2000年──社内ですれ違うだけの存在だったマユミ
マユミと初めて出会ったのは、マユミが入社したばかりの2000年。
それから5年間、ボクたちは別々の部署にいて、ほとんど接点はなかった。
たまに彼女がボクの部署に現れることがあったけれど、それは用事のある部署に向かう途中、たまたま通りかかっただけ。

お互い同じ会社の人間だということはわかっていたけれど、話したことはほとんどなかった。
軽く会釈を交わす程度で、こちらから近づくことはなかった。
恐れ多くて、まるで芸能人を遠巻きに見るような感覚だった。
仲良くなりたいとか、付き合いたいなんて、その頃はまったく考えていなかった。
ただ、「スタイルのいい女性だなぁ」と思いながら、
「どうしてうちみたいな会社に?」と不思議に感じていたくらいだ。

当時のボクは、山ほどある仕事をこなすので精一杯。
そんな、住む世界が違うような人と仲良くするなんて想像もしていなかった。
実際、マユミと1ミリも距離が縮まることはなかった。
それでも、近くの部署のおばさんに話を聞くと、
「ここによく仕事を持ってきてたのよ」と教えてくれた。
「へぇ、そうなんだ」と、その時はただ聞き流すだけだった。
2000年から2005年までの間、マユミとは、ほぼ別世界にいた。
ボクの作業場は本社ビルから離れた別のビルにあり、
その1階が更衣室。そこでは色んな関係会社の人たちと着替えをしていた。
本社ビルに行くのは、ミーティングのある朝8時半からの30分だけ。
だから、マユミがどこにいるのか、どの席に座っているのかも知らなかった。
週に一度だけ本社で顔を出し、あとは作業場へ戻る。
残業続きで帰る頃には本社は真っ暗で、誰もいない。
まるで、離れ小島で働いているような感覚だった。
それでも、たまにマユミが顔を見せてくれることがあって、軽く冗談を交わすようになったのは、そういう頃だ。
彼女は以前、何かのコンパニオンをしていたらしい。
詳しくは聞かなかったけれど、
「ああ、あんなスタイルしていると、ボクみたいな凡人が想像できない世界で生きてきたんだろうな」と思った。

そして、2005年。
ボクの部署の機械を廃棄することが決まった。
これからはオンデマンド、そしてデジタル化の時代へ——。
長年続けてきた体を酷使する仕事からは解放されるけれど、
病院通いは、これからも一生変わらず続いていく。
28日ごとに病院へ足を運ぶ。
夏でも冬でも、朝7時には病院の前に立ち、9時の開門を待つ。
冬の寒さは、骨の芯まで染みた。
そんな2005年のある日。
「これからは○○さん(マユミ)のグループに加わってくれ」
そう言われた。
…えっ?と思った。
神様のいたずらって、本当にあるのかもしれない。
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