真夏の夕方と香りが紡ぐ、静かな心のふれあい!イヤホン越しの恋と会話の物語
🌇真夏の夕方、蝉の声が窓の外で遠く響いていた。
空はゆっくりと茜色に染まりリビングにはクーラーの風と、マユミの柔らかなフローラルの香りが混ざって漂っている。
ヒロはソファに座って、ウォークマンで浜崎あゆみの歌をイヤホンで聴いていた ──

ウォークマンのディスプレイの中の彼女が、時には強くて、時には涙ぐみそうで。ウォークマンに触れては、ボクはふと笑っていた。
マユミはそんなヒロの背中にそっと声をかける。

「ねえ、それ……またあゆ?」
ボクは振り返らないまま、ウォークマンを撫でるように眺めていた。
「うん」
マユミは少し黙ってから、ソファの端に腰を下ろして、ヒロの横顔をそっと見る。
「……あたしさ、ずっと思ってたの。ヒロって、あゆみたいな人が好きなのかなって」
ボクは少しだけ視線を上げるが、すぐにウォークマンに戻す。
「ボクが好きなのは、強がってるように見えて、ほんとは繊細な人。音でしか分からない気持ちとか、伝えようとしない優しさとか……あゆには、それがある」
マユミは眉を下げて、小さな声で言う。
「……そっか。でも、あたしみたいな髪が長くて、何でもすぐ顔に出ちゃう人は、ちょっと違うってことよね」
ボクはその言葉に静かにウォークマンを置いて、ふわっと笑った。
「マユミみたいに、全部見える人って、ボクにとっては安心できるんだよ、イヤホン越しじゃ分からないものが、すぐそこにあるって、なんか、嬉しいんだ」
マユミは少しだけ照れて、でも意地悪そうに笑ってこう言った。
「でも、ショートカットの美容師さんの時は、めっちゃ楽しそうに話してたじゃない。あたしと話す時よりずっとテンポ早かった気がするんだけど」
ボクはふっと息を漏らしながら天井を仰いだ。
「あれは、なんていうか……彼女の軽さに合わせて、ボクも浮かんでたんだと思う。マユミと話す時は、沈めるっていうか、落ち着く。沈黙しても、平気だから」
マユミは少しだけ髪を指で触りながら言った。
「……なんか、それズルい。落ち着くって言われたら、嬉しいけど……女としてのドキドキは、ないってこと?」
ボクは顔をあげて、まっすぐにマユミを見た。
「違うよ。落ち着くって、惹かれてる証拠だよ。ボクが無理しなくていい相手って、そうそういないから」
そしてイヤホンを抜いて、浜崎あゆみの『Who…』のCDをコンポに入れる。

スピーカーから流れる声が、少しだけ部屋の空気を揺らした。
マユミはそれを聴きながら、小さく呟いた。
「……じゃあ、たまにはあたしも強がってみようかな」
「それはそれで、きっとマユミらしい気がする」
二人の間に沈黙が流れる。でも、それは不安なものではなかった。
まるで、言葉じゃなくても通じる時間のように、やわらかく部屋を満たしていた。
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