昼休みのチャイムが鳴ると、マユミが携帯を確認し、静かに席を立った。俺もそれに続く。
「今日はちゃんと来たね」
「なんだかんだで、サボるわけにはいかないから」
会社のビルから少し離れた先の公園のベンチ。隣に座ると、マユミはバッグから弁当を取り出す。
「はい、作ってきたよ」
「え、本当に?」
「言ったでしょ?コンビニばっかじゃダメだって」
蓋を開けると、卵焼き、野菜の和え物、焼き鮭がきれいに並んでいた。
「健康のためだからね」
「……なんか、奥さんみたいなこと言うなあ」
「は? そんなこと言うなら、もう作らないけど?」
「冗談! すごく嬉しい!」

箸を持ち、卵焼きをひと口食べる。甘くて、なんだか懐かしい味がした。
「美味しい」
「でしょ?」
マユミは満足げに微笑む。その横顔を見ながら、ふと思い出す。
「昔、こんな風に一緒に食べたこと、あったっけ?」
「うん、あったよ。初めて組んだプロジェクトの時。休憩室で、コンビニのおにぎりを半分こした」
あの頃は忙しくて、まともな食事も取れず、深夜残業でぐったりしていた。あの夜の、疲れ果てた笑顔。
「今よりは余裕ができたかな」
「まあね。でも相変わらず仕事人間だけど」
「そっちこそ。無理してない?」
「それ、私のセリフ」
マユミがじっとこちらを見つめる。
「ちゃんと、食べること。寝ること。体調管理、大事だから」

ボクが一度、体を壊したことを知っているからだろう。こういう時、マユミはやけに真剣だ。
「分かってるよ」
「なら、いいけど」
春の風がそっと吹く。ふと手を伸ばせば、指先がマユミの手に触れそうだった。
その時、携帯が震える。
「……戻る時間だね」
「そうみたい」
二人で立ち上がる。会社に戻れば、また“普通の同僚”に戻らなければならない。
だけど、ボクは決めた。
次の残業の時、マユミに本当の気持ちを伝える。
「明日も?」
ボクが聞くと、マユミは少し笑って、
「気が向いたらね」
そう言って、ボクの前を歩き出した。
春の風が、その髪を揺らしていた。
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