
2025年秋に出版された伝記『シルヴェスター・リーヴァイ 音のある人生 映画音楽からミュージカル『エリザベート』、そして今』(シルヴェスター・リーヴァイ監修、カール・ホーエンローエ著、大井知範訳/日之出出版)。本書の発売を記念した特別講義に行ってきました!(清泉女子大学総合文化学部・日之出出版 共催/協力:東宝演劇部)
チケットは1〜2分で即完だったと思います(決済して戻ってきたらもう売り切れていた)。事前に質問募集もあり、さらに美しい招待状も自宅に届き、本当に楽しみにしていて、1月下旬から今日のことばかり考えていました。短いお手紙も用意しました。
結果的に感激いっぱいの時間となりましたので、そしてノートを取ることができたので、書き残しておきたいと思います。このあとおそらく公式の何かしらが上がりますが、いち受講者の視点から、少しでも感動が伝わるように綴っていきます。
※正確な内容は公式に載るものを見てください。なお、内容に触れて感想を書いてよいことは現地で版元の方に確認を取りました。
はじめに

大通りから“島津山”のほうへ曲がり、坂道を登っていくと、緑に囲まれたキャンパスが見えてきます。入口でチケットを提示して入館証を受け取り、樹齢を重ねた松の木立を見上げながら坂道をさらに上へ。雨上がりということもあり針葉樹のよい香りがして、この時点で、清泉女子大学、通いたすぎる。と思いました*1。
旧島津家本邸の本館を横目に、案内された棟の教室へ。階段の途中にこの講義のための装飾が施してあって(あとで学生有志のみなさんの手によるものだとわかりました)、期待が高まります。
私、楽しみにしすぎて、案内に書いてあった教室の番号で過去のイベントや講義の様子を探して、どんな教室かな、どこの席に座るといいかなとまで考えていたのですが、到着してみると、整理番号できちんと座席指定がしてありました。これは混乱しなくていいなぁ! 私の席は、整理番号的に、真ん中よりちょっと後ろくらいの位置。整理番号のカードや旧島津家本邸のパンフレット、そして書籍『音のある人生』などがきれいにセットして置いてあります。大学の講義室ならではの引っ張り出すタイプの椅子にドキドキしつつ、腰を落ち着けて開始時刻を待ちました。

特別講義
拍手に迎えられて「オゲンキデスカ!」と呼びかけるリーヴァイさん*2。本書を訳された大井知範先生はフランツのクマを抱いて一緒に登場(よく先生のTwitterでみるやつ☺️)。「(隣に)本物のリーヴァイさんがいるのが信じられない。ちなみにこちらは偽物のカイザル・フランツ・ヨーゼフです」とクマを紹介してひと笑い。
リーヴァイさんによる導入
大井先生から説明があり、まず“導入”としてリーヴァイさんご本人が講演されました(20分ほど)。以下、箇条書きで抜粋をご紹介。一部、通訳の方が使われなかった言葉も文章での理解を助けるために補完しています。ご承知おきください(Q&A部分も同様)。
この本の成り立ちと、ミュージカルとの出会い
- こうしてみなさまの前で、特別な雰囲気のなかでお話しできることが嬉しい
- この本は80歳を迎えるにあたり、自分の人生、仕事を紹介する伝記として、家族と話す中で生まれた本。
- 自分が愛してきた音楽はクラシック(ショパン等)→ジャズ(オスカー・ピーターソン、マイルス・デイヴィス等)→ポップ・ミュージックと変遷していくが、その全部に興味を持っており、美しいと思っている。重要なのは、通ってきたさまざまなステップがすべてミュージカルに結実しているという点。
エリザベート誕生について
- ロサンゼルスに移り、20年間映画に携わってきた。あるときクンツェさんがLAを訪れて「エリザベート」創作の提案を持ちかけてきた。いくつかの契約が残っていたが、何より妻のモニカがエリザベート皇后の大ファンで(書籍や衣装などのコレクターなのだそう!*3)、彼女の強い勧めもあり、当時はLAで成功の只中にいたが、その地を離れて「エリザベート」を作ることになった。
- エリザベートに取り掛かる中で完全にスイッチが切り替わり、長年の願いを叶えることになった。それは、クラシック、電子音楽、ロックを融合させること。
- エリザベートの音楽は3つのレベルに分かれている。
- 1 エリザベート皇后(過去)→クラシック
- 2 ルキーニ(暗殺者)→ロック
- 3 トート(この世の者ではない宇宙的な存在)→ロック
この最後のくだりはとても印象的で、夢中でノートを取りました。3つの階層がそれぞれに違うジャンルという話ではなかったけれど、たとえばルキーニのナンバーのスウィング感にはジャズのエッセンスが含まれるはずですし、それはクラシック→ジャズ→ポップ・ミュージックという流れを聞いたあとだったのですんなりと補完できました。重層的かつ複雑に構成されている世界観を、シンプルに説明してくださったのだと思います。
大井先生からリーヴァイさんへのQ&A
ここからは大井先生が聞き手になり、事前募集した質問への回答コーナーです。同様に箇条書きにして、大井先生が補足されたところはイタリック体で書いています。
Q1 日本に来たときの一番の楽しみは?
