『ハーブティーと、ボクのマイルール』
休日の午後。
マユミがバルコニーから「ちょっと待っててね」と声をかけると、ボクはそれが“ハーブタイム”の合図だとすぐにわかる。
ハーブの葉にそっと触れて、嬉しそうに葉を摘んでいる姿。
あれはマユミの“秘密の趣味”であり、“特別な時間”だ。

バルコニーにあるハーブたちは、毎日手をかけているだけあって、葉っぱがどれも生き生きしている。
風に揺れるたび、ミントやレモンバームの爽やかな香りがリビングまで届いてくる。
「今日はフレッシュハーブで、カモミールとミントを合わせてみたよ」

ボクはそれを見ながら、どこかくすぐったい気持ちになる。
ハーブティーは、どうやら熱湯の温度や蒸らし時間にコツがいるらしい。
「ドライハーブより香りが強いから、ちょっと優しく淹れるのがいいんだよ」
嬉しそうにそんな豆知識を披露するマユミ。
ボクは料理は得意だけど、実は日本茶の渋い味の方が馴染んでいて、香りの強いハーブティーは正直、少しだけ苦手だった。
でもね。
マユミが「一緒に飲もう」と言えば、それがボクの“マイルール”になる。
「うん、じゃあ今日もちゃんと飲むよ」
差し出されたカップから立ち上る、やわらかな香り。
ミントの清涼感と、カモミールの甘い香りが混ざり合って、それは、まるで日だまりみたいな飲みものだった。
一口飲んで、ゆっくり息を吐く。
「……爽やかだね」

「でしょ? ちょっとだけ、好きになった?」
「うん。……マユミが好きなら、ボクも好きになる努力するよ」
そう答えると、マユミは笑って、「ありがとう。変な使命感、健在だね」とからかってきた。
ボクは苦笑しながらも、心のどこかでその“使命感”を、大切にしている自分がいる。
渋くて甘い日本茶の味は、ボクの中にずっと根付いているけど。
たまにはこんな風に、草原みたいな香りをすするのも、悪くない。
きっとこれは、“ふたりで暮らす”っていうことの、ひとつの風景なんだろう。
カーテン越しに入る風が、ティーカップの香りをふわりと運んできて、ふたりの部屋に、ちいさな癒しの時間を満たしてくれていた。
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