
今年も「Songwriters' SHOWCASE」に立ち会うことができました。当日ステージで語られた作品紹介+配布資料を参考にしつつ、12作品について簡単に感想を残しておきます。これから綴ろうとする文章のクオリティはさておき、私はこの企画に対しては絶対に何かしらの“反応”が必要だと信じています。なので今年も本気で書きます(だれも頼んでないけど)。
なお、去年は号泣しすぎて人間の出がらしになってたんですけど、今年は頭をフル回転させながら観ていたのでCPUが焦げました。*1
※2024年12月と2026年1月の実施でややこしいのだけど、プログラムの表紙には「2025」とあるし事業自体は2025年度であろうと解釈し、本記事では開き直って「去年」「今年」と呼称します。
- レポ&感想
- イントロダクション
- 1.「私は竜巻(난 태풍이야)」“I Am the Storm”〜『カタリーナ』より🇰🇷
- 2. 「僕、ゴジラ」“I, Godzilla”〜『僕、ゴジラ』より🇬🇧
- 3.「今日、私は」“Today I Am”〜『少女の作り方』より🇺🇸
- 4.「こんな私じゃなかったら」“If I Weren't Who I Am”〜『When Tango Ends』より🇯🇵
- 5.「いつもは私が」“Usually I'm the One”〜『ギルガメッシュ&ザ・モスキート』より🇺🇸
- 6.「ベストと言っていい(이보다 더 좋을 순)」“Couldn't Be Better”〜『ゴースト・ノートより』より🇰🇷
- 7.「トゥー」“Two”〜『イン・クレイ』より🇬🇧
- 8.「羊皮紙に刻まれた宇宙」“The Universe Inscribed upon Parchment”〜『マインツのヴィルヘルム』より🇯🇵
- 9.「ジュヌの世界(준우의 세계)」“Inside Jun-Woo's Bubble”〜『君と友達になるための完璧な計画』より🇰🇷
- 10.「窓際の席」“A Window Seat”〜『聖セバスチャン』より🇺🇸
- 11.「空っぽのまま走る」“Running On Empty”〜『メイフライズ』より🇬🇧
- 12.「物語を生きる」“Living Throgh a Story”〜『エマはまだあの夜にいる』より🇯🇵
- 今年の作品を振り返って
レポ&感想
イントロダクション
昨年はn2nのセットを活かした演出でしたが、今回は大きな額縁がセンター奥にしつらえられており、その中に張られた幕にタイトルが投影されています。下手には階段とちょっとしたバルコニーのようなステージが。開演を前に、上手・下手の隅に用意された椅子にキャストのみなさんがゆっくりと集まり始めます。これは昨年と同様。
そして登場する井上芳雄さん。ダークグリーンのスーツに薄手の黒タートル、黒のシューズを合わせ、胸元には黒いポケットチーフ(白い柄がアクセント)とブローチ。すらりとした体躯がまぶしく、今年もものすごく脚が長かったです。
福岡タワーのごたる(1年ぶり2回目/壁面緑化ver)。
企画の趣旨を説明し、2年目でスタッフも気合が入っているということで今夜のためだけにセットが組まれたことを説明。「あ、でもこの額縁はYuichiro and friendsから借りてきました。そんな予算あるわけないですからね」でひと笑い。「何事も2回目が一番むずかしいですからね。3回目があるかどうかは今夜の演者と観客にかかってるので」と何故か我々にも圧をかけるのでした*2。
1.「私は竜巻(난 태풍이야)」“I Am the Storm”〜『カタリーナ』より🇰🇷
🖊️Hanbit Jeong/🎼Jimin Byeon/🎤Lumina
クリエーターのチャン・ハンピッさんとビョン・ジミンさんの趣向をこらしたプレゼン*3の後、2人が「竜巻だ、逃げろ〜!」とはけていき、曲が始まります。主人公のカタリーナを演じたのは赤いワンピースをまとったルミーナさん。シェイクスピア「じゃじゃ馬ならし」をアレンジした本作で、せっかくの求婚者が現れたのだからなんとか嫁がせたい父親(バプティスタ)とカタリーナがやりあう場面でした。「じゃじゃ馬ならし」って現代では「ハァ??」っていうあらすじだと思うんだけど、ルミーナさんも歌い出す前から「ハァ??」って顔を作ってた。自分をモノとして扱い、さらに適当な男に押し付けることを「宿題」というなんて、あり得ないですよね。その意思を込め、ロックサウンドにのせて進むべき道を歌うルミーナさん。階段に登って歌い上げるラストの「♪そう、竜巻ーーーー」が圧巻でした。これがビームってやつ…!
