マユミの引っ越しも終わって
マユミは額に張り付いた前髪を払いながら、ソファにドサッと座り込んだ。
引っ越し最終便を運び終えた車から戻ったボクは、その隣に腰を下ろす。

「お疲れさま。これでついに本当に、ボクたち一緒に住むんだな」
「今さら何言ってるのよ。もう後戻りできないんだから、覚悟しなさいね」
マユミは冗談めかして言うけれど、わずかに揺れる声の端が、ボクには何かを隠しているように思えた。
「ちょっと、もうダンボールはしばらく見たくないわよ」

まだ整理されていないダンボールが山積みになった部屋は、まるでこれから新しく紡がれる物語の伏線みたいだった。
ボクは背もたれに体を預けながら、ふと思いつく。
「マユミのソファ、座り心地いいよな」
「うん、長年使ってるけど、手放したくなくて持ってきたのよ」
「正解だよ。これ、いい感じだし捨てなくてよかったよな」

ボクはそう言って、自分のソファのことを思い出す。
「そういえば、ボクのソファは…とりあえず開いてる部屋に置いてるけど、どうしようかな」
「捨てるの?」
「うーん、正直そんなに広くないし、二つあっても使いきれないしな」
マユミは少し考え込むようにしたあと、ゆるく微笑む。
「あなたのものだし、すぐ決めなくてもいいんじゃない?でも、部屋の使い方もそのうち決めていかなきゃね」

ボクは彼女の言葉に「なるほど」と頷きながら、これからの暮らしが具体的になっていくのを感じた。
「何か、気分変えたいな。ご飯でも食べに行こうか?」
「うーん…そうね、お祝いだもの!美味しいもの食べたいわ!」
マユミはパッと顔を輝かせた。やっぱりこういう瞬間、彼女の笑顔は宝物だなって思うんだ。
外に出ると、春の風が心地よかった。マユミが「ねえ、これからの生活、どうなるのかしらね?」とふと呟いた。その声は期待とちょっとした不安の入り混じったものだった。

ボクは彼女の手を取って、笑って答えた。
「なるようになるさ。楽しもうぜ?」
マユミは少し間を置いて、それからふっと笑った。
「そうね。楽しくしなきゃ損よね!」
こうして、ボクたちの新しい日々が始まった。