社内恋愛のリスク:特別な絆とカモフラージュの妙技
告白の瞬間
「本当にそこまで言うなら……まあ、悪くないかもね」
マユミはそう言って、少し照れくさそうに笑った。
「そっか。じゃあ今日から、ボクたちそういう感じなんだ。」
言葉にしてみたら、なんだかくすぐったくて、でも、すごく嬉しかった。
あの瞬間、春の風が、ふわりと二人の間を吹き抜けた。
社内恋愛のリスク
好きになってしまったものは仕方がない。
別に悪いことしてるわけではないし、仕事のモチベーションは上がって、パフォーマンスは上がっている。
社内恋愛のリスクなんて、頭ではわかっていた。でも、気持ちは止められなかった。
バレたら働きづらくなるし、もし別れたら最悪なことになる。
机を挟んで向かい合うこともなくなるだろうし、下手したら会社を辞めることになるかもしれない。
ウチの会社は、実際に夫婦で働いている人が3組もいる。会社に入社してから、結婚しましたって事後報告。これもすごいと思う。
でも、相当気を使っているみたいだ。ボクには無理だろう。顔に出るし、言葉にも出る。
だから、マユミとは暗黙のルールを決めた。
「会社では、絶対に特別扱いしない」
マユミもそれを心得ていて、マユミだけはふざけた感じでちょっかいをかけてくるのはOK。でもボクはツンデレを貫く。それが約束だ。

カモフラージュとざわつく心
会社の人たちは、マユミが社内恋愛なんてしないと思っている。
だから、彼女がボクを気遣う理由も、「体調が悪そうだから」とか「仕事のサポートをするため」という名目になる。
そして、そのカモフラージュのために、彼女は他の男性社員にも同じように接する。あくまで公平に、誰に対しても親切に。
それが分かっているのに、ふとした瞬間に違和感を感じる。
特別な優しさの正体
彼女の優しさは均等に振り分けられているはずなのに、自分に向けられたそれだけが特別なような気がしてしまう。
些細な視線、さりげない言葉、ほんの少しだけ長く感じる沈黙。全部、他の人に向けるものとはどこか違うような気がする。
――いや、ただの思い込みかもしれない。
それでも、心は勝手に動いてしまう。冷静でいようと思っても、気づけば彼女の一挙手一投足に目がいってしまう。
マユミの策略
マユミの作戦だと理解している。彼女は自分のため、そしてボクのために、周囲へのカモフラージュを完璧に仕上げている。
それができるのは、彼女だからだ。
マユミの機転の速さには驚かされるし、相手を言い包めるような話術は、感心するほど巧みだ。まるで詐欺師のような鮮やかさで、どんな場面でも的確な言葉を選ぶ。
例えば、ある日、上司に「お前ら仲がいいな」と言われたときのこと。
マユミは笑顔で言った。

社内公認への道筋
「そりゃあ、仕事のパートナーですからね。でも彼とは特に波長が合うんです。お互いフォローし合うのが当たり前みたいな感じで」
その場にいた誰もが納得した。むしろ「なるほど、だからか」と妙に感心した様子だった。
それだけではない。飲み会の席でも、彼女はさらりと言う。
「◯◯さんって、私が仕事ミスしたとき、絶対にカバーしてくれるんですよ。もう頼りにしちゃってます」
この言葉に、周囲は「そりゃあ信頼関係もできるよな」と自然に受け入れた。

計算されたカモフラージュ
まるで計算され尽くした脚本のように、彼女の言葉は場を支配し、誰も疑問を抱かせなかった。
気づけば、二人の関係は“公認”のような雰囲気になっていた。もちろん、あくまで“仕事の相棒”として。
でも、その裏には、マユミの巧みな戦略がある。
どうやら彼女は、会社の上層部にもボクとのことを“いい方向”に思わせるように話をしているらしい。
「二人はただの同僚」と思わせながらも、「でも息がぴったりなのは当然」とでも言うように。
逆らえない存在
ボクには到底真似できそうにない。
正直、マユミには頭が上がらない。彼女がいなければ、ボクはここまでやれていただろうか。
マユミのミスをフォローしたことになっているのだが、本当はマユミはミスはない、ボクのミスがほとんどなんだよ。
仕事もマユミにフォローされていて、ノーミスでプロジェクトを何度も完遂しているのだ。
それは本当にカモフラージュなのか? それとも――。
彼女はただ、仕事を円滑に進めるために計算しているのか。
それとも、その言葉の端々には、無意識の本心が混じっているのか。
考えれば考えるほど、ざわつく心は静まらない。
二人きりの時間
そんなマユミと、二人きりになる時間がある。
各セクション作業室、会議室、資料室、倉庫の奥——誰の目も気にしなくていい場所では、約束は少し変わる。
「はい、撮って❤」
社内なのに、まるで雑誌のモデルみたいにポーズを決めるマユミ。
ボクはスマホを構えて、息を潜めるようにシャッターを押した。
「いいね、これ」
「でしょ?」
画面を覗き込みながら、マユミは満足げに笑う。
何をやっているんだろう、と思いながらも、こういう時間がたまらなく好きだった。
さりげないやり取り
仕事中にも、さりげないやり取りがある。
「今日、帰りどうする?」
マユミの小声。ボクはそのトーンで機嫌を察する。
そんなやり取りの一つ一つが、心地よかった。
でも、社外では少し事情が違う。
会社の近くでは、ボクは周囲を警戒して距離を取る。
でも、会社から少し離れれば、話は別だ。デレデレモード解禁。家にいる時なんかは、完全に防御が外れる。
「ツンデレのデレって、場所限定なの?」
マユミは笑う。
「そりゃそうだろ。会社でデレたら即終了だぞ」
「でも、二人きりの時は?」
「……まあ、今までと同じくらいには」
「だったら問題なし!」
いつかバレるかもしれない
そんなことを言いながら、ボクはふと考える。
どれだけ気をつけても、いつかバレるんじゃないか。
些細な視線の交わし方、休憩時間のタイミングの一致、資料を受け渡す時の一瞬の間。
どこに落とし穴があるかわからない。そうなったら結婚してしまえばいい。
「もし結婚したら、どうする?」マユミがふいに言った。
「……は?」
「だって、社内結婚したら、今以上に気を使わなきゃでしょ?」
「……たしかに」
「ツンデレどころか、もう超クールでいなきゃいけないかもね」
「……でもさ、結婚したら、ちょっとくらいツンを緩めてもいいのか?」ボクがぼそっとつぶやくと、マユミはニヤリと笑った。
「どうだろうね? でも、二人きりの時は?」
「それは……まあ、今までと同じくらいには」
「だったら問題なし!」

変わった人生と、変わらない想い
そう言って笑うマユミを見ながら、ボクは思い出す。
告白の時、マユミは確かに照れくさそうに笑った。
「本当にそこまで言うなら……まあ、悪くないかもね」その瞬間、ボクの人生は確実に変わった。
好きになってしまったものは仕方がない。
だから、関係を守るために、ボクは今日もツンデレを装う。