2. 「僕、ゴジラ」“I, Godzilla”〜『僕、ゴジラ』より🇬🇧
🖊️🎼Alexander Morris/🎤Julian
脚本・作詞・作曲を担当されたアレクサンダー・モリスさんは素敵なスーツをお召しで、芳雄さんが「Nice Suits!!」と褒めていました*4。キラキラと目を輝かせてプレゼンテーションされるのが印象的。ゴジラを始めとする怪獣映画のオマージュがたくさん散りばめられているそうで、「もし東宝で上演するんだったら、権利関係めっちゃ早いと思います」と芳雄さんが太鼓判(?)を押していました。
英語での歌唱を披露したのは、アメリカでの活躍を経て軸足を日本に移されたジュリアンさん。昨夏、TdVのヘルちゃん🩲でたくさん拝見しました☺️やっぱりかっこいいなぁ。歌詞を覚えきってなくて緊張すると語りますが、それもそのはず、なかなか長さのあるナンバーでした(資料に印刷された歌詞の級数めっちゃ小さい)。冒頭、背景に真っ赤なライトが光り、スツールにうつむきがちに腰掛けたジュリアンさんの鍛え抜かれたシルエットが、一瞬ゴジラを彷彿させたのは気のせいでしょうか。ベースのシンコペーションが印象的な力強い曲調で、自分自身と対話を重ね、痛みを克服し立ち上がろうとする、自己解放のナンバーでした。
3.「今日、私は」“Today I Am”〜『少女の作り方』より🇺🇸
🖊️Laura Barati/🎼TJ Rubin/🎤Sylvia Grab, Marika Dandoy
完璧な少女“The Young Girl”を作り上げる研究所*5で極秘に育てられたヒナ(ダンドイ舞莉花)が、ルームメイトを募集するファイラ(シルビア・グラブ)のメッセージに呼応し、外の世界(Real World)で生きてみようと決意するWish Song(こちらも英語歌唱です)。作曲を手掛けたTJルビンさんはミュージカルとオペラの境界でクリエイションに取り組まれているそうで、その説明を聞いたダンドイさんとシルビアさんが「だからこんなに難しいんだ…!」と顔を見合わせて納得していました。譜面を受け取ったダンドイさんは、開いてみて思わずいっぺん閉じたそうです笑。ダンドイさんに「日本語に訳すと『少女』になるけれど、英語ではYoung Girlで(ヒナは)20歳なんですよ」と説明された芳雄さんが「年齢なんて関係ない!役者は何にでもなれるんだ!」と応じると、シルビアさんが「顔を見て言ってほしかったわ」とあうんの呼吸でツッコミを入れていました。
オペラっぽい曲調なのかな?と思いきや、実際はブリリアントなポップスの響きに彩られていて意外でした(なんかちょっとボサノバっぽい箇所もあったような…うろ覚え)。研究所の生活を説明する軽快な導入を経て、後半から、オンラインでルームメイトを探すファイラが加わるのですが「♪メッセージして確かめよう お互い人間かどうかと現実世界でうまく暮らせるかを!(歌唱は英語)」のところは、ヒナは本当の人間(real human)なのかな?とドキッとさせられました。
このThe Young Girlがどのような方向性で錬成されているかは、現実世界(Real world)で若い女性(Young Girl)がどのような役割を求められているかを思い出せば、ある程度想像することができるでしょう。ファイラとのシスターフッドを予感させる、でも結末はどうなるのだろうと一抹の不安も感じさせるナンバーでした。
4.「こんな私じゃなかったら」“If I Weren't Who I Am”〜『When Tango Ends』より🇯🇵
🖊️Hinako Tagai/🎼Miyako Matsuoka/🎤Sora Kazuki
この曲、めっっちゃ刺さった…。
互日向子さんが脚本・作詞、松岡美弥子さんが作曲を手掛けた『When Tango Ends』より。1942年のブエノスアイレスを舞台に、両親の仇・ホセへの復讐を誓い殺し屋として暗躍するカミラ(和希そら)が、ホセの娘・エレナと惹かれ合った末に離別を決意する悲しいナンバーです。カミラは復讐のために男装してエレナに近づいており、この設定には芳雄さんも「得意そうですね??」と興味津々。そらぴ(と呼ばせていただきます、SIXぶり!)も曲調について「懐かしい感じ」だと応じ、宝塚っぽい感じがするとのこと(客席の奥を指して「あちらのほう」って言ってました)。
「わかってるわ、そんなこと。言われなくたって、わかってる。」の語りから曲が始まると、タンゴ風のメロディーにのせた哀切な歌唱にあっという間に引き込まれました。これ、宝塚でやったことあったんじゃないですか??ないの??
