三人の優しさが重なる朝―健康診断の日に
朝、マユミがいつもより早く来ていた。
「おはよう、ヒロ」
デスクに着くなり、マユミが隣から声をかけてくる。周りに人がいないので、いつもの呼び捨てだ。
「おはよう。今日、病院だね…」
ボクは少し憂鬱な気分で椅子に座った。会社の健康診断で気になる数値が出て、精密検査を受けることになった。

過去に会社の過重な業務負担で体を壊して以来、毎年この時期になると頭部のMRI検査を受けることになっている。
あの時、倒れた時に頭を強く打っていて、それ以来ずっと薬を飲み続けている。それに加えて、今年は再検査の項目が増えている。
妻マユミの支えと義母の思いやり
「そうよ。だから今日は午後から一緒に行くからね」
マユミがにっこりと笑う。

「え? でも、今日って大事な企画の打ち合わせがあるんじゃ…」
「調整したから大丈夫。ヒロの健康の方が大事」
そう言って、マユミはボクのデスクに小さな保温ボトルを置いた。
「これ、お母さんが昨日持たせてくれた野菜スープ。検査前に栄養つけておきなさいって、お母さん特製よ!」

「お義母さんが?」
「うん。『ヒロ君、心配しないで。ちゃんと診てあげるから』って言ってたわよ」
ボクは胸が温かくなった。義母は、今でも時々、ボクの健康を気遣って電話をくれる。入院していた頃に8年も前に世話になった看護師さんが、まさか将来の義母になるなんて、人生は不思議だ。
職場の仲間からの励ましと心配の声
午前中、Oさんが声をかけてきた。
「ヒロさん、今日は午後からお休みだったね。検査、大丈夫?」
「はい、毎年恒例のやつなので、でも、薬が変わったりとか、そこがちょっと面倒です…」
「そう。でも、今年は再検査もあるんでしょう?」
「ええ…健診で少し気になる数値が出たみたいで」
「そう…無理はしないで。」

「はい、ありがとうございます」
Oさんは心配そうに頷いた。
Hさんも通りかかって声をかけてきた。
「ヒロさん、今日検査なんだって? あの時のこともあるんだから、ちゃんと診てもらってきてよ」
「ありがとうございます。ちゃんと診てもらってきます」
みんなが心配してくれている。それが嬉しくもあり、少しプレッシャーでもあった。
病院で迎えてくれた義母の笑顔
午後1時。
ボクとマユミは会社を出て、今日はマユミの運転するクルマで病院へ向かった。
ボクのこだわりだから、最高出力225PSのクルマで6速MTをマユミが慣れた感じでシフトチェンジする。マユミはクルマ好きだった。
初めて見た時はレースクイーンかと思ったほどだから違和感は無かった。
結婚当初のホンダ・シビックタイプR
「ねぇ、ヒロ」
「ん?」
「今朝、ちゃんと薬飲んだ?」
「うん、飲んだよ」
「良かった。いつも忘れないでね」
マユミの声には、いつもより少し心配の色が滲んでいた。
「お母さん、今日ヒロに会えるのすごく楽しみにしてたのよ。でも、検査結果のことも気にかけてた」
「そうなんだ…」
「うん。『ヒロ君、薬はちゃんと飲んでるかしら』って、昨日の電話で心配してたわ」
病院に着いた。
「○○病院」の看板が見える。
「緊張してる?」
「…うん、、少しね…結果がね」
「大丈夫。私がいるから。それに、お母さんもいるから」
受付を済ませて、待合室で待つ。
すると、白衣を着たお義母さんが笑顔で近づいてきた。

「ヒロ君、マユミ、来てくれたのね」
「お義母さん、お久しぶりです」
「本当に。元気そうで良かったわ」
お義母さんは相変わらず美人で、優しい雰囲気を纏っている。マユミとマキが美人なのは、この人の遺伝子だと改めて思う。

