昨日、先週マユミに頼まれていた梅の花の写真を撮りに行った。
見渡す限りの白い花が、風に揺れて波のように広がる。思ったよりずっと綺麗で、つい夢中になって何百枚もシャッターを切った。
良いものだけを現像して、それをCDに焼いて、今朝、マユミに渡した。
「えっ、昨日行ってくれたの? うわー、助かった! 土日、雨っぽいからどうしようかと思ってたのよ!」

マユミは満面の笑みでCDを受け取る。
その瞬間、周りの景色が色を失った気がした。梅の花より、朝日より、彼女の笑顔のほうがまぶしい。
「昨日ね、ヒロを探しに公園まで行ったんだ」
唐突にそんなことを言い出すものだから、一瞬、頭がついていかない。
「……え?」
「ヒロを探しに行ったの」
探しに? ボクを?
「いやいや、昨日ボク、公園にいたけど……誰とも会わなかったよ?」
「えー、そうなの?」
マユミはわざとらしく首をかしげる。
「おかしいなぁ。確かに見たんだけどなぁ」
「……見間違いでしょ」
「ふふ、どうだろうね?」
その顔が、いたずらを仕掛ける直前の顔に見えて、ボクは妙な緊張感を覚える。
そのとき、オフィスの奥から声が飛んできた。
「マユミさーん、資料もらっていいですか?」
「あ、ちょっと待って!」
マユミは振り返り、デスクの上を探し、資料を渡す。
その隙に、ボクはデスクの上に置かれたCDをちらりと見た。
(……そんなに気に入ってくれたのかな)
なんとなく嬉しくなって、もう一度マユミのほうを見ると、ちょうど彼女もボクを見ていた。
「ちょっと奥に来て」、マユミのあとに付いて倉庫の方へ行った。
倉庫ではなくて、その横のスペースで人はほとんど来ない空間だ。
「ねぇ、覚えてる?」
「何を?」
「去年の忘年会の帰り。終電ギリギリで走った日」
「あぁ、あれね」
会社の忘年会。終電を逃しかけて、マユミと二人で全力疾走した。
乗り込んだ電車の中で、マユミは息を切らしながら笑って、「ねぇ、バレたら困るの、わかってるよね?」と言ったのだ。
今、その言葉を、マユミはもう一度口にする。

「ねぇ、バレたら困るの、わかってるよね?」
あのときと同じトーンで、同じ笑みを浮かべながら。
ボクは思わず息をのむ。
「そ、それは……もちろん」
「うん、わかってるならいい」
ボクたちは事務所に戻り、席に着いた。
マユミはにっこりと笑い、CDを抱えると、再びデスクの上を整理し始めた。
ボクは、彼女の横顔をぼんやりと見つめる。
それは、ほんの一瞬の出来事だったけれど。
――ボクの心臓は、ずっとバクバク鳴っていた。
コメント
- ゆりりん ゆりりん :こんばんわ!!きちんと感謝の気持ちも言えて、さりげなく気を使えるマユミサン!素敵&さすが。ほんとは、探しに来てたかも・・・ですょ。
- ボク:ゆり、マユミは去年ホタル祭りに、夕方、会社で来るよって言って、本当に真っ暗な夜の8時過ぎに来てくれたり、みんなに気を使う人みたい。気を使うのはボクだけにしてなんて、会社だから言えないしね。来てないとは思うけどねぇ、でも、もしかすると・・