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『助手席のプレゼントと、由比ヶ浜の“ありがとう”』:過去日記148

# マユミの労い

朝の空は、少し霞んでいて、海の匂いが混ざったやわらかな風が流れていた。
今日は、大きなプロジェクトの納品から一夜明けた日。
マユミは、少し疲れた顔で、家の玄関を出た。
「今日もクルマ、お願いね」

いつも通りの言葉に、ヒロは静かにうなずいて、運転席へ。
マユミが助手席のドアを開けたその時――

ImageFX過去日記マユミ
「……え?」
足元に、白い紙袋がそっと置かれていた。
その中には、小さなギフトボックスと、折りたたまれたカードがひとつ。
『マユミへ、プロジェクト、本当におつかれさまでした。今日はこのまま、まっすぐ帰らない予定です。助手席に、もうひとつの楽しみが入っています。ヒロより』
マユミは、思わず息を飲んだ。
なんだかくすぐったいような、嬉しいような、不思議な気持ち。

ImageFXマユミ
カードの下には、淡い色のラッピングペーパーに包まれた、『ロクシタン』のハンドクリームとマユミの好きな紅茶のセット。


それは、以前マユミが「これ、好きなんだ」と呟いたことを覚えていたヒロからの、小さなサプライズだった。

会社に到着して…午前中、会社の空気はどこか明るかった。
大きなプロジェクトの納品を終えて、みんながホッとひと息ついていたからだ。

ヒロとマユミも、最後の確認作業を終えて、ようやく席を立った。
午後3時すぎ、少し早めの退社。ふたりでそっと会社を出た。

「ちょっとドライブしようか」
ヒロの言葉に、マユミは笑ってうなずいた。

ImageFXマユミクルマ

そのまま、車は西へ向かう。
夕陽に染まり始めた国道134号線を走りながら、ヒロは時折ちらりとマユミを見た。
「疲れてない?」
「ううん、平気……なんか、すごく元気出てきた」
少し照れたように、マユミが笑った。

やがて、車は由比ヶ浜の駐車場に着いた。
海は静かで、遠くに江の島が霞んで見える。
ヒロは後部座席から、保冷バッグをそっと取り出した。
中には、マユミの好きなサラダとキッシュ、それに瓶入りのスパークリングアップルジュース。
「実はね、今朝、会社の冷蔵庫にこっそり入れておいたんだ」
マユミが驚いたように目を丸くする。
「冷蔵庫って、あの大きいやつ?」
「そう。誰にも見つからないように、裏側の棚の一番奥。ちょっとしたスパイ作戦だったよ」
マユミは思わず吹き出して、「ふふ、もう……なにそれ」と肩を揺らして笑った。
「だってさ、今日はマユミを労う日って決めてたから、ちゃんと美味しい状態で食べてほしかったんだよ」
その言葉に、マユミはふっと口元をゆるめて、少し照れたようにつぶやいた。
「……そんなことまで考えてくれてたんだ」
ヒロは、少し照れながらも満足げに笑った。
「うん、今日はマユミの日だから」
「今日はさ、外でディナーじゃなくて……この中で、乾杯しない?」
車の中にランタン代わりのミニLEDライトをつけて、ふたりは紙コップで乾杯した。

ImageFXマユミ
「おつかれさま、マユミ」
「……ありがとう。ほんとに、ありがとう」
マユミは、ふっと肩の力を抜いて、ヒロの肩に頭を預けた。
窓の外の夕焼けが、やわらかくふたりを包む。
「この仕事が終わったとき、真っ先に“終わったね”って言ってほしかったの、ヒロに」
「……言えて、よかった」
波の音と、カモメの声と、微かなエンジン音。

クルマの中は、ささやかながら、あたたかなホームだった。
そして、ふたりは小さく笑い合った。
マユミの目元が、すこし潤んで見えたのは、夕陽のせいだったかもしれない。
今日だけの、助手席の“ありがとう”。
そんな夜が、いつまでも記憶の中で、やさしく灯り続けるように――。

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