信仰のタブーに抗えない絶望と愛する人を騙していた罪悪感という二重の葛藤。それは悲しいことに自己否定に向かいます(だから、タイトルが「こんな私じゃなかったら」なんだと思う)。湿度をまとった低い声で寂寥感と哀愁を漂わせる“そらカミラ”、こんなのみんな好きに決まってる…!テーマが重いからこのノリで消費しないようにと自戒しつつ、でもエンタメとして最高でした…。お衣装も、タイトのミニスカートにサッシュベルト+チュールの裾の飾りがついているような構築的なもので、今思ったけど少しだけヨルさんっぽさもあるんだなぁ。
日本語歌唱だったので歌詞にも注目しました。レトリックの鍵になっているのは、おそらくカミラはずっと愛するエレナのことを歌っているのだけど、その人称代名詞が「あなた」だったり「彼女」だったりすることです。これは心の距離が揺れ動いているからなのかなと思います(本当は別れたくない)。そしてラスサビでは「あの子」になるんです。「♪あの子のためにさよならを/あの子のためよ/あの子のためなの」と畳み掛けて「♪ああさよなら」と結ぶので、ここではもう背中を見送るくらいの心の距離があるわけです。そしてカミラにとってエレナは同年代か年下であろうという関係性も想起されます。面白いのは、併記された英語の歌詞では「彼女」と「あの子」はどちらも“her”になっていること。つまり、日本語だから表現できた機微なのだと思います。うーん、長く書いてしまったけど本当に素晴らしい。すぐにでも上演をお願いしますね!!!(どうしてもエレナ役には元娘役さんが合うような気がしてしまう)
5.「いつもは私が」“Usually I'm the One”〜『ギルガメッシュ&ザ・モスキート』より🇺🇸
🖊️Sam Chanse/🎼Bob Kelly/🎤sara, Bob Kelly
これは本当に悲しくて泣いてしまった1曲。トニー(sara)とカミル(ボブ・ケリー)夫妻のすれ違いを描いた繊細なナンバーでした。芳雄さんがこの曲の背景を、トニーが異常妊娠をしていることがわかり…と説明したとき、客席から「あぁ…」と悲痛なため息が漏れました。本当にシビアな、シリアスな設定です。作曲を担当されたボブさんがキーボードを弾き語り、saraさんが中央の段に腰掛けて遠くを見ているミザンスは、物理的な距離に加えて決して視線が交わらないことを示しています。それぞれがバイオ研究者/古典学の教授というインテリジェントな夫婦は、これまではキャリアに挫折しても社会との摩擦に傷ついても、2人で話し合いながら乗り越えてきました。それなのに、最も大切なことが話せない。「これまで乗り越えてきたこと」が列挙されるからこそ、単に仲良しというだけじゃない、深い相互理解に基づくパートナーシップだったことがわかり、その破綻の悲劇性が強調されます。少しだけ自分に置き換えて考えてしまい、とっ…ても悲しかったです。パートナーシップの失敗といえば私の中ではエリザのシシィとフランツなのですが、本作はその普遍的なテーマをリアルかつモダンに研ぎ澄ませたものなのだと思います。saraさんの透明感がありつつ抑制的な歌声がナンバーによく合っていました(悲しかった…←リプライズ)。
6.「ベストと言っていい(이보다 더 좋을 순)」“Couldn't Be Better”〜『ゴースト・ノートより』より🇰🇷
🖊️Seyooh Oh/🎼Yesseul Hwang/🎤Misato Higashijima, Kento Yamada
登録者10万人のYouTuber・バダ(山田健登)と、彼に取り付こうとする幽霊・チャンイ(東島京)。生前はドラムが得意だったと思われるチャンイが、手こずっているバダにアドバイスする場面からスタートし、2人の心が次第に共鳴していく様子が高揚する音楽にのせて描かれます。バダは華やかな表の顔を持ちつつ本来は内向的で、それは表情などからちゃんと伝わってきました。一方のチャンイは陽のパワーをほとばしらせてバダをエンパワメントしていきます。死んじゃってるなんて信じられない!京くんは歌い終えた後、芳雄さんにも「こういう(明るい)性格なの?」って聞かれていました…笑。
