元外交官で作家・評論家の佐藤優氏が、参議院議員の鈴木宗男氏と一緒に主宰されている「東京大地塾」という勉強会があります。私はお二人のお考えすべてに共感するものではありませんが、マスメディアの報道とは違う切り口で国際情勢を語っておられるのに蒙を啓かれることが多くて、YouTubeチャンネルで配信される例会の模様はよく視聴しています。
直近の配信は日中関係が主題でした。高市首相がいわゆる「台湾有事」に関して「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と衆院予算委員会で答弁したことで日中関係が緊張していることについて、中国の猛反発の背景にある理路や日本が外交上取るべき手法について、いろいろと解説されています。
その内容については、いつものように「なるほど」と腑に落ちる点が多かったです(たとえばメンツを潰されて「激おこ」の習近平氏に対して、中国政府のさまざまな部署が忖度や追従から競うようにして強硬姿勢を見せる外交カードを切っているという点など)。ただ、動画の冒頭で紹介されていたご自身の新著『定年後の日本人は世界一の楽園を生きる』については、さっそく購入して読んだものの、ちょっと、いや、かなり意外な読後感が残りました。

定年後の日本人は世界一の楽園を生きる
佐藤優氏の著作は、これまでにもずいぶん拝読してきました。そのいずれもが重厚で確かな読後感をもたらしてくれたのですが、今回のこのご著書は、たいへん失礼ながら「まえがき」で「これまでの人生の集大成だと考えている」と書かれている割には、とても薄い内容だと感じました。
私も「定年後の日本人」のひとりですし、佐藤優氏とほぼ同じ世代の人間なので、それこそこの本が想定している読者層にぴったりだと思い、かなり楽しみにして読みました。でも内容的には、佐藤氏ご自身の状況にしか当てはまらないんじゃないだろうかという部分が多く、人生論としては噛み応えに欠けます。けっこう総花的というか、話が散漫な印象で、これは邪推ですが編集者の手腕も欠けているんじゃないかなあ。
ただ佐藤氏は上掲の動画で「この本が10万部を突破したんだけれども、これはどういうことかというと、やっぱりそれだけ不安感というものがいま、高いんだと思う」とおっしゃっていて、それはその通りだと思います。私を含めて定年前後の中高年齢者がとにかく不安にかられて、こうした「定年本」あるいは「定年後本」に飛びつくんですよね。かくいう私も、ここ5、6年ほどは、かなりな量のこうした本を読んできましたから。その意味では、もし書名を『定年後の日本人は世界一の楽園に生きる』としたのが編集者だとしたら、その手腕は見事だというべきなのかもしれません。
とまれ、皮肉や「disり」はこのくらいにしておきましょう。それに、もう一冊動画で紹介されていた佐藤優氏の新著『愛国の罠』、こちらはとても読み応えのある一冊でしたから。

愛国の罠
しかしなんですね、自分がこの年齢になって思うのは、加齢によってこんなにもいろいろな予想外のことが起きるのなら「先達のみなさん、もっと早く言ってよ」ということです。こういうある種の知見というものをあらかじめ知ることができていれば、こんなに慌てなかっただろうし不安にもならなかっただろうにと。
いや、そうじゃないですね。今から振り返れば、先達のみなさんはそういう知見を様々な著作の形で世に問うておられたのです。ただ問題は、若くて元気な頃は、そういう著作の数々に対して食指が動きにくいということで。そんな年寄りのぼやきや愚痴みたいなものなど読みたくないと思うでしょうから。ほんとうはぼやきや愚痴などではなく、深い哲理が蔵されている作品も多いんですけどね。
ということで、人は誰しも、その歳になってはじめて現実を知り、ジタバタするという宿命から逃れられないのかもしれません。もちろん中には早くからそういう知見に触れて未来の現実に想像力を働かせ、心の準備をされている聡明な方もいらっしゃるでしょうけど。