初めての告白
ヒロにとって、マユミとの仕事は気楽で楽しいものになりつつあった。元カノへの未練は、マユミの自然な振る舞いと優しさの中で、すでに遠い記憶のようになりつつある。
マユミは社内で信頼されている存在で、仕事の調整をする能力も高い。


そんな彼女が、ふとしたタイミングでヒロと二人きりになるような状況を作ることが増えてきた。
会社の仕事がひと段落し、休憩のタイミングを見つけたヒロは、ふと屋上に出てみることにした。春の始まりの風が柔らかく吹き抜け、遠くの空は午後の陽射しが眩しくなり始めている。
静かな時間——そこに、マユミの姿があった。

「珍しいね、屋上に来るなんて」
マユミは手すりに軽くもたれながら、ヒロを見上げる。
「うん…ちょっと息抜きしようと思って」
二人だけの空間。いつもの職場とは違う距離感が、ヒロの胸の奥を少し締めつける。
そして、ふと——ヒロは言葉を紡ぐ。
「マユミさんに…話したいことがあるんだ」

マユミが、少し驚いたように目を向ける。
「うん、どうしたの?」
ヒロは、一瞬ためらった。
でも、今、誰もいないし、ここで言わなければ、ずっと言えない気がしていた。
「元カノのこと——もう、どこにいるのかも分からない。連絡も取ってない。ずっと心の中にいたけど…気づいたら、何年も経っていて、もう思い出すこともほとんどなくなってた」
マユミは静かに聞いている。余計な言葉を挟まずに、ただヒロの言葉の続きを待っていた。
「それでね。迷惑かもしれないから言いたくなかったんだけど…」
風が吹き抜ける。

「マユミさんが来てから、ボクの心の隙間は、マユミさんでいっぱいになってしまってた」
マユミは目を少し大きく開く。
「……聞きたくなかったら、無視してもいいから…」とヒロ一段小さな声で話し始めてた。
ヒロは息をついて、少し視線を落としながら、静かに続ける。

「……ボクは、マユミさんのことが好きです」
「……もう止められない…マユミさんが好きになった」
初めて口にする本当の気持ち。でも、それはまるで風に溶けてしまうような、小さな声だった。
マユミはヒロの顔をじっと見つめたあと、ふっと笑う。
「……小さい声すぎて聞こえなかったかも」
ヒロは照れ隠しに口元をゆがめる。
「言ったことは聞こえなくても、なんとなく分かったよ」
その言葉に、ヒロは少し安心したように、でもまだぎこちない表情のまま肩の力を抜いた。
「だから、ボクはマユミさんと一緒に仕事をやりたい」
「うん」
「デスクも、そばにいたい」
「それは……もう、隣にいるね」

初めての告白がうまくいったことで、ひとまず安心していた。
しかし、マユミのような女性が本当にボクの告白を受け入れてくれたのかは、まだ確信が持てない。
ヒロは、これで終わりだとは思っていない。ボクのような冴えない男の告白を受け入れるなんて、到底考えられないし、これは夢に違いない。
だからこそ、ヒロはこれから何度も告白するつもりでいる。
二人は、明るい日差しが降りそそぐ屋上で、ゆっくりと同じ風に包まれていた。