マユミのルーティン
毎朝、マユミがボクの家に来る。
それも平日。会社に行く前の慌ただしい朝に。
出掛ける準備中ボクは歯ブラシをくわえてモゴモゴしていた。
玄関の方から人の気配が、どうせマユミだと分かっているから慌てないけど。
玄関の鍵の開く音「ガチャ」

「おはよう〜」マユミの明るい声が玄関の方から聞こえる。
最近、朝のルーティンになっている。
台風や大雪などの余程のことがない限りこうなる。

なぜかというと、会社に近いボクの家に寄って、お化粧をして会社に行くのです。
いつの間にか、マユミの化粧品がボクの家に揃っていました。
今思えば、ボクの体調不良から少しずつ、増えていって、新しく買ったら置いていくみたいに、一通り揃っています。
──そんなある日、仕事から帰ると、宅配便が届いた。

「何か頼んでたっけ?」
宅配便のお兄さんが「〇〇マユミさんからです」
「あ、あぁ」と言いながら受け取りのサイン。
マユミの宅配便がこっちに送られてきた。
不思議に思いながら箱を開けると、中には立派なドレッサー。
「え?」
タイミングよくマユミがやってきて、「あ、それ届いた?」と、あっけらかんと言う。
「ちょっとヒロの家でメイクするのに、不便だったからさ。置いといていいよね?」
「……まあ、別にいいけど」
こうして、空いている部屋にマユミの荷物を押し込んでいたら、いつの間にか彼女の部屋が出来上がりつつあった。
最初はちょっとした化粧品やスキンケア用品が洗面所に増えた程度だったのに、気づけばクローゼットの一角にマユミの服が並び、シューズラックには彼女のパンプスやスニーカーが収まっている。リビングには彼女が使う化粧品のポーチが置かれ、キッチンにはマユミが好きなハーブティーの箱が増えていた。
「ヒロ、このドレッサー、ここでいい?」
マユミの要望で、リビングの向かいの部屋にドレッサーを組み立てて置くことになった。組み立てが終わると、さっそく彼女は椅子に座り、鏡を覗き込みながら化粧を始めた。コンパクトを開き、パフをぽんぽんと肌に当てる仕草が妙に板についている。

「なんかさ、ここ私の家みたいじゃない?」
マユミはそう言って笑う。まったくその通りだ。ボクの家だったはずなのに、いつの間にかマユミの存在感がどんどん大きくなっている。けれど、不思議と嫌じゃない。
「まあ、いいよ。ボクが望んでいることだから」
ボクの言葉に、マユミは少しだけ驚いたような顔をした。
「……そっか」
それだけ言って、また鏡に視線を戻す。
マユミが傍にいてくれるだけで、気持ちが安らぐ。仕事のストレスも、彼女と話しているときは不思議と軽くなる。この部屋はきっと、自然とマユミの部屋になっていくのだろう。
この部屋リビングの次に広い部屋だ。
……次はベッドが届くんじゃないか。
そんな予感を抱きながら、ボクは彼女が化粧を仕上げていく様子をぼんやりと眺めていた。