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ミュージカル「エリザベート」考察〜2幕におけるクラリネットとサックスの大変すぎる持ち替えについて

現実逃避のお時間です〜🎷

エリザベート東京公演千秋楽、そして井上芳雄さん大千秋楽、誠におめでとうございます。まさか、芳雄さんがトート役そのものにおける大千秋楽を迎えられるとは思わず…(いえ、本当は、ファンに向けて慎重に送ってくれていたメッセージから目を背けていただけ)。本当はプリンシパル全員の感想などいろいろ書くつもりなのですが、いったんライトな記事を上げておきます。ちょっとした現実逃避にお付き合いください。

 

本記事は、オーケストラの「Reed」パートにおいて、2幕「皇后の勝利」から「マダム・ヴォルフのコレクション」にかけてクラリネットとサックスの持ち替えが行われていることに興味をもって観察・分析してみた記録です。なぜ興味をもったかといえば、自分自身が元サックス吹きだからです。そしてなぜ観察が可能だったかといえば、オーブのオケピが浅いことに加え、3階からたくさん観ていたからです。わはは。とはいえ合っている保証はありませんので推定。アーカイブ視聴のお供に「へぇ〜」と思っていただければ幸いです。

 

 

前提の確認

「Reed」パートって何?

Reed(リード)とは薄く削った葦の板のことで、マウスピースに取り付け、くわえて息を吹き込むと、これが振動して音が鳴ります。このリードが1枚(=シングルリード)の楽器をいろいろ担当するのがReedというパートのようです。つまり持ち替えが前提。今回は、クラリネット、アルトサックス、ソプラノサックスの持ち替えについて観察しました。なおこの演目ではバスクラリネットもこのパートで持ち替えていることが配信アーカイブのチューニングのシーンで確認できます。

クラリネットとサックスってすぐに持ち替えて吹けるの?

私自身は持ち替えを経験したことがなく(そもそもクラリネットが吹けないよ)、持ち替えにどれくらいの小節数が必要なのかを適切に把握することができませんん。ただ、アルトサックスの場合、構造的な理由から、スタンドから手に取っていきなり吹くことができないことは名言できます。アルトサックスは楽器の裏側の中央付近に輪っかがあり、首から下げたストラップのフックに引っ掛けて重さを支えながら演奏するため、この「引っ掛ける」という1工程が必要なのです。逆に、ストラップが命綱になるので、いったん引っ掛けてしまえば、手を放して一時的に膝に置いておくことはできます。これは「皇后の勝利」で効いてくるので後述します(とはいえ不安定なので本当はやりたくない動きだと思います。マウスピースがめちゃ不安)。一方、ソプラノサックスについては私は触ったこともないのだけど、ストラップありが基本で、なくても吹ける?っぽいです(見ていた限りそうだった)。つまりソプラノは頑張ればすぐに持ち替えられる、のかもしれない…です。

その他の木管楽器は何があるの?

プログラムでオーケストラメンバーの数を数えると22人。本演目の木管パートには他に「Flute」「Oboe」があります。何回読み返しても木管奏者が3人しかいません…。「Flute」の奏者はフルートがメインで時々ピッコロ、「Oboe」の奏者はオーボエイングリッシュホルンコールアングレ)を一生持ち替え続けています。マメにスワブ(管内の水滴を取る布)も通しながらで忙しそうでした…!

金管楽器はトランペットとホルンに1st、2ndがあったりトロンボーンバストロンボーンがそれぞれあったりしますし、キーボードはリーヴァイさんこだわりのRolandが3台。そんななか木管たった3人で工夫しながら、多彩な音色を担当していることがわかります。

 

Reedパート持ち替えの観察記録

ここからが本題です。以下は、よく見える席から観察した目視の記憶に加えて、アーカイブの音源を参考にしています。アーカイブを聴きまくって解決できていない点を先に言っておくとLのチャンネルからバスクラリネットのような音がするんだけど辻褄が合わない、というのがあります(考えたけど無理だった)。確かにそこにいるわ、あなた???

「皇后の勝利」

(配信アーカイブ2:35:35〜)