この曲のラストにバダは“予選通過”の知らせを受けており、ドラムのコンテストなのかなぁ、プログラムの情報とあわせて読み解くと、2人でコンテストに挑戦するストーリーなのかもしれません。だとすると、待っているのは切ない結末なのかなぁ…。チャンイの魂はステージにどんな輝きを残すのか、バダはどんな成長を遂げるのか、想像が膨らみます。
※全然関係ないけど、私は昨日Endless SHOCKの上映を初めて観て、“板の上で渾然一体となった生と死”についてぐるぐる考えていたところでした(実は昨夜の時点で脳みそがキャパオーバーしてた)。
7.「トゥー」“Two”〜『イン・クレイ』より🇬🇧
🖊️Rebecca Simmonds/🎼Jack Miles/🎤Lumina
実在した陶芸家マリー・カザンの人生を描く“ひとりミュージカル”『イン・クレイ』より。芳雄さんとルミーナさんが「1人で歌うって大変だよね💦」と演者の視点で共感しあっていました。壊れたものに美を見出すというテーマがあるそうで、それは日本の「金継ぎ」にも通じるのでは、という紹介が印象的でした。確かにこれも陶芸の文脈ですね。
序盤の楽曲でマリーが13歳の頃の場面。ルミーナさんが「これから13歳になります」と宣言した通り、可愛らしさと大人っぽさが同居する絶妙な“ローティーンっぽさ”が見事でした。ヘンリエッタ(ヘティ)との出会いを述懐するマリー。配布資料には「友情を深めていく様子」と説明されていましたが、歌詞の意味(英語)とルミーナさんの迫真の歌声からは、「友情」という言葉では割り切れない、もっと熱のこもった何かを感じました。でも特に名前をつけてラベリングしなくてもいいのだとも思います。
プログラムの作品紹介では「夫が一部彼女の作品を自分のものとして発表して名声を得」ていたことが示されており、日本語のWikiがあったので覗いてみると「より有名な画家、ジャン=シャルル・カザンの配偶者であった。」と説明があったので閉口しました…。1924年に79歳で没した彼女の人生が、本作でどのように語られるのか興味をそそられます。
8.「羊皮紙に刻まれた宇宙」“The Universe Inscribed upon Parchment”〜『マインツのヴィルヘルム』より🇯🇵
🖊️Yo Namiki/🎼Shinichiro Kogure/🎤Yoshio Inoue
俳優として活躍される木暮真一郎さんと、作家の並木陽さんのタッグ*6、そして歌唱担当は我らが井上芳雄!!ものすごく楽しみにしていました。
司会をバトンタッチしたシルビアさんとアッキーさんが、複雑なあらすじを紹介します(芳雄さんはいったん上手袖へ)。舞台は10世紀ドイツの東フランク王国。芳雄さん演じるヴィルヘルムは、国王オットーとスラヴ人女性の間に生まれた少年で(聞き間違いかもしれないけれど「私生児」と表現されていたかも)、父の道具としてキリスト教の聖職者になることを強いられるなか、母の教えであるスラヴの神話を羊皮紙に書き残して守ろうとします。芳雄さんご自身の内面的なものを想像すると、コンテクストが複雑すぎて卒倒しそう。とにかく、葛藤のなか異端に踏み出す決意を歌うナンバーです。
中世ヨーロッパの宗教的な対立が背景にあるのなら、どれだけ重厚な展開が待っているのだろうと思ったのだけど、切なさを含んだポップスが胸を打つではないですか。ちょっとラテンっぽいギターで始まり、重低音が印象的な本編へ。いやこれ楽曲だけなら本当に今をときめくボーイズグループの持ち歌と言われても信じます!!並木さんご自身も木暮さんの音楽性によって「新しい引き出しが開いた」と語っておられましたが、なるほどこのテーマと音楽のかけあわせの妙こそが本作の強い魅力の1つなのかもしれません。
そして芳雄ヴィルヘルムはというと、段に腰掛けて少し背中を丸めた姿は、控えめな性格の青年を思わせます。そう、昨年は芳雄Aの第一声で「人生の疲れを帯びた中年以降の男性」だと感じ、今年は芳雄ヴィルヘルムの第一声で「少し臆病そうな若者」だと感じ、これは作品の全容がわからないショーケースならではの感覚で、正しいかどうかはさておきやはりワクワクしますね。
