マユミと一緒にスマホショップへ
今までは、マユミの携帯もボクが買ってきて、会社でこっそり渡すのがいつもの流れだった。忙しいマユミに代わって、機種変更の手続きをするのも、ちょっとした特別な役目のようで嬉しかった。
でも、スマホになってからは「自分の好みで選びたい」と言うようになり、今回は一緒に来てほしいと頼まれた。
「ねえ、スマホ買い替えたいんだけど、一緒に来てくれる?」

そう言われたとき、ボクは思わず顔がほころびそうになるのをこらえた。マユミがボクに頼るのはいつものことだけど、こうして直接誘われるのは、なんだか少し特別な気がした。
買い物に付き合うくらい、全然かまわない。むしろ、ふたりで過ごせる理由ができるのは嬉しかった。会社では相変わらず仕事モードだけど、プライベートではちゃんと特別な関係だと感じたい。
——というわけで、日曜日。駅前の携帯ショップに一緒にやって来た。
「どれがいいと思う?」
マユミがショーケースを眺めながら尋ねてくる。並んでいるスマホはどれも最新機種で、色やデザインもさまざまだ。
「スペックとか気にする?」
「うーん、デザインと使いやすさ重視かな」
「じゃあ、このあたり?」
いくつか候補を挙げると、マユミは「うんうん」と真剣な顔で頷いている。仕事中のキリッとした表情とは違い、どこか楽しそうで柔らかい。こうして外で自由に時間を過ごせるのも、社内恋愛を公にできたおかげだ。

[rakuten:clay3:10007557:detail]
しばらく悩んだ末、彼女が「これにする!」と決めたのは、コンパクトな白いスマホだった。
「おそろいにする?」
冗談めかして言ってみたけど、マユミは「それもいいかも」と案外乗り気で、受付カウンターに向かうとスタッフのお姉さんが笑顔で対応してくれた。
「ちょうど今、新規で2台購入すると、番号がほぼ同じになりますよ。最後の一桁だけ違う番号になるんです」

「えっ、そうなんですか?」
マユミがぱっと目を輝かせた。
「いいね、それにしよう!」
「え?」
「ヒロも一緒に買おうよ」
「いや、ボクはまだ今のスマホ——」
「せっかくだし、新しくしちゃお?」
そのまっすぐな笑顔を見ていると、断る理由がどんどん薄れていく。結局、ボクも新規契約することになり、これまでの番号は廃止することにした。
契約手続きを進めていると、マユミがぽつりと呟く。
「なんか、夫婦みたいだね」
「え?」
「ほら、同じ苗字で家の電話番号がほぼ同じみたいな感じ」
「……確かに、そう言われると」

受付のお姉さんも「仲が良くて素敵ですね」と笑っている。
***
新しいスマホを受け取ると、マユミがすぐに設定を始める。
「最初に誰に電話する?」
「うーん……家族と、あとは友達かな?」
「ボクにもかけといて」
「それはもう登録済み」
嬉しそうに画面を操作するマユミを見ながら、ボクも新しいスマホを手に取った。着信履歴のない、真っさらな画面。これから、ここにどんな思い出が積み重なっていくんだろう。
***
「ね、ヒロ」
「ん?」
「次はおそろいのスマホケースにしよっか」
「……それ、ボクに拒否権ある?」
「ないよ?」
当然と言わんばかりの笑顔。こういう時のマユミは、どこまでも強い。
まさかスマホを買いに来ただけで、こんなに特別な時間になるとは思わなかった。でも、こういうささやかな出来事が、ふたりの関係をもっと深くしていくのかもしれない。
「おそろい、か……」
ぼそっと呟くと、マユミがクスッと笑った。
「ヒロ、嬉しいくせに」
……うん、まあ、そうかもね。