序
本稿では前書(風林火山概念の超越論的演繹Ⅰ - 純正受けル批判)に於いて簡潔に為された各属性の導出をより詳細に行うことで、それらの定義をより明確にすると共に各属性が対戦に於いて持つ意義を示す。前書での議論を前提として議論を進めるため、前書の内容を理解している者が読者として想定されていることに注意せよ。
風林火山の第一の定義
定義とは
アリストテレス曰く、定義とは、類に全ての種差を組み合わせたものである。例えば「動物」という類は「歩行するもの」と「歩行しないもの」という種に分割することができ、「歩行するもの」という種はさらに「二足歩行するもの」と「四足歩行するもの」などに分割できる。風林火山を定義するうえでは、「ポケモン」を類として考え、これを種差によって分割していき風林火山の各属性にまで至る際に用いられるその種差を考えれば、自ずと定義は見出されるだろう。
風林火山の第一の定義の導出
全書では風林火山の導出にあたって、ポケモン対戦の形式(純粋対戦形式)を分析することによって、ポケモンを分類する為の基準(純粋戦術概念)を見出した。従ってこのような分類が為されるためには先ずポケモン対戦というものが前提されている必要がある。それ故「ポケモン」という類を「対戦用」「非対戦用」という種に分ける。そして「ポケモン」という類のうち「対戦用」という種を持つもの、即ち「対戦用のポケモン」は、当然<引く/引かない×出す/出さない>という純粋戦術概念を種差として更に四つの種へと分類できる。この時点で風林火山の定義が示された事を確認されたい。定義とは、類に全ての種差を組み合わせたものであったから、例えば林(類は「ポケモン」、種は「対戦用」「引く×出す」)であれば、「引き、かつ出す対戦用のポケモン」となる。他の属性についても同様である。
純粋戦術概念と風林火山
「対戦用」という規定
ポケモンを「対戦用/非対戦用」というように分類した際に、対戦用に分類されるためには「他のポケモンの下位互換ではない」という条件が必要である。絶対的な強さがあっても上位互換となるポケモンがいるポケモンは対戦用ではない。
純粋戦術概念の優劣
一方「引く/引かない」「出す/出さない」の間に優劣があるのは自明であろう。すると<引く×出さない>は<引かない×出さない>および<引く×出す>の下位互換であり、<引かない×出さない>と<引く×出す>は共に<引かない×出す>の下位互換である。
風林火山の優劣
しかし風林火山に優劣はない。林の定義が「引き、かつ出す対戦用のポケモン」であったように四属性全ての定義の内に「対戦用の」という種差が含まれているからである。全書の風林火山の導出に於いて、有利不利の大小という(純粋な)概念が用いられたことを想起されたい。「引く」というそれ自体としては否定的でしかないことから「有利不利が大きい」という対戦での採用理由になりうる特徴が導かれたのは、「引く/引かない」に先立って「対戦用」という種差が規定されていたからである。<引く/引かない×出す/出さない>と風林火山は同一の概念ではなく、前者には優劣があるが後者にはないことを理解しておかなくてはならない。
風林火山の完全な定義
ここからは風林火山の第一の定義を分析して完全な定義を導出する。
林の完全な定義
林の第一の定義は「引き、かつ出す対戦用のポケモン」である。前書で示されたように、「対戦用でかつ引く」ことから「行動保証が無く有利不利が大きい」ことがわかり、「出す」ことからこの属性にとっての大きく有利とは「受け出しからでも勝てる」ことである。従って林の完全な定義は「不利な相手からは引くが、有利な相手には受け出しできるポケモン」である。
火の完全な定義
火の第一の定義は「引き、かつ出さない対戦用のポケモン」である。よって林と同様に「行動保証が無く有利不利が大きく」、また「出さない」ことからこの属性にとっての大きく有利とは「有利対面を作った際受けることができない」ことである。(前書で、「大きく有利である」とは「受け出しからでも勝てる」もしくは「有利対面を作った際受けることができない」ということであると示されたからである。)従って火の完全な定義は「不利な相手からは引くが、有利対面を作った際受けることができないポケモン」である。