A1 家族それぞれが日本に対する愛着を持っている。とりわけ大切なのは、食事(Essen)!
- きっかけはいつも(手掛けた舞台の)初日を観ることで、家族と一緒に来日を重ねるうちに、だんだんと日本に愛着をもつようになった(Liebe、という言葉が多分出てきた)。自然や、手入れの行き届いた庭園などが好き。
- 日本に対する強い思いは家族それぞれが抱いており、とりわけ大切なのは、食べ物がおいしいこと。日本では何料理を食べても、すべてがおいしい! 滞在先のホテルのソファでリラックスしていても、家族の会話が聞こえてきてそのなかに「Essen(食事、ごはん)」という言葉が出てくると、「何?食事だって?」と反応してしまう。
→エッセン、聞き取れました(なぜなら日本にはシャウエッセンがあるからね!!)。ご家族*4が笑っていらっしゃいました。
Q2 旧島津本邸の印象は?
A2 日本の歴史に思いを馳せる印象的な空間。
- 日本の伝統、古いものを大切にする気持ちと重なる。ここでどんなふうに(伯爵が)過ごしていたのだろうと想像した。静寂に包まれており、日本の歴史に思いを馳せる印象的な空間。
- 大井先生:なぜこのことに触れたかというと、リーヴァイさんの手掛けるミュージカル作品ではしばしば、作中に登場するきらびやかな宮殿や洋館が、主人公を苦しめるから。
- それはそのとおり。私は人物の精神状態だけでなく環境も音楽に織り込もうとしてきた。例えばエリザベートはシェーンブルン宮殿にいたが(城/シュロス:Schloss)、開放感を感じていたわけではなく、そこに囚われていた。このこと(精神状態だけでなく環境も織り込むこと)はLA時代に映画音楽で実践していた(背景が切り替わるときに音楽でもその変化を表現する)。
- 大井先生:場面転換は音楽で作る、というのがすごいこと。
- 物語は旅のようなものである。場面は流れるように移り変わらなければならない。
→メモしきれていなかったけど「環境」だけでなく雰囲気、空気という文脈でおそらくアトモスフィア(Atmosphere/Atmosphäre)というのが何回か出てきて(ドイツ語のはずだけどアトモスフェーレよりアトモスフィアって聞こえました)、とても耳に残って印象深いキーワードでした。超訳すると「アトモスフィアをムジーク(Musik)にするんだ!」って話をしていたんだと思います(※超訳しすぎ)。私は、ミュージカルの音楽といえば登場人物の心情を語るもの、と思い込んできたので、これが聞けたことは大きな収穫になりました。
Q3 「エリザベート」の世界共通かつ普遍的な魅力とは?(音楽の面から)
A3 コスモポリタンとしての人生の経験が結実しているから
- 自分はコスモポリタンだと自称している。どの国の文化にも敬意を持っている(故郷も多文化の国)。さまざまな人生の経験が結実してこのスタイルになった。
- (結果的に)その音楽が世界中に届いているのは、素晴らしいと思う。
→ここからは時間の関係で、最も質問が多かったという「エリザベート」に関しての質問になりました。コスモポリタンという言葉(コスモポリート:Kosmopolit)、知ってはいたけれどふだんはなかなか頭の中に上がってこない概念で、この気づきについては後述。
Q4 2006年のウィーン版ではオープニングが異なり、ルキーニが歌っている。2つのバージョンが存在するのはなぜ?
