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安心と信頼の絆ヒロだけの特権:家族のような時間:過去日記082

「はい、ヒロだけの特権」

そう言って、マユミが合鍵を渡してくれた日のことを、ボクは今でもはっきり覚えている。

「……いいの?」

「うん。だってヒロだもん」

にっこりと笑うマユミを見て、ボクはこの鍵がどれほど特別なものなのかを改めて実感した。

 

過去日記マユミの合鍵

思えば、最初に合鍵を渡したのはボクのほうだった。

10年以上前、ボクは会社で倒れたことがある。病院に運ばれたボクを、マユミは心配してずっと付き添ってくれて、退院してからも何かと世話を焼いてくれた。そのとき、マユミが言ったのだ。

「ヒロ、もしまた具合が悪くなったときに様子を見に行けるように、合鍵ちょうだい?」

 

まるで当然のように言うマユミに驚いたが、断る理由もなく、そのまま鍵を渡した。それからしばらく経ち、今度はマユミがボクに言った。

「ねぇ、ヒロ。あたしの家の合鍵も持ってて。あたしに何かあったときに、来てほしいから」

 

それは、ただの「看病のため」じゃないことくらい、ボクにもわかっていた。

そうして、お互いの鍵を持ち合う関係になったのだった。

 

 

──今日は土曜日。

ボクの家で過ごすことが多いけど、今日はマユミの家に行くことになっていた。

「鍵、使ってみようかな……」

マユミから「適当に来ていいよ」と言われていたので、ボクは試しに自分で鍵を取り出し、ドアの前に立った。

……うん、ちょっとドキドキする。

ガチャ。

静かに鍵を回し、ドアを開けると、ふんわりとマユミの香りがする部屋が迎えてくれた。 

 

「マユミー? 来たよ」

 

返事はない。

あれ? いないのか? と思って部屋の奥に進むと、リビングのソファの上で何かがもぞもぞ動いていた。

「……んぅ……」

「え?」

毛布にくるまり、すやすやと寝ているマユミがいた。

 

「……マユミ?」

寝息が聞こえる。

起こすべきか迷ったけど、あまりにも気持ちよさそうに寝ているので、そのままそっと隣に座った。

ボクがマユミの家の鍵を持っているからこそ、こうして「ただいま」みたいな感じで彼女の生活の一部に溶け込める。

 

それがなんだか、とても嬉しかった。

「ん……」

マユミが小さく動いて、ゆっくり目を開ける。

「あ……ヒロ……?」

「おはよう。寝てたの?」

「うん……」

寝ぼけたまま、マユミはボクの袖をぎゅっと掴んだ。

「……鍵、ちゃんと使ったんだ?」

「うん、せっかくだから」

「ふふ……じゃあ、これからはもっと自由に使ってね」

そう言って、マユミはボクの腕に顔をうずめる。

 

「今日は、ヒロが来てくれるって思って、油断してた……」

「油断?」

「うん……だって、ヒロが来てくれるなら安心して寝ててもいいかなって」

そんなことを言われたら、もう胸がいっぱいになってしまう。

「じゃあ、これからも安心して寝られるように、ボクがちゃんとここに来るよ」

「……約束」

マユミは眠たそうに微笑んで、もう一度毛布にくるまった。

ボクだけが持っている、彼女の家の鍵。

それは単なる物じゃなくて、二人の特別な絆の証なのかもしれない。

 

「……じゃあ、ボクも隣でゴロゴロしてようかな」

「いいよ、むしろそうして」

こんなふうに、合鍵があるからこそ生まれる、特別な時間もあるんだな。

ボクはそっと毛布を分けてもらい、マユミの隣に座り込んだ。

──今日は、おうちデート、というよりも、まるで二人の「おうち」みたいだな、なんて思いながら。

 

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