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2011年読書まとめ

漫画を447、それ以外が627冊。
あまり記憶の良い方でもないので読んだものの大部分は内容を忘れつつありますが、それでも選ぶベスト選。面白かったのだらだら書いてくとトンデモないことになるのでキリのいい数字で止めます。

国内10選

 バークリイが探偵小説の条件として求めたのは、本当にシンプルな一点でした。すなわち、探偵(Detective)の物語(Story)であること。こんな単純な条件が、単純であるがゆえに、付け足され、歪められ、変質してきたんです。だから気がついたらそれはまるで魔術。解法がわからないブラックボックス。だからいつしか推理小説(Mystery)と呼ばれるようになったのですけれど、ぼくは相変わらず探偵小説が好きです。そして、舞城王太郎はまさに探偵の物語を書いてくれた。四大奇書新本格世代以降のいかなるヴィヴィドで新奇な名作すらもできなかったことをやってのけてしまった。何が新しいか。一言にまとめるしかないのだけれど、過去と現在の物語であった探偵小説に「未来」という風穴をぶちあけた。
 舞城王太郎ヒューマニズムは愛という一点に注がれ、自由意志なんてそれを成立させるための要素にすぎないのかもしれない。ツイストをいくらきかせても、どんなにアイディアをつぎ込んで踊り狂おうとも、結局はそこに帰着する。
 短篇レベルだとまだお前は愛を語り足りないのか、もういいよ、と食傷気味な気もしてくるけれど、やはり長編はものすごい。探偵小説はものすごい。だから都知事風情には舞城王太郎が一生わからない。可哀想だと思う。だけれど、ぼくはそんな都知事が好きです。



 ミステリ、時代劇、忍術、エロ、すべてのエンタメが詰まった忍法帖の、いや山風文学の最高峰。

「やりましょう」とクソ3G回線で知られる孫の人によれば、敵を知り己を知れば百戦危うからずだそうで、しかし基本的に身内にすら己が忍法の核心を隠す秘密主義的忍者*1たちを「知る」のは容易ならざることです。忍者たちがいざ闘いとなったら相手を「知る」のに、並々ならぬ努力を費やすのは言うまでもありませんが、それ以上に彼らは己を磨きます。仮説と検証を繰り返し、術の精度を行う。時に自分の身体を人体実験の道具にしか考えていない節すらある。そうした「科学的忍者」の極北が『忍びの卍』で主人公・刀馬の前に立ちはだかる筏織右衛門です。彼の忍法「任意車」は精を放出した女性に乗り移り、精子が死ぬまでの24時間、意のままに操れるという、なに言ってんだお前クラスの忍術です。忍術です。忍術以外の何者でもない。
 
 忍法帖に限った話ではないのですが、基本的に時代もののバトルというのは見栄でできてます。僕がよくはるヤツじゃなくて、歌舞伎とかのアレです。『ONE PIECE』でいうところの「どーん」です。闘い自体は力技もいいとこで終わるんですけど、口で「かここれはこれだ!」と大声はりあげてバーンと大見得叩きつければそれで世界の物理法則が改変されて相手は死ぬ。三寸斬り込めば人は死ぬのだ。言霊というか、よくヒーローもので「なんでいちいち必殺技の名前さけぶねん」とつっこれますけど、あれは見得の様式を極限までシンボライズした方法なんですね。だからマミさんを責めないでやってください。
 で、山風は見得の切り方が非常にうまい。「どーん」はまあ、擬音ですけど、山風の場合は理屈というか詭弁で攻めてくる。生物学医学史実文献使えるものは何でも使う。このあたりお医者さんの卵経由ミステリ作家らしいん感覚ですけれども、人をヒト、動物の一種としてのホモ・サピエンスとしてみなしておらず動物にもできるんだから人間だってできるだろうみたいな論法を平気で使う*2。そして「とりあえずの解説でなんとなく納得させといて、絵のすさまじさでねじふせる」のが基本的な山風の戦法です。「ウンドマーレーという現象がある!」と言った瞬間、朱絹は血霧を吹き出しますし、鎌鼬といえば当然真空の裂け目が云々という理論を出してきます。
 『卍』でも箙の忍法はシステム上、基本的に一人の人間しか操れないという制約がある。二正面作戦を余儀なくされた際、彼は二人の人間を操るなら精液を半々にわければよかろう、と言い出す。それだけならおいちょっとまてなんですが、one more thing 的に「しかし、片方の前線の敵はヘタレで、もう片方の前線の敵は最強クラス。なら精液を3:7で分ければ丁度いいんじゃね」と言い出す。もっともっぽい。読書が根源的な理屈に突っ込みを入れる前にさらに展開を一歩先へ進めて、無理やり山風側のペースに巻き込んでしまう。あげく「分割されたわしの意識がどうなるかはわからんが」と不敵に笑われた日には惚れるしかない。見得です。キレてます。愛すべし。瞑すべし。


