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眉カットがつなぐ夫婦の時間|“さりげない美容習慣”の物語:過去日記197

眉のこと

朝日が寝室にすべり込んでくる土曜日。

化粧台の前で、マユミがいつもより少しだけ丁寧に眉を整えている。

ショッピングに行く日は、やっぱり気合いが違うらしい。

「ヒロ、今日も眠いの?」

振り返ったマユミの前で、ボクはまだベッドの上。

昨日のプロジェクトが長引いて、頭がうまく回らない。

「ああ……今日はちょっと、電源オフにさせてほしいかも」

ほんの少し拗ねた顔をして、それからすぐ、やわらかく笑う。

「そっか。じゃあ、ちゃんと寝て。帰ったら起こすね」

藍色のジャケットがよく似合っていた。

そういえば、あの眉を初めて触らせてもらったのは、結婚する前だったな、なんて思い出す。

眉のはじまり

ボクが自分の眉を整え始めたのは、もう25年以上前のこと。まだ「男が眉を整えるなんて」と言われる空気が残っていた頃だった。

その少し後、ドラッグストアの棚に男性用のグルーミング用品や化粧水が並び始めた。あれを見つけたとき、時代が静かに動いた気がしたのを覚えている。

特別に美意識が高かったわけじゃない。

眉毛お手入れマユミのヘアクリップを借りて髪の毛を留めて眉毛の手入れ。

 

ただ、少し整うと気分が変わる。それが面白かっただけだ。テレビで眉カット特集をやっていればつい見てしまうし、録画もしていた。今思えば、半分は好奇心、半分は暇つぶしだったのかもしれない。

その延長で、結婚前のある日、ふとマユミの眉を整えたくなった。

「ちょっと触ってみていい?」

冗談まじりに言ったら、本当に任せてくれた。

あれが始まりだった。

夕方、スマートフォンが震える。

「帰ったら眉、お願い」

その短い一文に、思わず笑う。

頼まれることが、もう自然になっている。

玄関の鍵が回る音。

「ただいま」

「お帰り。どうだった?」

「いっぱい歩いた。でね——」

買い物袋を置きながら、百貨店で昔の友人に会った話をする。美容の仕事をしている子らしい。

「『マユミの眉、きれいだね』って。自分でやってるの?って聞かれたの」

「へえ」

「ヒロがやってくれてるって言ったら、びっくりしてた」

少し誇らしそうな声。それだけで十分だった。

ボクは昔からやっていただけで、資格もないし、プロなんて思ったこともない。そう言われると、むしろ落ち着かない。あの頃の空気を知っているからかもしれない。

やがて夜。

お風呂上がりのマユミは、頬がほんのり赤い。半乾きの髪が枕に広がる。

「お願い、眉」

そう言って、ベッドに仰向けになる。

この時間がいちばん整えやすい。湯上がりの肌はやわらかく、毛流れも素直だ。ボクはベッドの縁に腰をかけ、ハサミとコームを手に取る。

「動かないでよ」

「はーい」

マユミ眉毛お手入れ

 

天井を見上げたまま、話の続きをする。

「その子ね、『ほんとにきれい』って言ってたよ」

コームで毛をすくい、長さを整える。ライトの角度を少し変える。

「ヒロがやってるって言ったら、驚いてたもの」

その言い方が嬉しくて、ほんの少し手元に力が入る。

「ヒロ、力入りすぎ、痛い!」

「あ、ごめん」

仰向けのまま、くすっと笑う。距離が近い。

呼吸を整え、もう一度ゆっくり整える。

マユミ眉毛お手入れ

 

部屋にはまだ湯気の名残があって、ハサミの小さな音だけが静かに響く。

「ねえ」

「ん?」

「昔からやってるの、知ってるよ。プロとかじゃなくて、好きなんだよね」

図星だった。

「まあ、そんな感じ」

「でもね、私の眉を触るときは、ちょっと真剣すぎ」

目を閉じる。その安心した顔を見るたび、もう少しだけ上手くなりたいと思う。

大げさなことじゃない。ただ、こうして任せてくれる時間が、少し特別に感じられるだけ。

「はい、終わり」

「ほんと?」

起き上がる前に全体を確認する。

ベッドの上で整える眉は、距離が近いぶん、少しだけ慎重になる。

マユミがゆっくり体を起こして、ボクを見る。

「上手」

その一言で十分だった。

ベッドの上には、さっきまでの温度がまだ残っている。

たぶん、こういう時間が続いていくんだろう。

それだけで、悪くない気がしている。

 

広がる輪

コンコン、と控えめなノック。

ドアが少しだけ開いて、マキが顔をのぞかせる。

「あれ?またやってるの?」

「うん」

寝室の入り口から、興味深そうにこちらを見ている。

「いいなあ。おねぇちゃん、あたしも今度やってもらおうかな」

あっけらかんと言うから、こっちが少し照れる。

マユミは鏡越しにマキを見る。

「ヒロ、人気者じゃん」

「じゃあ、今度やってあげるよ」

ボクは視線を落として、またコームを動かす。

寝室の灯りの下で、家族の気配がゆるく混ざり合う。

なんだか、それだけで十分な気がしていた。

さらに後日。

「お母さんもやってもらいたいって」

「え」

思わず固まる。

マユミは楽しそうだ。

「最近ずっときれいだねって言ってたから。ヒロがやってるって話したら、ちょっと興味持ったみたい」

そんなふうに広がるとは思っていなかった。

ただ、目の前の人が少し整うのが嬉しかっただけなのに。

「別に、たいしたことしてないよ」

「うん。知ってる」

そう言いながら、マユミは肩に頭を乗せてくる。

「でもね、嬉しいの」

その一言で、なんだか十分な気がする。

 

