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誰にも言えなかった恋:秘密のうどん屋と、今は隣にいる幸せ:過去日記097

夕食はうどん

会社が終わってから、ボクらは久しぶりに、あのうどん屋さんへ向かった。

まだ二人が“秘密”だった頃、よく通っていた店だ。

 

あの当時、お客さんは、ボクら2人だけで、シーンとしていた。

ImageFX彼女!過去日記うどん屋

会社から離れた方向にあって、あの頃はマユミのクルマの後を、ボクのクルマでついていった。

 

場所は、大通りから外れた住宅街の中。

派手さもなく、有名チェーンでもない。だけど、どこか安心する、そんな店。

マユミは、会社の誰にも会わないようにって、ここを選んだんだよね。

店に入ると、今日はお客さんはけっこう多かった。

ImageFX彼女!過去日記うどん屋

 

うどんは、まあ普通。でも、決してまずくはない。

今日はお客さんの賑わいがあるけど、あの当時と変わらない空気が流れていた。

サッと食べて、サッと出る。

その感じも、あの頃と変わらない。

クルマに乗り込んで、信号待ちのときに、マユミがぽつりとつぶやいた。

「ねぇ、覚えてる?あの頃さ、帰りもなんかぎこちなかったよね。別々のクルマなのに、タイミングとか妙に気にしてさ」

ボクは思わず笑ってしまった。

「そうそう。信号で並んじゃうと焦って、わざと少し遅れて出たりしてた」

マユミも笑いながら、ちょっと遠くを見ていた。

「今は、もう隠さなくていいんだもんね。帰る家が同じって、すごく安心する」

その言葉に、ボクの胸がふわっとあたたかくなる。

「うん。こうして何気なく隣にいられることが、こんなに嬉しいって思わなかった」

夜の住宅街を走るクルマの中。

外は相変わらず静かだけど、車内にはふたりだけの穏やかな時間が流れていた。

家に着いて、玄関のドアを開けると、ふわっとあたたかい空気が迎えてくれた。

 

靴を脱ぎながら、マユミがぽつりと言う。

「ただいまって、言わなくても一緒に帰ってきてるのが、なんか不思議」

「言ってもいいよ。“ただいま”って」

ボクが笑って言うと、マユミはちょっと照れたように頷いた。

「うん……じゃあ、あらためて。  

ただいま、ヒロ」

「おかえり、マユミ」

なんでもない一言なのに、やけに胸があたたかくなる。

リビングに入って、マユミはソファにぽすんと座りながら言った。

「それにしても、今日のうどん屋さん、けっこうお客さんいたね」

「だね。あの頃は、いつも2人だけが多かったのに。時間が早かったからかな?」

「うん。でも、なんかちょっと安心した。潰れてなくてよかったなーって」

ImageFX彼女!過去日記うどん屋

「わかる。あの時の空気感は残ってたよね。静かだけど、どこかあったかくて」

マユミはうんうんと頷きながら、クッションをぎゅっと抱えた。

「でもさ、前はさ、ボクのクルマが先に出ると、ミラーでマユミのクルマが曲がっていくの見て、ちょっと寂しくなってた」

「……うそ、わたしも同じこと思ってた。ミラーで見てた。なんかね、見届けたくて」

そう言って笑うマユミの声が、ちょっとだけ甘くなる。

「今は、そういうの気にしないで一緒に帰ってこれるから、いいね」

「うん。たぶん今が一番、幸せだと思う」

ImageFX彼女!過去日記うどん屋

テレビもスマホもつけず、ただ静かな部屋に、二人の声だけがぽつぽつと響いていた。

ただ、お互いがいて、やわらかく笑ってる。

 

なんてことないけど、かけがえのない夜だった。

 

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