朝から体がだるい。喉も少し痛むし、頭もぼんやりする。
「やばいな……。」
体調が悪いなら休めばいいのに、納期が迫っている仕事を思うと、そうもいかない。無理を押して出社すると、マユミがすぐに気づいた。
「……ヒロ、ちょっと顔色悪くない?」
「気のせいだよ。」
「嘘。目の下、クマできてるし。」

マユミはジッとボクの顔を見つめる。視線が鋭い。
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫。」
「……まあいいけど。でも、あんまり無理しないでね?」
マユミは納得していない顔だったが、それ以上は追及しなかった。
***
午前中はなんとか乗り切ったが、昼を過ぎたあたりから、明らかにしんどくなってきた。資料を読んでいても頭に入らないし、手元のマウスすら重く感じる。
「◯◯くん、大丈夫?」近くの同僚が心配そうに声をかけてくる。
「あ、うん、大丈夫です。」
そう言って笑顔を作ったが、視界がふっと揺れた。
その瞬間、マユミがスッと立ち上がる。
「◯◯さん、ちょっと資料のことで相談があるので、会議室いいですか?」

「え?」
「ちょっとだけ、お時間いいですか?」
彼女の目が、"今すぐ来い" と言っていた。
***
会議室に入ると、マユミはドアを閉め、すぐにボクの腕を引いた。
「ヒロ、座って。」
「え、いや、でも——」
「いいから。」

強引に椅子に座らされる。マユミはバッグから小さな袋を取り出し、中から栄養ドリンクと風邪薬を差し出した。

「これ、飲んで。」
「……なんで?」
「朝からちょっと様子おかしかったから、買っておいた。」
ボクは驚いてマユミの顔を見る。
「そんなことまで……。」
「ヒロ、無理するタイプでしょ。だから、私が気をつけて見ておかないと。」
マユミは腕を組み、ちょっとだけ得意げな顔をする。
「ほら、遠慮しないで飲んで。お水もあるよ。」
「……ありがとう。」
ボクは薬を飲み、栄養ドリンクを一口飲んだ。体の奥にじんわりと染みる感覚がする。
「少しは楽になるといいけど……。」
「……ほんと、助かるよ。」
「ふふ、私が彼女なんだから、これくらい当然でしょ?」
マユミはそう言って、小さく微笑んだ。
***
午後、少しだけ楽になった気がした。
マユミが時々、ボクのデスクをチラッと見てくる。目が合うと、彼女は小さく頷いた。
バレないように気をつけながらも、そっと気にかけてくれる。その優しさが、何よりの薬だった。