「ちょっとした事件と、ちょっとした幸せ」
歩道橋の最後の一段を踏み外した瞬間、鋭い痛みがマユミの足に走った。
「……いったぁ」
彼女はその場に座り込み、そっと足首を押さえる。ボクは慌てて駆け寄り、足を覗き込んだ。

「大丈夫!?ほら、ちょっと触らせて」
マユミは苦笑しながら、ボクの手を受け入れる。
「まぁまぁね…でも、動かすとちょっと痛いの」
ボクは眉をひそめ、すぐに彼女をおぶってクルマへ向かった。

***
病院の玄関を出ると、マユミは松葉杖を手にしながら、ぎこちなく歩こうとしていた。
マユミは、捻挫で全治2週間の診断だった。
「なんか、慣れないわね、これ、それにこの包帯大袈裟ね」
「無理しないで。ほら、ボクが支えるから」

ボクは彼女の腕をそっと支えながら、マユミをボクは軽く肩をすくめながらクルマのドアを開く。
マユミをそっと助手席に座らせて、そっとドア閉め、クルマに乗った。
マユミがふいに顔を向けた。
「ねえ、会社は?」
「ボクは普通に行くよ」
マユミは少し驚いたように目を丸くする。
「えっ、休まないの?」
「もちろん休めればいいけど、さすがにボクまで休むわけにはいかないからね。でもできることはちゃんとやるよ」
マユミはちょっと考えるように口をつぐんだあと、ふっと笑った。

「……なんか残念ね。せっかくだから一緒にゴロゴロできると思ったのに」
「ゴロゴロするのは君だけだよ。しばらく安静にしなきゃ」
「えー、それはそれで退屈だわ」
***
家に帰ると、マユミはソファに座り、足を伸ばしながら包帯をそっと巻き直していた。
「仕事行く前に、できるだけ準備しとくから、何かあったらすぐ連絡して」

「それじゃあ…何か食べ物をちゃんと作っておいてほしい」
「もちろん。朝と昼ご飯作って行くから、あと水分補給も忘れないでね」
ボクはキッチンへ向かいながら、ひとり言のようにつぶやいた。
「君が動けるようになるまで、ちゃんとフォローするよ」
「ふふ…それなら安心ね」
こうして、ちょっとした事件があった日も、ふたりの時間は変わらず穏やかに流れていく。