「今日はしっかり診てもらうからね。MRI検査も、再検査も、全部ちゃんとやりましょう」
「はい、お願いします」
「マユミも一緒に来てくれて良かったわ。ヒロ君、安心できるでしょ?」
「はぁ。マユミがいてくれると心強いです」
お義母さんは満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、検査室に案内するわね。まずは血液検査から」
検査を支える二人の存在
検査は血液検査、心電図、エコー検査と続いた。
お義母さんは検査の間、ずっと優しく声をかけてくれた。
「ヒロ君、痛くない?」
「大丈夫です」
「良かった。もう少しだからね」
マユミも隣でずっと付き添ってくれている。
「ヒロ、頑張ってるね」
二人のやりとりを見て、お義母さんが嬉しそうに笑った。
「二人とも、本当に仲が良いわね」
「お母さん…」
マユミが少し照れくさそうにする。
そして、最後のMRI検査。
「ヒロ君、これが一番大事な検査だからね。じっとしていてね」
お義母さんの声が、いつもより真剣だった。
「はい」
ボクは検査台に横たわった。

MRIの機械に入っていく。
ガンガンガンという大きな音が響く。
目を閉じて、じっと耐える。
あの日のことを思い出す。
突然倒れて、頭を強く打った日。
目が覚めた時、お義母さんが優しく微笑んでくれていた。
「大丈夫よ、ヒロ君。もう安心して」
あの言葉が、今でもボクを支えてくれている。
医師からの診断―現状維持と服薬の大切さ
検査が終わり、待合室で結果を待つ。
マユミはボクの隣で静かに座っていた。
「ヒロ、お疲れ様」
「ん、ありがとう」
「お茶、飲む?」
「後でいいよ」
少しの沈黙。
でも、マユミが隣にいるだけで、不思議と落ち着いた。
診察室に呼ばれた。
お義母さんと、担当医師が待っていた。
医師がカルテを見ながら言った。
「えーと、○○ヒロさんですね」
ボクは少し緊張した。
マユミが、そっとボクの方を見る。

「結果から申し上げますと…MRI検査、再検査の項目も、全て現状維持です」
「現状維持…」
「ええ。悪化はしていません。これは良いことです」
医師は少し間を置いてから、真剣な表情で続けた。
「ただし、○○さん」
「はい」
「あの時、倒れた時に頭を強く打たれていますよね」
「はい…」
「今の良好な状態は、毎日の服薬管理があってこそです。これは本当に大切なことなので、もう一度強調させてください」
医師の声が、一段と真剣になった。

「薬は、必ず毎日、決まった時間に飲んでください。忘れないでください。これは命に関わることです」
妻と義母の「服薬管理サポート宣言」
その言葉の重さに、診察室の空気が変わった。
マユミが、ボクの顔をじっと見てる。
「はい、今も毎日飲んでます」
「奥様も、ぜひサポートをお願いします。服薬管理は、ご本人だけでなく、ご家族の協力が不可欠です」
「はい」マユミが答えた。

医師は続けた。
「それから、前回と比べて数値が改善されている部分もあります。肝機能と血糖値。ストレス指標も下がっています。これは、生活習慣の改善と、ご家族のサポートの成果ですね」
「ありがとうございます」
「ただし、油断は禁物です。今の状態を維持するために、薬の服用、定期的な検査、そして無理をしないこと。この三つを必ず守ってください」
「はい、必ず守ります」
医師は少し表情を緩めた。
「○○さんは、良いご家族に恵まれていますね。奥様、それに看護部長のお義母様も、○○さんのために色々と相談に来られていましたから」
「え?」
ボクは驚いてマユミを見た。
マユミが優しく笑った。
「あなたの健康のことは、私と家族みんなで支えているのよ」
マユミが少し照れくさそうに続ける。

「お母さんに、栄養バランスの相談とか、サプリメントの選び方とか、色々教えてもらったの。それに、あなたが無理しないように、会社の上司とも話して、業務量を調整してもらったり…」
「マユミ……」
「あなたは真面目すぎるから、自分のことを後回しにしちゃうでしょ? だから、私たちが支えないと」
マユミの言葉に、ボクは胸がいっぱいになった。
医師が言った。
「素晴らしいご家族ですね。○○さん、こういうサポートがあるからこそ、今の状態を維持できているんです。薬だけでは、ここまで良くなりません」
「はい…本当に感謝しています」
「これからも、ご家族で協力して、○○さんの健康を守ってください」
「はい、必ず」
二人で同時に答えた。
家族に守られている安心感
診察室を出ると、ナースステーションからお義母さんが出てきた。
マユミが口を開いた。
「ヒロ」
「ん?」
「薬、絶対に忘れないでね、仕事で疲れた時、忘れている時あるから」
「うん、分かってる、疲れている時もちゃんと確認する」
「私も、毎日確認するから」
お義母さんも言った。
「ヒロ君、薬の管理は本当に大切なの。看護師として、そしてヒロ君の家族として、私も協力するわ」
「お義母さん…ありがとうございます」
「何言ってるの。家族なんだから当たり前よ」
お義母さんは優しく微笑んだ。
「それに、ヒロ君にはずっと元気でいてもらわないと困るのよ。マユミを幸せにする使命があるんだから」
「お母さん…」
マユミが少し照れくさそうにした。
「それと、マキもヒロ君のことを心配してるのよ。『お義兄ちゃん、大丈夫かな』って」
「マキが…」

