過熱し、キャッチーな“女性性”が先行することで、政権の実像が見えにくくなっていると。
政権にとってメディアキャンペーンは常に重要です。高市さんの強みは支持率ですが、いずれ落ちていきます。そのたびに新しい“ネタ”が投入されるでしょう。選挙に勝つための戦略の一環としてです。メディアもそうした話題に簡単に飛びついてしまうので、ある意味世論やメディアをコントロールすることが非常に容易な環境になっています。
女性性の“ソフトなイメージ”が政治戦略で作用するわけ

パパラッチに手を振るヒラリー・クリントン。特にファーストレディ時代は、アイコンとしてそのファッションやメイクアップに注目が集まった。 Photo: XNY / Star Max
──世界的にも同じような傾向はありますか。
あります。女性政治家の世界は、極端なまでにルッキズムが強調される空間です。ヒラリー・クリントンでさえ、新しい口紅の色や品番がファッション誌で報じられ、それが売り切れると再びニュースになる。化粧品業界は潤い、政治家にとっては一種の広報戦略になっていました。
メディア映えする人物、女性性やファッション性を強く打ち出せる人物は、メディアが放っておきません。その結果、「女性は外見が重要であり、男性に好かれる存在であるべきだ」というステレオタイプが繰り返し強化されてしまう。政界においても、その傾向は確実に強まっています。
──“ウォッシュ”に女性が利用されているのであれば、男性優位の構造はそのままですね。
その通りです。そのために高市首相は選ばれたのですから。今は支持率が高いから女性であることはプラスに作用していますが、それが下落してきたときには、社会に潜在するミソジニーが顕在化し「女だからダメだ」という攻撃が始まる可能性があります。今は持ち上げているメディアも簡単に態度を変え、“女性カード”そのものを使いにくくする方向に動くでしょう。次に自民党から出てくる総裁は男性でしょうから、「やはり男性でなければ」という言説が作られる可能性があります。
だからこそ、首相が女性であるという事実に過剰な意味を見出すのではなく、政治家個人として何をしてきたのか、首相として何を実行するのかで評価していくべきです。安易な報道やキャンペーンに流されず、批判的な視点を持つことが不可欠だと思います。
メディアは構造的にバイアスを抱えており、基本的には男性目線で設計されています。高市さんに対しては、歴代の男性首相ではほとんど見られなかったほど、外見に関する報道がなされている。ほかにも不倫などの不祥事についても、男性政治家は謝罪すれば復帰できるのに、女性の場合は政治生命を断たれてしまうケースが多いです。これは明らかに男性優位の二重基準です。
──高市首相の「さな活」や、小池都知事の「AIゆりこ」など、下の名前で呼ぶキャンペーンも顕著で、ある種の親しみやすさを生んでいます。これについてはどう見ていますか。
高市さんは軍事や武力に積極的な、いわゆる「タカ派」とされる政治家です。ただ、その硬さを“ソフトなイメージ”で包み込むのが特徴的なスタイルです。女性政治家は多くの場合、「男性性」と「女性性」を組み合わせて用います。強さと優しさを同時に演出することで、有能に見えるかつ好かれるというポジションを確立しなければならないからです。常に柔らかな笑顔を見せながら主張は強硬的。それが高市さんなりの政治的コンビネーションなのだと思います。
政治とは、広範な支持をどうやって獲得するかのゲームでもありますから、その点でジェンダー表現は非常に強力なツールになるのです。高市政権は、防衛費を増やすために医療費削減などの有権者(市民)に厳しい政策を進めようとしていますが、「親しみやすさ」や「柔らかさ」を併用することで反発を和らげる戦略を取っているように思います。
政治家を「見抜く眼」を養うことで捉える本質

