☀️『晴れた休日、本屋までのほっこり散歩と夫婦のやさしい時間』
休日の朝。カーテンの隙間から、やわらかな陽が差し込んでいた。
いつもよりゆっくりと目を覚ましたボクは、枕元のマユミの寝息を確認してから、そっとベッドを抜け出した。
今日はいい天気だ。風も穏やかで、空はすっかり初夏の色をしていた。
顔を洗い、歯を磨いていたら、マユミが起きてきた。
「ヒロ、今日起きるの早かったのね」
「うん、マユミ、ちょっと本屋行ってくるね」
リビングに行くと、マユミがコーヒーとこんがり焼いた厚切りにしたトーストを用意してくれていた。
いつも、マユミはボクの好きなバタートーストを作ってくれる。

「マユミ、また新しい案件が来るから、その資料用にデザインの本を買おうと思うんだ。ちょっと高いけど、いいかな?」
「……仕方ないよね。会社が買ってくれればいいのに。今までだって、勉強に使った本、全部ヒロの自腹だったもんね、仕事に必要だからって1日で1万円分の本買ってきた時は、エッって思ちゃったし!」
マユミは少し早口になって、プンプンと口をとがらせた。
「ほんと……会社にお金を“あげてる”ようなものよ。すごくお金、かかってるんだから、知らん顔する会社もすごいよね!」
「うん……でも、もうすぐ変わってくると思うよ。最近はコンプライアンスも重視されてきたし、きっと」
「……あ、ヒロ、ついでにこの雑誌、見てきてくれる?」
スマホの画面を差し出してくるマユミ。そこにはファッションとコスメの特集雑誌が映っていた。
「了解。あれば買っておくね」
「お願い、ありがとう」

玄関でスニーカーを履きながら、ボクはふと、久しぶりに散歩がてら歩いて行こうと思った。
仕事でいつもPCと向き合ってばかりだし、こういう日くらい、空でも見ながらのんびり歩くのも悪くない。
アスファルトに影がくっきりと伸びて、すれ違う親子連れや犬の散歩中の人たちが、どこかみんな笑顔だった。
ボクはよく行く本屋○○堂までの道すがら、咲きはじめた紫陽花や、道端に置かれたプランターのトマトの苗に目を留めたりしながら歩いた。

こういう「何でもないもの」が、ボクには一番、やさしい風景に見える。
本屋に着いて、目的のデザイン書を手に取る。
ページをめくるたび、色やフォント、レイアウトの工夫に見入ってしまう。

それはもう、ちょっとした小旅行みたいだった。
マユミに頼まれた雑誌も雑誌コーナーに行って探した。

なかなか、女性誌のコーナーは来ることがないし、女性の方たちばかりだから遠慮するね、1冊だけありました、見つかって良かったので、早速レジへ。

会計を済ませて、袋を見て「重たいかもな」と思いつつも、それすら今日は心地よく感じた。
帰り道、公園のベンチで少し腰掛けていると、スマホが鳴った。
マユミからのメッセージだった。
「お日様に照らされたヒロが、どこかにぼーっと座ってる気がして送ってみた。もうすぐお昼だよ〜」

ふふ、と笑ってボクは返信する。
「読んでたら長居しちゃった。そろそろ帰るよ」
カメラロールには、ベンチの上に置かれた本の背表紙と、遠くに見える木漏れ日の写真が残った。
ほんのちょっとの徒歩で20分弱の、遠出。
でも、こんな風に自分のペースで歩いて、帰ればマユミが「おかえり」って笑ってくれる――
それだけで、今日という日は、十分に「いい日」だった。