私は不勉強だけれど、このナンバーからは、キリスト教に帰依する当時の青年にとって、異端とは恐怖なのだということが想像されました。それを打ち破り、ペンを武器にして母の故郷を守ろうとする壮絶な決意表明。最後は階段を登って上階へ。逆光の中から、圧巻のロングトーンが降り注ぎます(この演出には少し宗教的ニュアンスが感じられました)。すごかった…。あぁ〜…12/29で確信していたけれど、芳雄さん、完全復活です(号泣)。
9.「ジュヌの世界(준우의 세계)」“Inside Jun-Woo's Bubble”〜『君と友達になるための完璧な計画』より🇰🇷
🖊️Soomin Kim/🎼Chanmi Kim/🎤Woo Hyuk Choi
自閉スペクトラム症*7を抱える高校生・ジュヌの内面を描く作品。韓国で活躍中で、日本ではミス・サイゴンの出演を控えるチェ・ウヒョクさんが歌唱しました。ウヒョクさんはとても日本語が堪能で、ほぼ通訳を介さず芳雄さんと会話されていました。「今は緊張しているので…」と謙遜するも「今のところ完璧です」と芳雄さん*8。緊張といえば芳雄さん、このMCあたりで「歌い終わったらこっちのもんだ」とか言ってたな、やはり歌を控えていると緊張するものなのね。
冒頭では、科学室に閉じこもったジュヌが、増幅されるドアの開閉音や他人の囁き声、チャイムなどの音に苦しめられる様子が描かれます(聴覚過敏の表現*9)。「ジュヌの世界」という邦題ですが、イントロを聞くと“Inside Jun-Woo's Bubble(ジュヌのバブルの内側で)”という原題なのがうなずけます。歌も素晴らしかったですが、繊細な表情のお芝居がリアルでした。
10.「窓際の席」“A Window Seat”〜『聖セバスチャン』より🇺🇸
🖊️Sean MacCabe/🎼Jinhee Kim/🎤Misato Higashijima, Julian
カナダの田舎町のシェルターで暮らすジェイミー(東島京)が、恵まれた階級のセバスチャン(ジュリアン)と飛行機を見上げて語らい、世界への憧れを歌うナンバー。英語での快活な会話劇から始まり、海外ドラマを観ているような臨場感と若いパワーをほとばしらせる2人の歌に引き込まれました。
配布資料の楽曲紹介は非常にあっさりしていたものの、プログラムの作品紹介を読んでその複雑さについて考え込んでしまいました。タイトルの通り本作もキリスト教の信仰を背景に持ち、そこにクィアネスが交わってくるというのです。この2つについてジュリアンさんが真剣な表情で「どうやってcoexistanceすればいいのか…」と言葉を探し、芳雄さんが「ともに存在するって意味ですかね」と引き取ります。
本作の舞台はカナダですが、クリエイター陣(ショーン・マッケイブ/キム・ジンヒ)はアメリカを拠点にしているので、手近にあったアメリカ史をテーマにした本を紐解いてみました(森本あんり『キリスト教でたどるアメリカ史』,角川ソフィア文庫,2019)。それによると、アメリカの教会で同性愛*10について議論され始めたのは1980年代とのこと。現代では教派によって対応はいろいろで複雑のようです。カミラがエレナとの別れを決意した『When Tango Ends』とは時代が異なるけれど(国も)、このテーマが現代社会でどのように考えられているのか、ジュリアンさんの投げかけ*11で想像するきっかけになりました。
同性愛をめぐる意見は、現代人が聖書の文言をどのように解釈すべきかという釈義上の難問を含んでおり、その解釈次第では広く人々を政治的に分断しかねない。しかし、最近の世論調査によれば、三〇歳以前の若者は、政治や宗教に関する立場の如何にかかわらず、大半が同性愛を多様性の一表現として容認する傾向にある。
11.「空っぽのまま走る」“Running On Empty”〜『メイフライズ』より🇬🇧
🖊️🎼Gus Gowland/🎤Sylvia Grab
『メイフライズ』は、カゲロウ(メイフライ)の一生になぞらえて、現代の恋愛の流れを描くストーリー。披露された「空っぽのまま走る」はメイ(シルビア・グラブ)がオンラインでやり取りを続けてきてまだ会ったことのない「フライ」を思い、自問自答するナンバーです。シルビアさんの歌唱は2曲目だけど、よく考えたらどっちもオンラインでやり取りしている役で面白いですね。