  • イントロ→休み
  • 「♪我慢できない」〜「♪皇后に乗っ取られる〜」→クラリネット
  • 「♪教会嫌いでミサに出てこない💥」〜「♪大臣を勝手に任命したぞ💥」:持ち替え準備。クラリネットをスタンドに立ててアルトサックスを取り上げてストラップにかけて膝の上に寝かせて準備、再びクラリネットを手に取る
  • 「♪女狐め〜!!」→おそらく休み(バスクラリネットのような音がする)
  • 「♪勝利だ」「♪皇帝陛下は気づいていない」〜「♪皇后に乗っ取られる〜」→クラリネット
  • 「まぁ、わからないでもないが」〜「陛下とて男ですから」→持ち替え
  • 「♪彼女はき〜れい〜」ここで突然のアルトサックス(エロい)
  • 「きれいな女なら、他にもいます」〜ゴニョゴニョ密談→持ち替えてクラリネット
  • 「♪ほうなるほど面白いアイデア」〜「♪皇后以上の美人を〜」→クラリネット(途中、ほぼソロ)(鬼)*1
  • 「見つければよいのです!」「どこで」〜「男のたしなみですな」→クラリネットオーボエと一緒に裏打ち)(働き過ぎ)
  • 大司教様は??」〜「政治的見地から賛成いたします⛪️」「はい〜」→シャラララ〜ン(ウィンドチャイム)の後、オケ全体休み。
  • チャララッ×2、「♪我らのッ」→聴き分けられず不明だけど休みorクラリネット
  • 「♪勝利だ 彼女に勝つのだ」→クラリネット
  • 「♪勝ち抜くぞ〜」「頼みましたッ✊️」→アウトロ休みかと思いきや後半の音階にクラリネットが加わっている気がする。からの持ち替え!!

 

「マダム・ヴォルフのコレクション」

(配信アーカイブ2:38:44〜)

  • (おじ5)「う〜ん!」/イントロの後半の伸ばすところからアルトサックス
  • 「♪遠慮せ〜ず気取らず〜に遊んでいってよ〜」〜「♪お金さ〜え出したな〜ら何でもで〜きる〜」→アルトサックス(でしょうね!!)
  • 「♪こーのうーちじゃ〜タブーはない〜」→(アルトサックス/または休み)※1回目がどうしても判別できず
  • 「♪なんでーも好きに〜」→(持ち替え/または持ち替えなし)
  • 「♪リクエストしてごらん」→(クラリネット/またはアルトサックスのまま)
  • 間奏2小節→持ち替え
  • 「♪ウィーンいちの美人ぞろいさマダムヴォルフのコレクショ〜ン」〜「そしてスペシャルはマデレーネ」→主旋律、アルトサックスの一人旅
  • 「♪仕事熱心で〜職業病をもつ〜」→持ち替え
  • 「♪遠慮せず気取らずにプレイしてごら〜ん」〜「♪どんな偉いお方で〜も礼儀はいらな〜い」→ソプラノサックス(または休み)
  • 「♪このうーちじゃ〜タブーはない〜」→ソプラノサックス(オクターブ上がる)
  • 「♪誰でも好きに」→持ち替え(または持ち替えなし)
  • 「♪試してみたらどう」→クラリネット(またはソプラノサックスのまま)
  • マデちゃんのシーン🔒️→最初4小節は休み(オーボエが担当)、その後クラリネットで加わる。最後はピッコロと一緒にオクターブユニゾンで音階を降りてくる(ほぼソロだよ、えぐいよぉ)
  • カシャン!🗝️ →持ち替え
  • 「♪遠慮せ〜ず恥知ら〜ず遊んでいってよ〜」〜「♪どんな偉いお方で〜も男は男〜」→ソプラノサックス(または休み)
  • 「♪こーのうーちじゃ〜タブーはない〜」→ソプラノサックス(オクターブ上がる)
  • 「♪なんでーも好きに〜」→持ち替え
  • 「♪リクエストしてごらん」→クラリネット

 

ポイント

サックスはわかりやすくアダルト担当

この演目でサックスが登場するのは、おそらくこの2つのナンバーのみです。Reedパートの奏者は、幕間の終盤に音出しをしています*2。そして2幕序盤のこれらのナンバーが終わると、体操室の前半の長めの休みの間に首からストラップを外していたので、やはりもう使わないのだと思います。つまりアルトサックスとソプラノサックスは、「マダム・ヴォルフのコレクション」とその導入になる「皇后の勝利」でのみ、アダルト担当で投入されているのです。奏者もその意図に応えて、前打音(指を使って音をひっかける)やベンド(指を使わずに音を曲げる)などによって蠱惑的なニュアンスを表現しています。

また、マダム・ヴォルフ〜には2つ主題があります。1つ目の主題は「結婚式のワルツ」のリプライズ。神聖な結婚式と対置される「紳士の社交場」において、同じメロディをアダルト担当のサックスで奏でることでシシィに対する企みが強調されます。また、2つめの主題で娼婦を1人ずつ紹介して最後にマデちゃんが登場するまでは、アルトサックスだけがメロディを担当しています。これも同様の役割に一役買っているはずです。

ソプラノサックスがわざわざ投入される理由

クラリネットメインの奏者がアルトサックスを担当することはなんとなくイメージがつくのですが、マダム・ヴォルフ〜後半でソプラノサックスらしき金色のまっすぐな木管楽器が見えたときは、見間違いかと思いました。比較的レアな楽器ですし、アルトと音域もそこそこ重なっており、合理性が見いだせなかったのです。なんでそんなに面倒なことを??

