☀️『休日の朝と、ほんのり香る姉の香水』
休日の朝。
キッチンからは、ジュウッとトースターの音と、コーヒーの香りがふわりと漂ってくる。
マユミはパジャマを着替え、部屋着で朝ごはんの準備中。

ヒロは寝室で、ぐっすり眠っていた。
久しぶりの休日。
昨夜、マユミがふと笑って「明日はゆっくり寝てていいよ」と言ってくれたから、ヒロは安心して「昼まで寝るから」と宣言していた。
いま、寝室のベッドの中。

優しく差し込む朝の光も気にせず、毛布にくるまり、深い眠りの中にいる。
ヒロにとって“眠ること”は、ただの休息じゃない。疲れた身体と心をリセットする、大切な時間だ。
体調を崩してからというもの、無理をしないこと、そしてちゃんと休むことを、少しずつ覚えてきた。
だからこそ、今日のこの休日は、ヒロにとって静かな「整える時間」でもある。
マユミもそれをよくわかっていて、そっとヒロの眠りを守ってくれている。
家の中では、朝の音が小さく響いているけれど――その静けさの中に、ちゃんとした優しさがあった
時々、寝室を見に行くと、寝返りの音と、静かな寝息だけが聞こえてきた。
洗面所からは「ブオォォォ……」とドライヤーの音。

マキが出かける準備をしているらしい。今日は大学の友達と、映画を観に行くんだとか。
やがてドライヤーの音が止まり、パタパタと軽やかな足音がリビングへ近づいてくる。
「お姉ちゃーん、朝ごはん」
髪を整え終えたマキが、顔だけ出してのぞきこむ。
「ん? もう出かけるの?」
「うん、あと30分くらいで出たいんだけど……お姉ちゃんのDiorの香水、貸してくれない?」
マユミはトーストを裏返しながら、ふっと笑った。
「洗面台の上に置いてあるよ。好きに使っていいから」
「ありがとー」
マキはうれしそうに「すんっ」と鼻を鳴らしながら、また洗面所へ戻っていった。
その背中を見送りながら、マユミは思う。
(……あの子も、いつの間にか大人っぽくなったなぁ)
マユミはそっとキッチンから寝室のほうを見に行った。
毛布の山から、ヒロの髪の毛が少しだけのぞいている。

(……まだ、すやすや寝てる)
そんな何気ない朝の時間。
でも、香ばしいパンの香りと、姉妹のあたたかい空気、それに優しい寝息が、家の中にゆっくりと流れていた。
