「ぎりぎりの月曜日」
その週は、ずっとバタバタしていた。
プロジェクトの締め切りが目前に迫っていて、オフィスには、疲れた顔が並んでいた。
ボクも連日の深夜勤務。
本当は、途中で帰りたかった。
けど、目の前に山積みになったタスクを見て、足が止まらなかった。

──いま、手を抜くわけにはいかない。
そんな意地だけで、パソコンに向かっていた。
三日目の夜、マユミがそっと、ボクのデスクに近づいてきた。
「ヒロ……」
小さな声で呼ばれて顔を上げると、マユミが不安そうな顔で立っていた。

「我慢してるでしょう?」
笑ってごまかそうとしたけど、マユミの目は、真っすぐだった。
──マユミは全部わかっているのだから、詳しく説明すると、昔、ボクは深夜1時まで作業して、片付けて、業務日誌を付けて、会社を出るのが深夜2時、それから家に帰ると、マユミが起きて待っていた。
それからすぐに静かに風呂に入り、15分くらいで出て、晩ご飯を食べる。マユミがちゃんと用意してくれて、眠るのが3時くらいで、2時間の仮眠後、朝5時過ぎ家を出て、朝6時半には作業していた。
こんな朝から会社に入るのには、赤外線セキュリティをパスワードで切り、合鍵で入っていた。
それが3日間続いた。半分諦めながらプロジェクトをやり遂げた。
今だと完全にブラック企業だ!
それで、さすがにヘトヘトだけど、まだ、若さで何とかなっていた。
だけど、それがたたって体壊した、一生薬の世話になるようになったけど、会社は知らぬ顔。
辞めるわけにはいかない、マユミがいるからね、養わないといけないから。
「大丈夫。あとちょっとだから」
そう答えるしかなかった。
マユミの顔が、ふっと曇った。
「……ヒロ、先に帰るね…」
「あっ、マユミこれ」と言って、クルマのキーを渡した。

「遅くなって、終電過ぎたらタクシーで帰るから心配しなくていいよ」とマユミの耳元で小声で言った。
けれど、その場では、それ以上何も言わなかった。
他の社員たちの手前、マユミも、仕事仲間としての顔を崩さなかった。
──そのあと。
今日は家に何とか帰れた。
遅い晩ご飯を食べた。マユミがちゃんと用意してくれていたので、風呂入った後に少しゆっくりできた。

マユミの声が、ほんの少しだけ震えた。
「ヒロ……。お願いだから、一日だけでも、休んで。ね?」
ぽつりと、それだけ。
泣きそうなのを必死にこらえている顔だった。

そんな人が、目の前にいるってことが、こんなに、心をあたためるなんて。
「……わかった。休むよ」
声にするのに、少し時間がかかった。
けれど、マユミは、少しほっとしたようだった。

「ちゃんと、会社にも伝えておくからね」
マユミはそう言って、ちらりとボクに向けた視線は、誰よりもあたたかかった。
──ああ、
こんなふうに心配されるなんて。
ボクは、ひとりじゃないんだな、って。
そう思った。
そして次の日。
とうとうベッドから起き上がれなくなった。