A4 いずれのバージョンにも意図があり、それぞれクンツェさんが考え抜いた上での創作
- (東宝版などで広く知られるバージョンは)主要な人物が全員登場する。何度も見ている人には登場人物が誰なのかちゃんとわかるが、初見では誰が誰なのかわからないかもしれない。これは彼ら(シシィをめぐる登場人物たち)の主張を溶け合わせる意図で作っている。
- 一方、2006年のウィーン版ではルキーニのソロで始まる。ルキーニだけに任せることで、理解がしやすくなっている。
- バージョンの違いは存在するが、いずれもクンツェさんがドラマツルギー的に考え抜いた上で創作している。
→ハッとされられたのは、初見だと「我ら息絶えし者ども」が初見だと何が起こっているのかわからないかも、ということです。これは良し悪しではないし、初めて観た人も最後まで観れば「あれはあの人だったんだ」とおぼろげにわかったりすると思うのだけど、たぶん教室を埋めた一般の受講者の多くは私と同じようにエリザベートを何度も観た人たちなんですよね。エリザについてはあまりにも多くのことが“自明”だと思い込んでいたところ、「作品とどのように出会うか」について真っ当に考えるきっかけになりました。不勉強ゆえにこのバージョンのことは知らなかったのだけど、大井先生いわくDVD?で見られるそうです。
Q5 「エリザベート」のメロディが強く印象に残るのはリズムによる緊張感が関係あるのでは。シンコペーションを多用している意図は?
A5 緊張感を生み出し、それによって「つまらなくなる危険性」を回避するため
- 私がシンコペーションを使う理由は2つある。1つ目は緊張感を生み出すこと。2つ目には、それによって「つまらなくなる危険性」を回避するため。
- 例えば「闇が広がる」はこういうふうなメロディだけど、拍の頭に合わせて歌うと「つまらない感じ」になるでしょう(※リズムを取りながら口ずさんで説明!!)
- リズムを使って雰囲気(Atmosphere/Atmosphäre)を作っている
→この時点で残り10分程度で、時間的にも内容的にも*5読まれることはなさそうだな、と思っていたところ、手元の資料からご本人が「ぜひこれに答えたい」と選んでくださいました。感激のあまり、人知れず、教室で涙ぐんでいました。昨秋〜のエリザベート上演期間にいろいろ考えるなかで私は「意図的にやっている」という仮説を立てており*6、その答え合わせをすることができました(可能性としては「特に意図したわけではない」ということも考えられたけど、そうじゃないとわかった)。作曲家本人が歌ってシンコペーションのあり/なしの比較を説明するという貴重な機会に、受講生みんなで「なるほど〜」と耳を傾けられて嬉しかったです。
Q6 人生で大切にしているものは?
A6 何よりも大切なのは第一に愛、第二に愛、第三に愛、そして第四に平和。
- (愛と平和を重んじることは)人間の原則だと思う。愛(Liebe)にはいろんなニュアンスがあり、それを活用し、自分の中に内包していくことが大切。
- 愛を示すことは本来は簡単なことなのだ。
→メモから抜け落ちてしまったけど、ここにもコスモポリタンという表現が出てきたような気がする。スケールの大きな愛に思いを馳せました。

最後にまさかの撮可タイムがありました(掲載も可)。大井先生に「Kaiser」は日本語で何というのかを尋ねて「コウテイ。」と言ってクマをニコニコと掲げるリーヴァイさん、キュートでした。
サイン会
整理番号のグループごとに割り当てられた教室で待機し、旧島津本邸の本館へ。部屋にはエリザベートの音源がかかっていました(ドイツ語のもの)。ついたてなどはないので、少し前の方の様子をうかがい知ることができました。英語やドイツ語で流暢にお話しされている方もいて、尊敬。私は心の中で「フィーレンダンク!フィーレンダンク!」と素振りをしていました*8。
順番が来る直前になって「あっ、サインで名前を書いてもらうし、お礼を言う前にちゃんと名乗ろう!」と思い至り、ここにきてようやく、というか人生で初めて、第二外国語の履修が役に立ちました!!