イギリスのアンジェラ・レイナー副首相は政権初日から明るいパンツスーツ姿が話題を呼び、ファッション誌などがブランド名を含めてそのスタイルを報道した。 Photo: Wiktor Szymanowicz / Getty Images
──どうしてもビジュアルにスポットライトが当たりがちな女性政治家そして女性首相に、有権者はどのような視点を向けるべきでしょうか。
選挙ポスターを見るだけでも、多くの場合男性は活力や力強さ、女性は清廉さを打ち出す傾向があります。もちろんそれも政治的なメッセージで、政策だけでない人柄の部分を視覚的なメッセージで出そうとしているわけです。だけどそれが、「可愛い」「かっこいい」「綺麗」といった感想で終わってしまってはいけません。何を伝えようとしているのかを読み解く力を身につけていくことが重要です。ファッション誌では華やかなスタイルを見せつつ、有権者向けの場ではあえて素朴な装いを選ぶ。誰に向けたパフォーマンスなのかによって、表現が変わることもあります。これも戦略ですね。
すべては政治的戦略として「印象」が設計されており、メディアやファッション業界もそこに深く関わっています。有権者として重要なのは、それを見抜く目を持つことです。さもなくば、本質から目が逸らされてしまいます。話題としては面白くても、本当に重要なのは、物価対策、賃金、地価、外国人排斥をどう止めるかといった具体的な政策論です。そうした話題を逸らすための“ウォッシュ”に、常に警戒心を持つ必要があります。
──ウォッシュされないように読み解いていくことは本当に難しいと思います。その力はどうすれば身につけられるのでしょうか。
選挙ポスターを題材にしてみんなで議論するのは、いいと思います。ハーバード大学でカマラ・ハリスの専属フォトグラファーだった人物の講義を受けた際、撮影アングルによって権威づけの印象が変わることなどが解説されていました。下から撮影すれば権威的に見えるけれど、男性カメラマンの身長の関係で、女性政治家は上から撮られやすく、小さく見えてしまうそうです。ほかにも、顔のアップだけが使われやすい、といったバイアスも存在します。そうした視点で写真を見ていくと、メディアがどのような意図で画像を選んでいるのかが見えてきます。同じシーンでも、切り取り方ひとつで印象は大きく変わる。メディアもまた、自らの立ち位置に沿って使い分けているのだということが明確になってくるんですね。
そこから初めて、現政権や高市首相をどう見るかという視点も変わってくるはずです。より賢明な主権者として、目の前のイメージがどのようにつくられているのかを冷静に観察できる人が増えれば、政治をより真剣に評価できる社会に近づくと思います。
──その方が、投票にも手応えが生まれそうです。
そもそも大選挙区は非常に選びにくい制度です。数が多すぎて、そこから1人を選ぶのは容易ではありません。その結果、目立つための過剰な演出や、まるでTikTokの世界ような拡散競争に近づいています。キャラが立ち、物語性のある政治家が次々と当選し、本来の政治能力とは別の指標で評価されてしまう。
だから結局のところ、私たち自身が「見る目」をどう育てるかに行き着きます。政治を他人任せにするのではなく、自分の目で、耳で、判断する。その力を育てられるかどうかが、これからの民主主義の鍵になると思います。
「女性ウォッシュに惑わされず、政治を監視して」──政治学者の三浦教授は“女性首相”の誕生をどう捉えるか

三浦まり
上智大学法学部教授。専門は現代日本政治論、比較福祉国家論、ジェンダーと政治。主著に『さらば、男性政治』(岩波新書、石橋湛山賞、平塚らいてう賞)。2021年にフランス政府より国家功労勲章シュバリエ受章。
Interview & Text: Nanami Kobayashi
高市首相は「夢売るアイドル」 仏特派員が見る政権基盤の「危うさ」
川上珠実
2026/2/14 11:00(最終更新 2/14 11:00)
有料記事
2850文字

フランス人ジャーナリストの西村カリンさん=本人提供
「まるでアイドルのようでした」
日本社会を取材してきたフランス人ジャーナリストで、公共ラジオ放送「ラジオ・フランス」東京特派員を務める西村カリンさん(55)はそう驚く。今回の衆院選期間中に取材した高市早苗首相の街頭演説には「高市さんを見たい」と幅広い年代の支持者が詰めかけていた。
ただ、西村さんは高市政権の危うさも感じるという。高市氏が圧倒的な人気ぶりを見せた衆院選は、外国人特派員の目にどう映ったのだろうか。【聞き手・川上珠実】
<主な内容>
・高市氏は「夢を売っている」
・「政策の中身分からない」支持者
・日本の選挙戦に感じる違和感
・なぜ日本人は高市氏にひかれるのか
・「強い外交」矛盾する高市政権
「夢を売る」高市氏の功罪
――なぜ自民党が圧勝したと見ていますか。

自民党開票センターで取材に応じる高市早苗首相=東京都千代田区で2026年2月8日午後10時20分、平田明浩撮影
◆いまの日本では、多くの人が「生活が少し苦しい」と感じ、未来が不安な人もいるでしょう。そんな中、高市氏はエネルギーにあふれ、ポジティブです。私は衆院選を取材し、高市氏は「みんなの聞きたいと思っていることを語り、夢を売っているのではないか」と思うようになりました。
高市氏は自民党総裁選で「ジャパン・イズ・バック」、衆院選で「日本列島を、強く豊かに」というスローガンを掲げました。
外交面でも対中国で強硬姿勢を見せ、日本の強さを打ち出すことで不安を希望に変えようとしている。「彼女なら日本は大丈夫」と思う人が増えたのではないかと思います。
政治家が夢を語ることはある程度必要です。ただ、物価高対策などの関心が高い課題について、短期間で何らかの結果を出さないと、支持者はより深く失望することになるでしょう。
「特別な女性」への期待感
――選挙前から高市氏と同じ持ち物を買い求める「サナ活」が話題になり、無党派層にも幅広く浸透しました。
◆女性にとっては、同じ女性だという期待感もあるでしょう。
高市早苗首相が応援に駆けつけた自民党の街頭演説会に訪れた有権者ら=東京都文京区で7日午後3時38分、西夏生撮影
特に中高年の日本人女性は「女性だから意見を言うことが歓迎されない」など、生活の中で差別的な扱いを受けた経験があると思います。
高市氏が国のトップになった姿を見て、自分たちのロールモデルだと考える人もいるのではないでしょうか。
また、年配の男性支持者にとっては、安倍晋三元首相の継承者である特別な女性ということで、よりアイドル的に受け止めている人が多いと感じました。
ただ、話を聞くと、政策の中身はよく分からないという人も目立ちました。野党は嫌で、その理由として「反対するばかりでは何も進まない」と答えた人たちもいました。
政策はともかく、まずは賛成して勝ち馬に乗ろう。反対する人たちは間違っている――。そんな雰囲気もありました。
日本の選挙戦に感じる違和感
――なぜ政策の中身が分からないのに、支持が集まるのだと思いますか。
◆議論がないからではないでしょうか。政治家が一方的に政策の説明をするだけでは、その政策の弱点は見えてきません。
野党も党首討論などで強いメッセージを打ち出したり、与党を厳しく追及したりする場面がありませんでした。