「SEX特集号を回転させる人なんて初めて見たわ……」とレジに立つ書店員歴二年半の後藤登美子は目を奪われた。だがその直後、男は人差し指を急降下させたかと思うと、慣性でなおも回転しながら落下する雑誌を右手でそのまま器用につかむや、フリスビーみたいに振り向きざま思い切りレジカウンターへ向けて放り投げた。鋭い回転のかかった雑誌がビュンビュンと通路の空間を切り裂き、唖然とする後藤登美子の顔面目掛けて一直線に飛んでくる。「ぶつかる!」とその瞬間、すんでのところで脇から横っ飛びで同僚の富永大輔がそれを拳で弾いた。五メートルほど離れて床に落ちたSEX特集号に歩み寄り、しゃがみ込んで拾い上げると、パンパンと埃をはたきながら富永大輔は雑誌棚の立ち読み男をキッと睨みつけた。そして後藤登美子の前に戻ってきてカウンターにSEX特集号を無造作に置き、「あの客、只者じゃないな……」とつぶやいた。というのもその時、男はすでに別の雑誌を立ち読みしていたからである。しかも明らかにただの立ち読みではなく、両手でひらき持った雑誌の誌面に額からつっこんでいきそうな、物凄く顔面を近づけての尋常でないのめり込みようであった。「いったい何があの人をそこまで惹きつけるのだろう?」と登美子は思うや否やもうカウンターから出て、おのずと足がそちらに踏み出していた。「ちょっとレジを頼みます!」と言い残して。

「本屋大将」p.8-9


 この出だしに興味が湧いて、続きが読みたい人は買うとよいと思います。
 木下古栗はまあ読めアホウだから、の一言で済むし、済まないといえば済まない非常に困った作家です。
 日本の文学界なんて頭の固い老人がたが支配する絶望の都なんだろうと思っていたら、ある日こいつが現れた。れっきとした純文の賞を、れっきとしたアホ小説がとってしまった。僕らの読書生活を365日見守るビッグ・モリィこと大森大御大の紹介で『年刊SF傑作選』だったかな? にも紹介されハヤカワの「想像力の文学」叢書にも一冊書いてる(あ、こっちのが時系列的に先じゃん)SFの方々にも馴染みが深いかどうか。
 木下ほど言葉の破壊力を研ぎ澄まし放つ作家はなかなかいません。語り始めのストーリーからどんどん離れて行って斜め上の文脈を開拓するふざけたプロットも、計算のうちかと思えば背筋が凍る。でも笑える。わろうたら負けよ。
 こういう「俺はまだ手の内を明かしてないぜ」系の作家は得だよなあ。売れてないけど。

 ハダカデバネズミがかっこいい。


「これが……出るのか?」「出たんだよ!」(『UN-GO』の「因果論」のノリで)