山の完全な定義
山の第一の定義は「引かず、かつ出す対戦用のポケモン」である。前書の議論から、この属性は「耐久力によって行動保証を持つがゆえに不利の程度が小さく、受け出しもできる」と分かる。前書では「有利不利が小さい」と書いたが、これは「引かない」から直接導かれるわけではない。というのも、「引かない」から導かれるのは「不利が小さい」ことであって、「有利が小さい」ことは導かれないからである。ただし「引く」からは「有利不利がともに大きい」ことが導かれる(前書参照)。従って「引かない」からは「有利が小さい」ことは導かれないが、「引く」からは「有利不利がともに大きい」ことが導かれる以上、相対的に「引かない」は「有利不利が小さい」を意味する。
「有利不利が小さい」と「受け出しができる」は矛盾しているように思われるかもしれない。これも相対的に考える必要がある。山は「有利不利が大きく受け出しができる」林と比べれば、有利な相手に受け出した際のアドバンテージが小さいという事である。山の完全な定義は「耐久力によって行動保証を持つため有利不利が小さく、有利な相手には(有利の程度は小さいが)受け出しできるポケモン」である。
風の完全な定義
風の第一の定義は「引かず、かつ出さない対戦用のポケモン」である。前書とここまでの議論から、この属性は「素早さによって行動保証を持ち有利不利が小さい」とわかる。(有利が小さいのは有利不利が大きい火との相対的な観点による。)従って風の完全な定義は「高い素早さによる行動保証によって対面での有利不利が小さいが、受け出しはできないポケモン」である。
各属性の比較
以下では二つの属性を比較しその間に優劣がないことを個別的に示す。なお林と風については対称的な関係にあり、優劣がないことは自明であるため省略する。
火と林
火は林に対して受け出しができないという意味では劣っているが、有利な相手と対面した際の有利がより大きいため優劣はない。全書で述べられたように、林は有利な相手に対して受け出しできる=交代を成立させるのが強みである一方火は有利な相手に受けを成立させない=交代を成立させないことが強みであったため、この二者は対称的な関係にあり、従って優劣はない。林は有利不利が大きいといっても、有利対面を作り出す能力は高いが有利対面が作られたことで得られるアドバンテージは大きくない。一方火は有利対面を作り出す能力は無いが有利対面が作られたことで得られるアドバンテージは大きい。火と林は共に有利不利が大きいがそれらの意味は異なる。
火と風
火は風に対して不利な相手から引かなければならないという意味では劣っているが、有利な相手と対面した際の有利がより大きいため優劣はない。風は対面の相手には有利でも相手に受け出しを許す。
林と山
林は山に対して不利な相手から引かなければならないという意味では劣っているが、有利な相手に受け出した際の有利が大きいため優劣はない。林も山も有利に受け出せるが林の方が受け出した際のアドバンテージが大きい。つまり1ターン遅れで考えた場合は山より林の方が有利に試合を進められるという事である。
風と山
風は山に対して受け出しができないという意味では劣っているが、耐久力という山の行動保証が対戦の中で消えるのに対して、素早さという風の行動保証は対戦の中で消えないため優劣はない。風も山も対面性能が高いが、風は突破後も役割を果たしやすい。
火と山
火は山に対して、不利な相手から引かなければならないという意味でも受け出しができないという意味でも劣っているが、火は有利な相手と対面した際の有利が山より大きいため優劣はない。山は対面の相手には有利でも相手に受け出しを許す。
総括
本稿では風林火山の定義と属性間の関係について論じたが、これらは密接な関係を持つことが示されたと言える。属性間の関係を語る際には定義が導出された過程を分析することが有効であったし、完全な定義の導出にはただその属性を見ることだけでは不十分で他の属性との関係を考える必要があった。風林火山のいずれかについて語る場合にも、他の属性及び理論全体を視野におさめながら論じることが必要であろう。
本書の執筆には先日行われた学会での議論が大いに寄与した。参加された論者達への感謝を述べておく。