本作で興味深いのは、「メイ」と「フライ」という仮の名前をもつ2人の登場人物は、性別とその組み合わせが決まっていないということ。とてもとても現代的!!ガス・ガウランドさんが脚本・作詞・作曲をすべて手掛けた本作は、2023年にはヨーク・シアター・ロイヤルで初演を果たし、今年(2026年)にはウェストエンドでの公演が決まっているのだそう。遠い世界の話でくらくらしちゃうけど日本でも2人ミュージカルは実績がたくさんあるし、上演が叶ってほしいものです。
一定の緊張感がはりつめるなか、寂しさや恋しさが複雑に描き込まれたシルビアさんの歌唱。息を呑んで耳を傾けました。昨年の「Caledonian Sleeper」も素晴らしかったけれど、このナンバーで思い出されたのは「東京ローズ」(2023)のクライマックスといえるナンバー「集中業火の中で(Crossfire)」でした。
このナンバーの後、芳雄さんが全体を少し総括して「昨年は声高に歌い上げる曲が多かったけど、今年は心のひだに寄り添うような、繊細なナンバーが多い」「世相を反映するというか、世界がそういう気持ちなのかなと思いました」と述べていました(※超ニュアンスです)
York Theatre Royal Official(2023)↓
12.「物語を生きる」“Living Throgh a Story”〜『エマはまだあの夜にいる』より🇯🇵
🖊️Mizuka Motoya/🎼Mari Nishide/🎤Akinori Nakagawa,sara
日本のクリエイター、元谷瑞香さん(脚本・作詞)と西出真理さん(作曲)が手掛けた作品です。満を持してアッキーさんが登場、そしてsaraさんが再登場。2人は初コラボとのことで、saraさんは昨日のリハの後「興奮して電車に乗れなくて。日比谷をグルグルグルグル歩いてました」と告白し、芳雄さんに「どうやって帰ったんですか」と突っ込まれていました。そしてアッキーさんが芳雄さんとの長い付き合いをsaraさんにニコニコ説明するくだりも可愛かったです。そして照れ隠しなのか、謎にカーテシー(本日2回目)を披露する芳雄氏…。
そして本ナンバーでも、saraさん演じる少女・エマは死んじゃっているらしいんですよ…!板の上で渾然一体となる生と死!!(本日2回目)(キャパオーバー)
死んでいるという設定は観客に伝えてしまっていいのか芳雄さんがsaraさんに確認してOKとのことだったのだけど、エマ本人は気づいていないんだそう。プログラムの作品紹介によると1940年代のアメリカが舞台で「ふたつの大戦期を軸に」ということは、エマは第一次世界大戦の時期に亡くなった少女なのかなぁ…。
元天才作家エドガー(中川晃教)と、小説の続きが読みたいとせがむ不思議な少女エマ(sara)のデュエット。6/8拍子(たぶん)のゆったりと明るい曲調が心地よく、saraさんの透明感のある歌声に、アッキーさんの低めの歌声が大人っぽく重なります。もちろんアッキーさんは音域が広いのだと思うけど、ハイトーンボイスのイメージが強いからギャップにやられました…!ラストナンバーということで、くしゃっとさせた白い紙が天井から降り注ぐスペシャル演出も。歌う2人を観ていたいのに、舞い落ちるその軌跡があまりに美しく、つい見とれてしまいました。
クリエイター陣、キャスト陣が整列してのカーテンコール中、ひっかかっていた1枚が、マイクを握る芳雄さんの頭上にひらりひらりと落ちてきました。観客が反応しているのに気づいた芳雄さんがぱしっと手を伸ばしてその白紙を掴んだとき、ああ、今、舞台を観ているんだ、という強烈な実感が込み上げてきたのでした。
今年の作品を振り返って

今年は昨年より上演時間の設定が15分短かったです(結果は約10分押し)
だめだ今年も1万字いってしまった…。