党首討論会に臨む(左から)国民民主党の玉木雄一郎代表、中道改革連合の野田佳彦共同代表、自民党総裁の高市早苗首相、日本維新の会の藤田文武共同代表=東京都千代田区の日本記者クラブで2026年1月26日午後3時4分、西夏生撮影
日本のメディアにも、鋭い質問をする姿勢が見られません。
首相や閣僚への記者会見では事前に記者が通告した質問に答える場面が見られ、討論会では司会者が時間制限によって話を打ち切って議論が深まらないこともあります。
政策や主張を戦わせる場面がないからこそ、日本人はネガティブで批判的な話ばかりする野党よりも、ポジティブな話をする与党にひかれたのではないでしょうか。
私が生まれたフランスでは、政治家はけんかのような激しい議論をしますし、討論会で誤ったことを言えばすぐに司会者が話を止めて誤りを指摘します。
――高市氏は街頭演説で「円安で助かっているのは外為特会(外国為替資金特別会計)。今は、ほくほく状態」と発言して釈明に追われました。
◆高市氏の発言はすべてがポジティブで、ネガティブな話はしません。受け手も、そんな発言を自分に都合の良いように受け取って安心してしまうのではないでしょうか。
高市氏は「責任ある積極財政」を掲げていますが、政策の中身は細かく報じられていない状況です。歴代の自民党政権の経済対策と何が違うのか、さっぱりわかりません。ただ看板を変えただけではないかと危惧しています。
――衆院選では、選挙戦のさなかにトランプ米大統領が自身のSNSで高市政権を「完全かつ全面的に支持する」と表明しました。
世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での会合後、記者団の取材に応じるトランプ米大統領=スイス東部ダボスで2026年1月21日、AP
◆日本メディアでは当初、「異例」の事態だと報じられましたが、これは内政干渉ともいえる「異常な」事態です。
しかも、トランプ氏がこれまでに支持を表明してきたのは、ハンガリーのオルバン首相をはじめとして「独裁者」と評されることがある政治家ばかりです。
高市首相がこの「クラブ」の一員とみなされることは日本にとって良いことでしょうか。
またトランプ政権はデンマーク自治領グリーンランドの領有を目指していることなどを巡り、欧州と緊張関係にあります。
日本がトランプ政権を全面的に支持する場合、欧州や他の主要7カ国(G7)との関係はどうなるのでしょうか。もっとバランスをとる必要があると思います。
――今後の高市政権の外交をどう展望しますか。
イタリアのメローニ首相(左)と向き合う高市早苗首相=メローニ氏のXへの投稿から
◆フランスのメディアでは、今回の衆院選の結果を受け、日本はさらに速いスピードで右傾化するとみられていて、中国との関係が特に懸念されています。
高市政権は外交面で日本の強さを打ち出していますが、トランプ政権を批判できない場合、国際社会の中で強い役割を果たすことはできないでしょう。
フランスも米国の同盟国ですが、シラク元大統領は2003年に米国のイラク戦争の開戦に異議を唱えました。トランプ氏が友人と公言するイタリアのメローニ首相も、今年1月に北大西洋条約機構(NATO)の同盟国の貢献を巡るトランプ氏の発言を強く批判しました。
私はトランプ氏のグリーンランドを巡る発言について、高市氏に書面質問しましたが、「日本政府としてコメントすることは差し控える」という回答が来ました。
今回の衆院選でも、外国メディアの記者の大半は自民党本部の開票センターでの取材を認められませんでした。与党第1党が海外マスコミの取材を締め出すのは、先進国で日本くらいではないでしょうか。

自民党開票センターでテレビ中継のインタビューに答える高市早苗首相(右)=同党本部で2026年2月8日午後10時37分、平田明浩撮影
こうした対応は、外交を重視する姿勢と矛盾しています。外交とは、水面下で交渉することだけではなく、世界で起きていることに対して意見を表明することでもあります。
強い外交を目指しているならば、日本も発言する覚悟が求められるのです。
にしむら・かりん
1970年フランス生まれ。夫は漫画家のじゃんぽ~る西さん。99年から2004年までフリーのジャーナリストとして日本とフランスで活動し、04年から20年までAFP通信東京特派員を務めた。現在は仏日刊紙「リベラシオン」の東京特派員も務めている。02年から日本で暮らしている。著書に「日本 『完璧』な国の裏側」(河出書房新社)など。
上下ともクリックしてくださると大変うれしいです。