最初は持ち替えの様子からストラップなしで吹いているようだったので、短い時間で持ち替えるためかなと思いました。でも配信アーカイブにより、2回目、3回目の「♪こ〜のう〜ちじゃ〜」でオクターブ上を担当していることにようやく気づきました。ソプラノサックスの音は鋭く明瞭なので、これによりメロディの輪郭を強調する効果があるのかなと思います。でも、そのためだけに…!?やっぱり超大変じゃないですか…?

なお、サックスは移調楽器であり、ソプラノとアルトでは楽器の調性が異なります。ソプラノサックスはB♭管で、アルトサックスはE♭管であり、楽譜に「ド」と書いてあるときに実際に出ている音がそれぞれB♭、E♭です(クラもB♭管)。つまりマダム・ヴォルフ〜の同じメロディ「♪遠慮せ〜ず」はアルトとソプラノでは楽譜に書いてある音が異なり、運指も変わるのです。実音ではC(ド)で始まりますが、ソプラノサックスは「レ」、アルトサックスは「ラ」なんです。自分でも何を言っているかわからなくなってきました。とにかく超ややこしいことをしているのです。

一味向け🌶️;アルトサックスでのドレミファソラシド=エスドゥア(Es dur)。

 

まとめ:作曲家の意図を表現する使命を背負って

以上、観察してみた結果でした。そもそもオケピは普通見るところじゃないから見えなかったところもあるし、普通に音を聞き間違ってるかもしれないので、どうぞお含みおきください。

そもそもなぜ、「持ち替え」が発生するのでしょうか。それは、少ない人数でオーケストラを編成し、意図どおりの音楽を奏でるため、だと思います。同じくクンツェ・リーヴァイ作品である「ベートーヴェン日本初演(2023)のプログラムに、エリザ東京楽で登壇された岡Pの制作日誌が載っているのですが*3、それによるとリーヴァイさんのオケの基本編成は28人で、東宝版「エリザベート」は「欧州圏のツアー公演があったときに作成された少人数編成のスコア」をもとに現在の22人編成に落ち着いたことが明かされています。つまり本来はあと6人の奏者がいて、きっとそこには木管も含まれていたのではないかと思うんですよね。

前述のベートーヴェンの制作日誌では、リーヴァイさんが「28人」のオケについて「1人も減らしませんよ」と釘を刺していたことが明かされています(痺れる)。でもプログラム上で数えてみると仕上がりは「24人」。紆余曲折あっての妥結点なのかなと思います*4。オケの人数は、オケピの物理的なスペースの都合だけでなく、予算にも大きくかかわるはずです(そしてきっとチケ代にも…)。演目によって人数や編成はさまざまに異なりますが、持ち替えがたくさん発生するパートの奏者は、与えられた条件下で作曲家の意図を最大限に表現する使命を背負っているのだと思います。

あまりにも有名であまりにも人気があって、どんなフレーズも観客が覚えている恐ろしい演目。私自身はいったん見納めでエリザベートから離れますが(次は博多座配信!)、楽しませてもらった1観客として、尊敬を込めてエールを送りたいと思います📣*5。カンパニーはもちろん、オーケストラのみなさんも元気に大千秋楽まで駆け抜けられますように。そして木管楽器のリードが少しでも長持ちしますように。

 

↓ミュージカルにおける持ち替えについて奏者の立場から書かれており、とても参考になりました!!ジャズだとサックスとフルートの持ち替えは当たり前だし*6、プロの木管奏者って本当〜〜に大変!!

ちなみに船木さんは「ベートーヴェン」のプログラムにおいてバスクラリネットでクレジットされていらっしゃいました*7ベートーヴェンも…再演も待ってます…!

note.com

 

 

*1:ここでバスクラリネットのような音がしてるんだけど、吹いているのは誰…?

*2:アーカイブ2:14:45、幕間終わりで劇場内に切り替わったところでアルトサックスのネックが映っています。そのあとバスクラの特徴的なネックが映ります。

*3:笑い事じゃないけど、スリリングで読み物として面白すぎる

*4:モーツァルト!も本来は28人とのことで、2024年の公演のプログラムで数えると27人でした。ベートーヴェン制作日誌でM!については「28人で、ハープもいた」とリーヴァイさんが言っていたようなので、1人欠けているのはハープかな…?

*5:TL見てると普段はみんなオケに言及しないのに失敗とかは囁かれるから(Tbのあそこね)、なかなか厳しいなって思うことがある。でもそれもエリザというおばけ演目ならではだよね…

*6:ミッチーさんのワンマンショーでは特定の曲でサックス→フルートの持ち替えがあります。「バラ色の人生」っていうんですけど!

*7:今回いろんな演目のプログラムをひっくり返したけど、バスクラ単体のクレジットは珍しい感じがしました




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