バレている努力

「ところでさ」

「ん?」

「テレビ、録画してるでしょ。眉のやつ」

図星だった。

「……見てるだけ」

「知ってる」

笑いながら、ちゃんと目を見る。

「私のためでしょ」

言葉にされると、少し困る。

「ボクも、お手入れやってるからね」

趣味の延長みたいなものなのに。

でも、少しずつコツをつかんできたのは確かだった。角度とか、長さとか、光の当たり方とか。

上達している実感が、ほんの少しある。

「……でもさ」

ボクは言い出すのをためらう。

「男のくせに美容だとか見た目とか気にして、眉毛を整えている男って、マユミどう思う?」

少し自分の内側にあった違和感を、ようやく口に出した。

マユミはふっと笑う。その笑い方は、ボクの弱さを見透かしたようで、でも優しかった。

「え、何それ。『男のくせに』?」

「……」

「ヒロがやってることって、別に美容とかじゃなくて、私を喜ばせたいからじゃない」

彼女は起き上がって、ボクの目をしっかり見つめる。

「私だって、自分でやることもできるし、美容室に行くこともできる。でも、ヒロがやってくれるから、任せてるんだよ」

その声には迷いがない。

「だってね、眉毛を整えてもらうのが好きなわけじゃなくて。ヒロがそれを上手くなりたいって思って、テレビ見て、コツを覚えて、私の顔に真剣に向き合ってくれるのが———」

言葉を切って、ボクの頬に手を当てる。

「その時間が、その努力が、好きなんだよ」

「マユミ……」

「『男のくせに』じゃなくて、『ヒロだから』。それだけ。変な気にしないで」

その一言で、胸の中にあったモヤモヤが、するりと消えた。

「それにね」

マユミは少し意地悪そうに笑う。

「眉を整えるのに真剣なヒロって、すごくいいよ。何か、好きな人がちゃんと向き合ってくれてる感じがして」

顔が熱くなる。

「だから、テレビとか見続けてていいよ。その先に、私がいるんだったら」

素直に喜んでくれる。非難するわけでも、照らすわけでもなく。

ただ、その先にある気持ちを見てくれていた。

 

 

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夜のリビング

夜中、テレビではまた眉メイク特集。通販番組が、電動カッターを紹介している。

アタッチメントで高さを揃えられるらしい。

長年使ってきたハサミとコームでも十分だけれど、もう少しだけ正確にできるのなら。

マユミの眉を、もっときれいに整えられるのなら。

そう思って、つい画面に身を乗り出す。

「また見てるの?」

隣で、マユミが肩に寄りかかる。

「いや、ちょっと……」

この子は、もう自分の行動を全部見ている。

「ふふ」

信じていない顔だ。

「本当だよ。今の電動カッター、いいなって」

「あ、これ?」

マユミは画面に目をやる。

「欲しいなら、買ったらいいじゃん」

簡単に言う。そのあっさり具合が、少し照れくさい。

「でも、これ高いし」

「ヒロがやってくれるおかげで、私の眉がいつもきれいなんだよ。その投資なら、いいんじゃない?」

言い方が自然だ。

あの対話のあとだからかもしれない。マユミは、ボクが眉を整えることを、もう当たり前に受け入れている。

「マユミも、マキも、いつかは義母も」

そう言ったのは、ほんの少し前のことだ。

複数人の顔が思い浮かぶたびに、ボクはもっとうまくなりたいと思う。

単なる「やってあげる」ではなく、もっときちんと、もっと丁寧に。

やがて、マユミの静かな寝息。

ボクはテレビを見ながら、少しだけ考える。

プロなんかじゃない。

でも、だからこそ——いや、プロじゃないからこそ、できることがあるんじゃないか。

知識や技術だけじゃなくて、相手の顔をこんなに近くで見つめて、その人が喜ぶことを思いながら手を動かせる。

昔からの癖みたいなものが、今はマユミやマキや、いつかは義母の顔に笑顔をもたらしている。

それは、すごく大事なことなのかもしれない。

男性が美容に興味を持つのも、もう珍しくない時代になった。

あの頃、こっそり棚から手に取った小さな眉用ハサミが、今もこうして使われている。

時間はちゃんとつながっている。

マユミの言葉も、つながっている。

「その先に、私がいるんだったら」

あの言葉を思い出すたびに、少しだけ胸が温かくなる。

テレビの光が、眠っているマユミの横顔をやさしく照らす。

明日もきっと、また「お願い」って言うんだろう。

ボクはそのたびに、少しだけ上手くなっていたいと思う。

電動カッターを買うかどうかは、まだ決めていない。

でも、その気持ちは大事にしておきたい。

さらに上手くなりたいという気持ち。

相手をもっと喜ばせたいという気持ち。

プロではない、ただの夫の——それくらいの気持ちで、ちょうどいいのかもしれない。

いや、むしろ、それが全部なのかもしれない。

 




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