【会社の掃除当番で恋の予感?】— 予想外の相棒と過ごす1日
朝、会社に着くと、給湯室の横にあるコーヒーワゴンがすでにセットされていた。
ん? 朝は、どんなペアでも出社が早いボクがいつもやってるのに。
今週のペアの相方のIさんが珍しく早く来てやってくれたのか?
普段はいつもチャイムギリギリに走り駆け込んでくるIさん。たまにはこういうこともあるのか。
なんて思っていたら、後ろから大きな声が飛んできた。「わたしよー!」
声の主は、チームリーダーのマユミ。

「えっ、なんで?」驚くボクに、マユミはドヤ顔で腕を組んだ。
「今日は私とペアよ」
「いや?」
「いや、そんなことない、むしろ嬉しいくらいだ」
マユミは満足げに頷いた。
***
話を聞くと、昨日、Iさんがボクに何の相談もなく、別の誰かに「明日、当番代わってくれない?」と頼んでいたらしい。
それをたまたまマユミが目撃。「Iさん、それは筋が違うでしょ? まずヒロに断るのが先じゃない?」と詰め寄った結果、Iさんかに頼まれた人に言ってマユミが代わりに当番を引き受けることになったらしい。
「ねぇ、ヒロ、どう思う? ヒロに何も言わずに、他の人に頼んでたのよ? おかしいわよねぇ? 筋が違うわよねぇ?」「……まぁ、確かに」
「昨日、ボロクソに言ってやったわ」「……ありがとう、マユミ」心の中で合掌する。Iさん、南無。
ボクは、どちらでも良いのだけど、Iさん、マユミに相当言われたかもしれないね。キレたマユミは半端じゃないからね。
でも、ボクはマユミとペアになれたことがうれしいのだけど。
***
仕事中。
デスクの反対側から、「マユミ、明日午後半休取ろうかと思ってるんだけど」
「えぇー!? わたしもよー!」
「……いや、だから」
「待ち合わせする?」
「いや、そういうんじゃなくて」
「モスバーガーでも食べる?」
「いや、だから」
マユミ、大声で盛り上がりすぎだ。周囲の視線が痛い。
***
終業のチャイムが鳴る。
デスクのあちこちで「お疲れ様でした」という声が飛び交い、社員たちが帰り支度を始める。そんな中、ボクはゴミ袋を片手にフロアを回る。掃除当番だからだ。
デスクの下に足を突っ込んでいた先輩が、ボクに気づいて「あ、ごめん」と言いながらゴミを放り込む。コーヒー台のカップを片付け、ワゴンを流しに運ぼうとした、その瞬間――。
「ヒ~ロ~! わたしがやるって言ったじゃないの!」
周りに響く甲高い声と同時に、ワゴンがスパッと奪われた。まるで映画のカーチェイスみたいな速さで。
「いや、でも今日はボクの当番だし……」
「あたしがやるの! ヒロは座ってて!」
そう言いながら、マユミは猛スピードで洗い物を始める。泡の量が尋常じゃない。

「いや、当番なんだよ、ボク」
「ヒロは特別なの!」
そう言われると、何も言い返せない気がしてくる。マユミの言葉は圧が強いから、ボクの中に響いてくる。ボク以外の人はあの言い方はダメだと思うくらいだ。
結局、マユミはすべての仕事を奪い取ってしまった。掃除当番でマユミとペアになると、毎回こうなる。これはボクのことを思ってくれているからと思う。
手持ち無沙汰になったボクは、なんとなく話題を変えたくて口を開く。
「……あのさ、やっぱり明後日に休み変更しようかと思って」
「えっ、なにそれ、もしかして恥ずかしがってる?」
ニヤリと笑うマユミ。その表情に、ボクは心のどこかを突かれた気がした。
「いや、そういうわけじゃ……」
「ふーん?」
いたずらっぽく唇を尖らせながら、マユミは泡だらけの手でボクの肩をポンと叩く。ぬるっとした感触が残る。
「じゃあさ、今度モスバーガー行こ?」
それは「いいでしょ?」という誘いではなく、「決定事項ね?」という宣言だった。
ボクは呆れつつも、どこか心が弾むのを感じる。
この人には敵わない。
そんなことを思いながら、マユミの背中を眺めた。泡にまみれた指先が、さっきよりも楽しげに動いている気がする。
コメント
- マリー マリー :LOVE、LOVEですね。仲直りもバッチリ出来たし、LOVE度upですね。
- ゆりりん ゆりりん :はしゃいでるマユミさん、なんか、かわぃーですね