「Ich heiße… (本名)」と名乗ったあとに、途端に心細くなり、目を泳がせながら用意した英文でお礼を申し述べました。あるあるだと思うけれど、頭は真っ白でした。リズムについては、もういちど、緊張感と、あと歌いやすさ?みたいなことを伝えてくれたような気がする*9。通訳の方のサポートがとても心強かったです(講義中にも長いフレーズを淀みなく明瞭に訳して伝えてくださって、とてもわかりやすかったです)。ただの一観客なのに、こちらをまっすぐに見据えて、その黒い瞳を生き生きと輝かせて言葉をかけてくださったこと、忘れません。
まとめ

部屋を出たあとに、少し残って本館の美しい建築を堪能しました(聖堂などの禁止エリア以外は節度を守って撮影可)。聖堂にも入らせていただき、ほんの束の間、静かな思索の時間を過ごしてみたりもしました*10。こんな貴重な体験もできたのに、改めて、参加費、安すぎませんか!
教職員の方や学生有志のみなさんの案内もスムーズでわかりやすく、快適かつ不安なく受講し、よい経験をすることができました。大井先生のお話*11ももっと聞きたいと思いました。勉強、したいです…。
改めてリーヴァイさんのお話の内容を振り返ると、「愛(Liebe)」という言葉がたくさん出てきたことに気づきます。その背景にあるものは、自分と違うものを受容し、さまざまな文化に尊敬を抱き続けることなのだと思います。それが自然とコスモポリタンという自己認識を導いているのでしょう。島国に暮らしているとなかなか意識しにくい面もあるけれど、リーヴァイさんの地球規模の視座に触れて、そうだ自分もコスモポリタンになれるのだ、と捉え直すことができました。音楽を起点に、このようなことを考えることができて幸運でした。今日のお話をもとに、サインしていただいた本書をじっくりひもときたいと思います。Danke schön❣️

久しぶりに連れ歩いた閣下くま🧸
本書についてくわしくはこちらから👇*12
*1:足を踏み入れたどの空間も、親しげで、それでいて静謐で、普通の教育機関とは違う特別な雰囲気をまとった空間でした(まさにアトモスフィア)。お手洗いもとても快適。私が東京生まれのお嬢様であったなら…
*2:他にもたくさん日本語が聞けて、来日の機会が多いことが察せられました
*3:モニカさん、ニコニコして座っていらっしゃいました。最後に投げキッスくださった❣️それにしても“シシィのオタク”として成功しすぎてやいませんか…!モニカさん所有のドレスなどは本書のカラー写真で見ることができます。すごい、本物………
*4:モニカさんと、御子息のシルヴェスター・ジュニアさん
*5:シンコペーションはみんなわかると思うけど、それでも音楽用語だったので
*6:https://x.com/purplekuina076/status/1995712446950940749?s=46&t=c0vaULFKM7Y_2MIdErXLeQ
*7:ものすごい余談:Q&Aコーナーのまとめ方に手慣れているとすれば、私は及川光博さんのワンマンショー50本以上についてこういう質問コーナー(愛と哲学の小部屋)を含むレポを書いているからです。
*8:Vielen Dank/チャッピーに聞いたけど、普通にダンケシェーンでよかった説???
*9:注意深く聴いてくれていますね、と言ってくださったことが本当に嬉しかったです…
*10:二都物語で大変な目にあったので少しずつキリスト教の勉強をしてみているところ。それでも祈るって何かまだよくわからないんだけど
*11:先生は今回のエリザを東京で5回、札幌で2回ご覧になったそうで、あまりにも“仲間”でした…
*12:紙の高いご時世に3千円以下、ありがたいことです。4Cのページは16ページ単位になってるから台割でコントロールしたのかな