「ええ。だから、ヒロ君。家族みんなのためにも、ちゃんと自分を大切にしてね」
「はい…約束します」
病院カフェで語られた未来への約束
三人で病院のカフェに寄った。
「お茶でも飲んでいきましょう。少し休憩しましょう」
お義母さんが提案してくれた。
「でも、お仕事中じゃ…」
「大丈夫。今日は午後から少し時間が取れるように調整したの。ヒロ君のために」
カフェに座ると、お義母さんが注文を取りに行った。
「ヒロ」
マユミが真剣な顔で言った。
「ん?」
「さっき、先生が言ってたこと…薬のこと」
「うん」
「だから、私も一緒に管理するね。朝と夜、ちゃんと確認するから」
「ありがとう」
「当たり前でしょ。ヒロの命に関わることなんだから」
マユミはボクの手を握った。
「ヒロには、ずっと隣にいてほしいの。デスクでも、家でも、これからもずっと。だから、絶対に無理しないで。薬も忘れないで」
ボクは胸が熱くなった。
「ありがとう、マユミ。本当にありがとう」
お義母さんが戻ってきて、三人でコーヒーを飲みながら話した。

「ヒロ君、今日の先生の話、しっかり聞いてたわね」
「はい」
「良かったわ。薬の管理は本当に大切なの。私も看護師として、たくさんの患者さんを見てきたけど、服薬を怠ったことで状態が悪化するケースをたくさん見てきたわ」
お義母さんの声が、少し厳しくなった。
「だから、ヒロ君には絶対にそうなってほしくない」
「はい…気をつけます」
お義母さんは少し表情を緩めた。
「でもね、ヒロ君。悪いことばかりじゃないのよ」
「え?」
「今日の検査結果、現状維持だったでしょ? これはすごいことなのよ。ちゃんと薬を飲んで、生活習慣に気をつけて、マユミのサポートもあって、だからこその結果なの」
「そうなんですか…」
「ええ。だから、これからも続けていけば大丈夫。家族みんなで支えるから」
お義母さんの言葉に、ボクは安心した。
「ありがとうございます、お義母さん」
「何言ってるの。家族なんだから当たり前よ」
「それに、あなたは私にとっても大切な人なのよ。あの時、入院していた時のこと、覚えてる?」

「もちろんです。お義母さんが毎日励ましてくれたから、ボクは頑張れました」
「あの時から、ヒロ君のことは気にかけていたのよ。まさか将来、娘の旦那さんになるなんて思わなかったけど」
お義母さんは懐かしそうに笑った。
マユミが嬉しそうに言った。
「本当ね、不思議、神様が結び付けてくれたみたいね」
クルマの中で誓う「薬を忘れない約束」
病院を出て、ボクとマユミはクルマに乗り込んだ。
「ヒロ」
「ん?」
「今日の先生の言葉、重く受け止めてるよね?」
「うん。薬のこと、本当に気をつけないとって思った」
「良かった。私も、ちゃんとサポートするから」
マユミは微笑んだ。
「これからも、三人で…いえ、マキも入れて四人で、ヒロを支えていくからね」
「ありがとう」
「お母さんも、本当に心配してたの。でも、今日ちゃんと検査できて、先生からも話を聞けて、安心してた」
「そうだったんだ…」
「うん。お母さんの病院だから、何かあってもすぐに対応してもらえるし」
「そうだね」
クルマを走らせながら、ボクは思った。

薬を飲み続けなければいけない。
定期的に検査を受けなければいけない。
それは大変なことかもしれない。
でも、こんなに愛されて、支えられて、ボクは本当に幸せ者だ。
お義母さん、マユミ、そして家族みんなが、ボクを大切にしてくれている。
だから、ボクも頑張らないと。
この幸せを、ずっと続けるために。
家族のために。マユミのために。そして、自分自身のために。
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