「◯◯くんも、もちろん参加するよね?」
上司のその一言で、ボクの逃げ道は消えた。
今夜は会社の飲み会。正直、体調も完全には戻っていないし、できればパスしたかった。だけど、業務の打ち上げも兼ねているし、そう簡単に断れない。
「……はい、行きます。」
そう答えた瞬間、向かいの席でスマホをいじっていたマユミがちらりとボクを見る。
***
居酒屋に到着すると、マユミはさりげなくボクの隣に座った。
「大丈夫?」
「何が?」
「昨日までしんどそうだったでしょ?」
「……まあ、なんとか。」
「そっか。でも無理しないでね。」
そう言った直後、別の同僚がマユミに声をかけた。

「マユミさん、飲めるよね?ほら、一杯!」
「え、あんまり飲まないほうが……。」
「いやいや、今日は特別でしょ!」
「うーん……。」
マユミはボクをちらっと見てから、ニコッと笑った。
「じゃあ、ちょっとだけ。」
***
「ヒロ〜……おかわりぃ……。」
……やってしまった。マユミは完全に出来上がっていた。

普段はしっかり者なのに、お酒が入ると途端に甘えてくる。
「ヒロ、なんでそんな遠いの〜?」
「いや、別に遠くないけど。」
「ちがーう。心の距離が!」そう言って、マユミはボクの肩にもたれかかる。

周囲がザワッとするのがわかった。
「お、おい……。」
「へへ、ヒロの肩、落ち着く……。」ダメだ。これはまずい。
「◯◯くん、マユミさんと仲良しだね〜。」
「いや、これは……。」ごまかそうとした瞬間、マユミがボソッと呟いた。

「だって、ヒロは私の……。」——え、何を言おうとした!?
ボクは慌ててマユミの肩を揺さぶる。
「おい、そろそろ帰ろうか。」
「えー、まだ飲みたいのに〜。」
「帰るぞ。」ボクはマユミのコートを取り、そっと支えるように立ち上がった。

***
「ふふ……ヒロがエスコートしてくれるなんて、特別だね?」
「……バカ。」酔ったマユミを支えながら、駅へ向かう。
「ねえ、ヒロ。」
「何?」
「さっきの、ちゃんと聞いてた?」
「さっきの……?」
「……まあ、いっか。」
マユミは小さく笑い、そのままボクの腕にしがみついた。
……勘弁してくれ。
周りに誰もいないのを確認しながら、ボクはため息をついた。