今日は久しぶりの休日。 ヒロは朝から静かに、毛布にくるまっていた。
「今日は、体調整える日なんでしょ。だから、無理しないでね」

昨夜、マユミがそう言ってくれた。 ヒロは、それを“免罪符”のように胸にしまい、安心して眠りの中へ入っていった。

体調を崩したあの頃を、ふとした拍子に思い出す。 あの時から、ヒロは少しずつ生活のペースを変えて、 いまは、無理をしない日を“自分で選ぶ”ようになった。
それを知っているからこそ、マユミは静かに、家を出ることにした。
風がほんの少し湿り気を帯びて、頬にやさしく当たる。 初夏の公園は、緑がやわらかく光を跳ね返している。

「こういう日は、歩くのも悪くないな」 マユミはそう思いながら、ゆっくりと歩き出した。
家の近くの公園を抜けて、その先にあるスーパーまで。 今日は、クルマではなく“歩いて”行くと決めていた。
ウォーキングのような、お散歩のような、そんな距離。
公園の中にはベンチが並び、木陰には小さな子どもとお母さんの姿がちらほら。
日差しはやわらかく、でもしっかりと初夏の気配を伝えてくる。

マユミは、スニーカーの紐を少しだけ締め直して、歩調をゆるめた。
「今日は、ヒロの好きなミネストローネにしようかな……」
そんなことを考えながら歩く時間は、不思議と心を軽くする。
ふと、バッグの中の保冷バッグがカタッと音を立てる。 冷たい保冷剤も、ゆっくり揺れていた。
公園の出口が近づいた頃、風が一段と強くなり、マユミの髪をやさしく揺らした。
振り返ると、まっすぐ続く木々の影が、まるでヒロのいる家へ続いているように思えた。
マユミはそっと微笑んで、前を向いた。

——今頃、ヒロは毛布に包まれて、静かな時間を過ごしているだろう。
その空気が、乱されないように。 マユミは一歩ずつ、静かに、でも確かな足取りで買い物へ向かっていく。
やさしい初夏の午後。 ふたりは別々の場所で、同じように、おたがいを想っていた。
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