 これもあらすじを説明するしかない作品。あの我孫子武丸も扱いに困ったのだからしょうがない。

 過去の死者が偉人凡人問わず全員生き返りまくるブードゥーマジック的社会でリソース足りなくなったからどうすんべ→複数人の意識を一人の肉体に閉じ込めてローテーションで意識発現させてけば持つよ? 金持ちだったり、ランクの高い歴史的偉人は一対一専用ボディ持てるけど、貧乏人どもはなんぼでも押しこむよ? というキチガイじみた発想の元、額田王他二人と肉体をシェアしている少女ピンク(肉体は額田王のものなのでババア)はある日、身に覚えのない殺人の罪に問われ、共同住宅から汚物処理場を経て糞まみれになりながらも脱出。しつこい官憲の手から逃れるために、ナメクジ型宇宙人と目下戦争中の宇宙軍に入隊する。この時、兵士用の新たな肉体を手に入れ(今度は一休さんなどと同居)、体育会系ロリとして復活したジャンヌ・ダルクとねんごろになりつつ、鬼教官のもとフルメタル・ジャケット並というかそれ以上だろ人死んでんねんでな厳しい訓練に耐えぬきというロクに技術も習得しないまま人員不足の前線に駆り出されることに。用意された兵士輸送用宇宙船はワープ機能を持つ謎の巨大宇宙生命体の死骸を再利用したものだった。そして、慰問要員としてかの「神の子」が同乗することに……。

 まるまる麻雀するためだけに数ページ割いたり(牌譜つき)、出てくるキャラクターがいちいち珍妙奇天烈だったり、ど根性ガエルだったり、こんなむちゃくちゃな構成でよくこんな高度なリーダビリティ保てるなと呆れるというか感心するというか、ワイドスクリーン・バロックの傑作を残したベスターやウォネガットが泣いて逃げ出すレベル。
 とりあえず通読すれば、なんだかよくわからないけど感動することだけは請け合える、田中ナンセンスSFの総決算。わざわざナンバリングタイトルをつけた早川書房の志に敬意を評したい。間違いなく、出版における2011年最大の奇跡。

 

 森見登美彦が真っ当なジュブナイル書けるんだと驚いて、読んでみたらこれまたキャリアハイの面白さ。四畳半のイメージが染み付いちゃいましたが、こういうひねたピュアさ(語義矛盾)をどこでも発揮できるのがもりみーの魅力なのだと思います。『約束の方舟』と二年続けて国内SFは良いジュブナイルを生んでいる。
 
 

 アメリカ政府に喧嘩得られた日本人移民一族の話。メキシコの革命戦争に加担しては虐殺され、無人島に移り住んだら訓練に偽装されて爆撃を受け虐殺され、パナマ運河を爆破しようとしては捕まり虐殺され、とにかくアメリカのパブリック・エネミーとして殺されまくる。
 鬼畜米英。
 戦争まっただなかの時代です。久生十蘭は翼賛文学をいくつか書いてて(『キャラコさん』とか)、これもそのうちの一つ。野崎六助先生は「こいつ何も考えてなかっただけだと思うし、そのせいで戦後の作品(っていうか「ハムレット」)はピリッとしない」などと述べておられます、何をおっしゃるやら。「無残やな」も戦後やで。
 ともかく『紀ノ上一族』が放つ殺意の熱量は翼賛とか反戦とか、そんなもんをぶっとばしてただ凄絶ですらあります。


 戦後十蘭といえば「ハムレット」。以上。


 エロい澁龍が読みたいなら河出文庫へこい。エッセイがやたら多いけど心配すんな。そのうち小説巻もあるだろう。
 福武やんけこれ。

 山田風太郎は実は短編の名手などと言われているけれど、「実は」なんてつける必要はなくてもうパーペキに全力で短編の名手です。
 明治維新によって運命を不条理に弄ばれる人々の無力、哀切、怨恨、そういった人間的な叫びを聴くのに一歩引いた神の視点から叙述するというのは正解で、しかもそのまなざすもとが稀代の皮肉屋、山田風太郎であるからには実に澄んで響く。
 誰もが信念を持っていた。誰もが貫こうとした。男の意地が挫けるその一瞬は、残酷で美しい。
 

