マユミのお引っ越し大作戦
最近、マユミの私物がどんどんボクの家に増えている。

最初は化粧品だった。それがいつの間にか部屋着、スリッパ、マグカップと増えていき、今ではクローゼットの一角に彼女の洋服まで並んでいる。
「ねぇ、そろそろこのスペース、もう少し広げてくれない?」

クローゼットの中を見ながら、マユミが当然のように言う。
「うん、今度もう少し開けとくよ」
──あれ? これってもう、半分引っ越してきてるんじゃないか?
ボクはその瞬間、今までの流れを振り返る。
マユミとはもう長い付き合いだ。
ボクの家にも彼女の家にも、互いに当たり前のように出入りし、彼女の親ともすっかり打ち解けている。
先日も急にお母さんが遊びに来た。

「ヒロくん、ちゃんと栄養のあるもの食べてる?」
「え、あ、まあ……それなりには」
「なにそれ、『それなり』って。マユミ、ちゃんとヒロくんの食生活見てあげなさいよ」
「えー、見てるけど?」

「あなたもすぐ外食で済ませるでしょ? 二人とも、もっとちゃんと食べなきゃダメ」
そんな風に、お母さんは終始ボクの健康を気にしていた。心配性というよりも、親として当然のように。
「マユミをよろしくね、でも、あなたも自分の体を大事にしなさいよ?」
最後にそう言われて、ボクは姿勢を正しながら「はい」と返事をした。いつの間にか、家族みたいな関係になっていたことに気づいて、なんだかくすぐったい気持ちになった。
シャキシャキと明るくて、ハキハキしたところは、確かにマユミにそっくりだ。
そもそも、一緒に住むことを考えたのはボクのほうだった。家賃や光熱費をそれぞれ払うよりも、いっそのこと一緒に住んだほうが合理的だし、何よりもマユミと毎日一緒にいられる。
でも、それを言い出す前に、マユミの引っ越しはもう始まっていたらしい。

「なに?」
ボクの視線に気づいたのか、マユミが振り返る。
「いや、別に……」
なんだかおかしくなって、ふっと笑う。
「なによ、それ」
「いや……もうほぼ住んでるなって」
「今さら?」
マユミが呆れたように言って、それから悪戯っぽく笑う。
「じゃあ、正式に住んじゃおうか?」
ボクがそう提案すると、マユミはクローゼットの中の洋服を掛け直しながら、少しだけ考えるふりをした。

「……うん、いいかもね」
さらりと言うその口調に、ボクの心臓が跳ねる。
「え、いいの?」
「だって、そうするつもりだったし」
「え?」
「だから、ヒロの家への引っ越し、もう始まってるじゃない」
……やられた。
ボクが言い出すより前に、マユミはとっくにそのつもりだった。
「……じゃあ、引っ越し祝いに何か買おうか」
「ふふ、何が届くか楽しみにしてて」
マユミが小さくウィンクする。
こうして気づけば、ボクの家は、もうマユミの家でもある。
──楽しくて、ウキウキする新しい毎日が、また始まりそうな気がした。