マユミの家を知ってしまった夜、心に灯った小さなときめき
ボクはマユミに頼まれて、後輩の部屋の掃除を手伝うことになった。
なぜわざわざボクなのかと不思議に思ったけれど、理由は簡単で――ボクが一番の新人だから。
ただし、マンション暮らしのその後輩はマユミのグループに入ったのはボクより5年ほど早い。
年齢はというと、ボクのほうが9歳も上。何だか立場の説明がややこしい。
その後輩はどうやらマユミのことが好きらしくて、まるでお姉さんを慕うみたいに懐いていた。
マユミはグループのリーダーとして、後輩のことを放っておけなかったのだろう。
だからこそ「掃除のお手伝い」という名目で、終業後に一緒に行くことになったのだ。
定時で着替えて、17時半。
ボクがクルマを出して、マユミと後輩を乗せ、後輩のマンションへ向かった。

男の一人暮らしの現実に驚かされる
駐車場にくすクルマを停め、掃除道具一式と大量のゴミ袋を抱えて部屋へ。
2DKの角部屋――思っていたよりいいところだ。てっきり「ゴミ屋敷」みたいになっているのかと思ったが、そこまでひどくはない。
「とにかく、まず空気を入れ替えましょ」
マユミはそう言って、全ての窓を開け放った。
掃除機を手に取ると、慣れた手つきで部屋中を動き回る。

ボクはキッチンから。
シンクの掃除を終え、浴室へ。――やっぱり男子の一人暮らしは浴室が汚い。
でも、ボクは家では掃除をきちんとやる方だから慣れていた。洗面所やトイレは特に念入りにする。

案の定、トイレは悲惨だった。便器の縁にこびりついた汚れ…。
ゴム手袋をしてタワシでごしごし。ピカピカにしてやった。これだけで20分かかった。
「男子の一人暮らしって、こんなもんかね」
心の中でぼやきつつも、やっぱり自分の家はピカピカでよかったと密かに誇らしかった。
エアコン事件で大騒ぎ
部屋の下が片付いてきたので、次は上。
脚立に登ってエアコンを開けた瞬間――
「キャー!」
マユミの悲鳴が響いた。
「え、何これ…フィルター?」
そこには灰色のホコリがびっしり。厚さ1cm近く、枠も見えない。

こんなの初めて見たよ。
「これ…冷えてたのかね」思わず呟いた。
掃除機では歯が立たず、ゴム手袋をして手で少しずつむしり取る。

30分かかってようやく終わった。
自分ちは、1000倍綺麗だ。ここまで酷くなったことはない、半年に一度掃除してる。
「これじゃ電気代ばっかりかかってたんじゃない?」マユミが顔をしかめながらも、どこか楽しそうに笑っていた。
マユミの笑顔が心に残る。
マユミが隣の部屋で布団を直し、布団乾燥機を準備していた。
一方の後輩は…聞かれたことに答えるだけで、ほとんど何もしていない。
「こんな感じで言われたことしかやらない後輩か〜」心の中でため息をついた
ボクが先ほどのエアコン掃除の時落ちホコリを取るため掃除機をかけた。


初めての二人きりの食事
片付けも終わり、大量のゴミ袋を車に積んで会社に戻り、処理して解散。
時計はすでに夜8時前だった。

「今日はありがとう。ヒロさんがいてくれたから早く終わった」
「マユミさん、いつもああやって手伝ってあげてるの?」
「んー、3回目くらいかな。いつもは軽く片付けるだけ。今日みたいにエアコンまでやらないよ」
「じゃあ、ボクが余計なこと頑張りすぎたんだね」
そんな会話をしながら、クルマは帰り道へ。
「お腹すかない?晩ごはん、一緒に食べて帰ろうよ」
「そうだね。もう遅いし、ファミレスでも行く?」
「うん、いいね。どこにする?」
初めての二人きりの食事。

ファミレスのテーブル越しに、時間を忘れるほど話した。
「ヒロさん、普段からやってるんだなぁって思った」
「エアコン掃除の時落ちたホコリを掃除機をかけてるの見て、さすが慣れてるね」
「えっ?」
「手つき見ればわかるもん」とマユミはニコニコして言った。
「まあ…家でもちゃんとやってるからね」
「うん、そんな感じする」マユミがにこっと笑った瞬間、ふわっと柔らかい空気が流れた。
なんだか、胸の奥が少し温かくなった。
マユミの家に着いたのは夜10時前。
「じゃあ、また明日ね」
そう言って手を振るマユミを見ながら、ボクはクルマを走らせた。
心の中でそっと呟いた。
「これでマユミの家もわかっちゃったな」
なんだか秘密を共有したようで、妙にうれしかった。
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