ええと、昨年は「美術・アートという魅力的なテーマ」「女性の声を届けるナンバー」「現代を映す関係性の提示」「各国の豊かなテロワール」に注目しましたが、今年はまず「関係の多様性」を挙げたいと思います。「1.私は竜巻」「3.今日、私は」などにフェミニズム的な文脈があるのは大前提で、「6.ベストと言っていい」のチャンイとバダ、「7.トゥー」のマリーとヘティのような、深い絆で結ばれた関係は、友情という単一のラベリングでは言い表せないような気がしました。「9.ジュヌの世界」ではジュヌが特性をもつゆえに周囲との関係構築に苦しみ、「2.僕、ゴジラ」はソルの独白ですが、背景にはソル、クリッシー、ハンクという3人の込み入った関係があるようです。「5.いつもは私が」に描かれた夫婦の問題もフラジャイルで、最も象徴的だったのは「11.空っぽのまま走る」の“交換可能”な登場人物でしょうか。「12.物語を生きる」は、昔からよく知っている類のロマンチックさが魅力ですが、幽霊との交流(というか共同制作?)という意味では多様性の一側面かもしれません。
一方で、さまざまな時代を舞台にした「信仰と信条のコンフリクト」にも興味を惹かれました。「4.こんな私じゃなかったら」は高いエンタメ性を実現しつつ現代に通じる問題提起を含み、「8.羊皮紙に刻まれた宇宙」は日本人に馴染みがない中世ヨーロッパを舞台していながら2つの神様の間で揺れるアイデンティティの葛藤が手に取るようにわかりました。「10.窓際の席」も、リアルに今の北米社会にある問題を描いているのだと思います。
でもやっぱり全体をまとめると心の“ひだ”をより細やかに見つめるということなのかな。やはり、芳雄さんの総括が言い得ていますね。
*
今年も細かいトーク内容は省いてお届けしましたが、芳雄さんは今年もずっと面白かったですし、「アンニョンハセヨ」や“Welcome”“Please”を交えるホスピタリティも健在でした*12。
バンドは6人編成で聴き応えがあり*13 、各ナンバーを品よく引き立てる上田一豪さんの演出も素敵でした。ショーケース3回目も絶対にあると信じて、また今日出会えた作品が上演されると信じて、今年も自分なりのペースで劇場に足を運びたいと思います。
ご覧いただきありがとうございました。大急ぎで綴りましたので間違いがあるかもですがどうかご容赦ください。※あとで直すので…
それでは聞いてください、明日、仕事始め!!
*1:理由の1つは英語歌唱がめちゃくちゃ多かったからだと思います
*2:余談:袖ギリギリに座っていたアッキーさんが見えないということで芳雄さんがセンターに一度呼び寄せると、プリーツのワイドパンツという斬新なボトムを履いていることがわかって客席からどよめきが漏れました
*3:相性が悪いようで良い、の表現で「こんばんは」「こんにちは」の挨拶が噛み合わない小芝居をして最後に「おはようございます」。芳雄さんに「業界人だ」って言われてた
*4:そしてアレクサンダーさんに「You too」か「You look nice」かよく聞こえなかったけど褒め返してもらった芳雄さん「I know〜」って応じてて一番笑いました。長い脚でカーテシーやめれる???
*5:説明を聞いて、瞬間的に小花美穂の「パートナー」を思い出しました。平成のりぼんっ子なので…
*6:木暮さん、長身と華やかな雰囲気で人目をひきつけるのでロビーですぐにわかる、かっこよかった…
*7:配布資料では「アスペルガー症候群」とされていましたが、今は自閉スペクトラム症と名称が変わっています。確か説明の中では1回、正しくこの名称が使われていたはずです
*8:このあと「甲斐翔真くらい日本語喋れてます」と客席の笑いを誘い、「ごめんね甲斐くん」と雑にフォローしてました。MR!クリスチャンの絆…
*9:辛さの程度は比べ物にならないと思うけど、私もショッピングモールなどでの音の反響がとても苦手で、しかもそれに気づいたのがノイキャンのイヤフォンを使うようになったここ数年のことでした。ショッピングモールに近づかないようにすることは私のライフハックの1つ…
*11:私TdV大好きなんだけど、ヘルちゃん(アルフレートに迫る伯爵の息子)についてはジュリアンさんどう思っていたんだろうなぁ…と考えてしまいました。
*12:あっでも「Introduceしてください、two minuets」みたいなルー語っぽい瞬間もあった。笑