鈴木結生氏の『ゲーテはすべてを言った』を読みました。新聞の書評欄で「文芸ミステリー仕立てながら」、「無限の知の世界を逍遥する楽しさを示してくれる」と絶賛されていたので興味を持って、仕事帰りに寄った書店で買い求め、一気に読了してしまいました(以下、おそらくネタバレになるかもしれない記述があります)。
ゲーテの名言「とされる」言葉をめぐって、アカデミズムの世界に生きる人々の生態(?)がちょっと衒学的にすぎるんじゃないのくらいの勢いで描かれます。でも決して高慢でもなく鼻につく感じでもなく、博覧強記な作者が次から次へと投げ込んでくる知識やエピソード*1に「へええ」、「ほおお」などと好奇心を刺激されつつ、最後はある種の爽やかさまで感じる……そんな読了感でした。
ドイツ語、英語、ヘブライ語に中国語まで登場するので、語学好きな人間にはことに興味をひかれる一冊です。さらに「済補(スマホ)」とか「文字文字(もじもじ)する」という日本語も新奇だけれどやけに説得力がありますし、登場人物の名前が「博把統一(ひろばとういち)」とか「芸亭學(うんていまなぶ)」とか、いかにも意味ありげなのがまた楽しい*2。そういえば統一の娘の名前「徳歌(のりか)」はひっくり返すと中国語の“歌德(gēdé:ゲーテ)”ですね。
この小説は「名言」をめぐるお話ですが、その名言や格言なるものにまつわる一種の危うさや「いかがわしさ」についても踏み込んでいて、それもまた個人的にはツボでした。先般、アン・モロー・リンドバーグの名言とされる「人生を見つけるためには、人生を浪費しなければならない」の出典が見つからない件について、このブログで追いかけてみたところでしたから。
作者の鈴木結生氏ご自身はアカデミズムの世界に身を置いておられる方のようですが、その氏がアカデミックなものに対するある種の偏愛ぶりと同時に、どこか冷めた視線をお持ちなのもいいなあと思いました。
