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切ない過去と未来への予感 - ヒロとマユミの恋の始まり【外伝】:過去日記外伝1話

「ヒロとマユミ —ふたりの始まり— 外伝」

本編では語りきれなかった、ヒロとマユミの恋の始まりから告白までの物語を、外伝としてまとめました。

一部、本編と重なるエピソードもありますが、初めて読んでくださる方にもわかりやすくお届けできるように編集しています。

ふたりの特別な時間を、どうぞゆっくりお楽しみください──

 

さよならを言う前に

ボクの名前はヒロ。

ちゃんと、付き合っていたはずの彼女がいた。

でも、ある日、ふいにいなくなった。

連絡は取れなくなって、別れの言葉もなくて。

なんだか、すごく静かに、消えてしまった。

電話は解約されていたし、住んでいた部屋にはもう誰もいなかった。

どうしてだろう──そう思いながらも、答えは見つからなかった。

何かサインはあったのか?

ボクの言葉、態度、気づくべきことがあったんだろうか?

思い返そうとしても、はっきりとは思い出せなくて、どこか曖昧なままだった。

「捨てられた」って思うのは、あまりにも寂しすぎて。

だからボクは、その記憶をそっと奥にしまっていた。

 

でも、人って、案外そういう曖昧なままでも生きていける。

それでも、ふとした瞬間に、その曖昧さが痛みに変わることもある。

たとえば、雨の匂いとか。

すれ違った人の、似たような後ろ姿とか。

誰かの名前の、イントネーションとか。

 

***

──5年後、そんな日々の中で──マユミが入社してきた。

初めて見た時、時間が止まったような気がした。

背筋が伸びていて、透明感のある空気をまとっていて。

まるで、光を連れてくるみたいに、そこにいた。

 

目が離せなくなった。

「どうして、この人はこんなにも存在感があるんだろう。」

そんなことを思っている間に、周りのみんなは普通に話していた。

ボクだけが、静かなままだった。

声をかけようとしても、なぜか言葉が出てこない。

目を合わせるのが怖いような気がして、つい視線を外してしまう。

自分でも不思議だった。

初対面の人と話すのは苦手じゃないのに。

むしろ、少し知り合いになったほうが気を使うくらいなのに。

なのに、その日は何も言えなかった。

ただ、胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。

それが、マユミとの出会い。

 

***

──そして、数ヶ月が経った。

その日、ボクは別のフロアでひとり作業をしていた。

そこへ、マユミがふいに現れた。

 

「ヒロさんのフォローをお願いしたいって、上から言われて」

やわらかく微笑みながら、そう言った。

心臓が跳ねた。

なんで彼女なんだろう?

この役、別の誰かでもよかったんじゃないか?

たまたまなんだろうけど、それでも、理由を探したくなる。

ドキドキする。

誰にも言ってなかったのに。

 

彼女のことが気になって仕方ないなんて、そんなこと、誰にも言えるわけないのに。

それから、マユミはときどき様子を見に来てくれるようになった。

仕事のことだけじゃなくて、家族のこととか、住んでる場所とか。

ただ、1回だけマユミに「なぜ、こんな会社に入ったの?」と聞いた、ボクから見たらマユミならもっと他に良い仕事に就けるだろうと思った。

こんな地味な仕事、マユミからの返事は残念ながら覚えていない。

そんな、なんてことない会話が少しずつ増えていった。

それだけで、今日はいい日だったと思えた。

それだけで、嬉しかった。

 

***

──そして、ある日ふと気づいた。

元カノのことを考える時間が、前より少なくなってることに。

あんなに空いていた心の隙間が、マユミと話す時間で、少しずつ埋まっていくのを感じた。

元カノと話していた時は、こんな感情にならなかった。

元カノとの時間は、もっと表面的だった気がする。

ただ会って、ただ話して、ただ過ごして。

それ以上でも、それ以下でもなかったような。

 

でも、マユミとは違った。

彼女との会話には、何かあたたかいものがあって。

言葉のひとつひとつが、ボクの中に積み重なっていった。

 

でも、やっぱり話せない日もあった。

タイミングを逃して、背中を見送るだけの日もあった。

ボクの気持ちは、まだ始まったばかり。

好きになるって、思ってたよりもずっと不器用で、

ずっと、勇気がいるものだった。

でもね、

「苦しいな」って思えたこととか、

「話せなくて悔しいな」って感じたことが、

気づけば、ボクの中で“恋”という名前に変わっていた。

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