30代の頃から、たびたび腰痛に悩まされてきました。これまでに試した治療は、カイロプラクティック、マッサージ、整体、湿布、鍼灸などさままざまで、そのたびに軽快したような感じがするものの、またすぐにぶり返すのです。
そこで腰痛の原因を生活習慣に求めて、歩き方や就寝のしかたの工夫に始まり、重いものを持たない、足を組まない、椅子に「だらっ」と座らない、しゃがむときは手や手すりなどのサポートを入れる、身体の左右のバランスに気をつける……など、数え切れないほどの取り組みをしてきました。
仕事はデスクワークが基本なので、腰に負担を与えないよう、ストッケのバリアブル(姿勢矯正チェア)やバランスボールに座る、背骨を立たせるマットを使う、パソコンを目の高さに据えるなどの対策を取りました。その他にも断酒や筋トレや体幹トレ、ありとあらゆる方法を試したものの、残念なことにどれも腰痛には効果がなかったばかりか、ここ数年はほぼ慢性化していました。
ただし、慢性的な腰痛があるといっても不思議な点がいろいろとありました。まずは痛さに波があること。いわゆる「ぎっくり腰」のような、歩くのも座るのも大変で、なんなら寝ていても痛いというような痛みは最初に発症したとき一度だけで、あとは常に痛いときもあれば、じんわり違和感があるとき、まったく痛みを感じないときが不定期に入れ替わるような状態でした。
痛みの位置が動くことも不可解でした。腰の右側だったり左側だったり、片側のこともあれば両側のこともあり、それが上に移動したり下に移動したり。明らかに腫れているように見えることもあれば、表面的には何の変化も見られないこともありました。
またかなりハードな筋トレをやっているときは腰の痛みをまったく感じないというのも奇妙です。もちろんトレーナーさんから腰に負担がかかるような筋トレ項目は除外するよう指導を受けましたが、それにしても普段の暮らしでスーパーの袋を片手に持つのさえ憚られる状態の自分が、片手のダンベルロウで20kgを持ち上げても何ともないのはなぜなのかと。立ったままズボンが履けないくらい腰痛がひどいときでも、ジム通いには何の支障もないのです。
さらに困惑していたのは、慢性的な腰痛にがまんできなくなって、カイロプラクティックのような治療院を予約し、その日が治療だという当日になると腰痛が消えることです。それで治療院では「昨日まではこの辺が痛かったんですけど……」などというちょっと気まずい説明をすることがたびたびありました。
それで、数年ほど前から「これはひょっとして『心因性』のものなんじゃないだろうか」という疑いを強く持つようになりました。きっかけは夏樹静子氏の『腰痛放浪記 椅子がこわい』を読んだことです。正直に申し上げて、最初に読んだときは半信半疑、というか、かなり「疑」のほうが勝っていました。「指一本触れられずに完治に至った」というのが、どうしても信じられなかったのです。
ただ、「あとがき」で夏樹氏がおっしゃっていた「器質的疾患がないのなら必ず治られると信じます」という言葉が気になっていました。器質的疾患がないーーつまりレントゲンやMRIなどで骨や神経などの明確な異常がない、あるいはガンの転移などの原因ではないのなら、それは「心因性」の腰痛である可能性が高いと。
器質的疾患でいちばん有名なのは「椎間板ヘルニア」でしょうか。腰痛の原因としてよく取り上げられますし、これを治すため外科手術に踏み切る方もいます。私は椎間板ヘルニアではないものの、若い頃から毎年の健康診断で軽い「脊柱側弯症」だと診断されていて、これが腰痛の原因となる器質的疾患なのだとずっと思っていました。
ところが、この脊柱側弯症はもちろん、ほとんどの椎間板ヘルニアさえも腰痛の原因ではありえないとする説が、もう四半世紀以上も前から提示されていたのです。それが、ジョン・サーノ氏の『ヒーリング・バックペイン』です。
結果からいうと、私はこの本と、それに続いてこの本の説を受けて書かれた長谷川淳史氏の『腰痛は〈怒り〉である』、伊藤かよこ氏の『人生を変える幸せの腰痛学校』、そしてジョン・サーノ氏が後年書かれた『心はなぜ腰痛を選ぶのか』を読んで、腰痛が消えました。
いや、こう書くとあまりにも怪しげで、神秘的で、「スピリチュアル」な響きがしますし、実際のところ感覚としての腰の違和感はまだ少し残っています。だからより正確には「腰痛を心配する心」「腰痛を治そうとする心」が消えたといったほうがよいかもしれません。
要するに私の腰痛は心因性のものであることに十分納得できたところで、それまで暮らしのかなり大きな部分を占めていた腰痛がなくなってしまった……そんな感じなのです。うーん、どんなに注意深く言語化しようとしても、私のいちばん苦手な「スピリチュアル」的雰囲気がまとわりついてしまいます。たぶん、どなたにも信じてもらえないのではないでしょうか。ですからこれ以上の贅言は避けようと思います。
それに腰痛の原因は多種多様で、人によっては本当に器質的な疾患である場合もあります。ですからまずは器質的疾患であるかどうかをきちんとした医療機関で調べる必要があります。これは上掲の書籍のいずれもが繰り返し強調していることでもあります。
ただ、少なくとも私は、自分の腰痛の原因が自分の心のなかに(正確には脳に)抑圧してきたものであることを十分に自覚できたところで腰痛にさよならをすることができました。もう少しはやく自覚できていたらよかったのですが、けっきょく30年以上の時間を費やす結果になりました。
でもまあ、それも、自分の器量に見合った結末ということになるのでしょう。いまはその事実をありがたくかみしめています。