国外10選

 コメントつけるの飽きた。っていうかここらへんのは黙って読んでても面白いんだよ。

 人間が嫌いな人にすごくウケるはず。叢書延命させるために一人十冊買うべき。

 人間が嫌いな人にすごくウケた。

 人間が嫌いな人にすごくクる。

 人間讃歌。

 人間とは。

 大ぼらその一。

 英国小説の何がいいって、没落していくその物悲しさ、沈む日を見送ることしかできない無力さ、そんな風景の寂寥。
 だから、『日の名残り』には夕日が似合う。イシグロ先生は「ブッカー賞狙いで書いた」とかどっかの直木賞作家みたいなこと言ってましたが、まあたしかにブリブリテッシュ好みだと思います。
 「品位とは、つまるところ、人前で裸にならない」こと。

 雰囲気でいい話風にまとめてるけど、作者の人間嫌いっぽさはこの頃から存分に出ていた。

 大ぼらその二。

 大ぼらその三。

漫画5+5+5選

以前から読んでてなお連載継続中のものは対象外。



新刊
久正人エリア51』(新)
 多神教系ハードボイルド。


市川春子『25時のバカンス』(新)
 お姉ちゃんはかわいい。


道満晴明『ぱらいぞ』(新)
 どーまん先生が変な叙情を組み込まず、全力でギャグに傾注したらどうなるか。とんでもないものが生まれた。


大武政夫ヒナまつり』(新)
 ギャグ漫画でいま一番わらける。見開きをつかいおしみしていないのに、サムくない。


園田健一『ブレット・ザ・ウィザード』(新)
 『黒姫』や『えとせとら』がハイ・ファンタジー・ウエスタン活劇なのだとしたら、これはロウ・ファンタジー・ウエスタン活劇なのだろうなあ。舞台はジャズ・エイジのこだまが聞こえるアメリカン・ノワールですが。




今年出会った
横山光輝『マーズ』
・敵のロボットが六体います。そいつらに負けたら地球は滅亡します。そいつら全部倒しても地球は滅亡します。え、この無理ゲどうするの。


Joe Kelly『I Kill Giants』
アメリカの中二病はカウンセリングを受けさせられる。いや、そんなことより凄まじいぞ。英語わかんなくても、すごいぞ。


やまだ紫『性悪猫』
・ネコ。


せがわまさき『山風短』
・よくもこんなエロキチガイ短篇を!


木々津克久『アーサー・ピューティーは夜の魔女』
木々津克久は視点の切り取り方、転倒のさせかた、話のまとめかたが非常に上手くて、これはその中でも白眉。




完結
水上悟志惑星のさみだれ』(完結)
・ヒロインがいて、出会いがあり、別れがあり、師匠がいて、仲間がいる。そして世界の命運。良いジュブナイルだ。


OKAMACLOTH ROAD』(完結)
・世界観と表現する画力さえあればなんでも許される。ガチで。それも漫画の強さ。もっと「クロスロード」やって欲しかったけれど。


沙村広明ハルシオン・ランチ』(完結)
・SFの正しい使い方。


長谷川哲夫『ナポレオン 獅子の時代』(第一部完)
・「大陸軍(グラン・ダルメ)はァーっ!」「地上最強ォー!」


ブライアン・リー・オマリー『スコット・ピルグリム
・山風でも一応説明はつける。しかし、アメリカ人はそれすらやらずにすっ飛ばす。カナダ人なんですけどね。

*1:この大事さを、地虫十兵衛先生は『甲賀忍法帖』で身をもって我々にご教授下さいました

*2:なんかイン殺さんが何かの本の感想で似たようなこと言ってた。山風だったっけ?




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