はじめに
風林火山はどこから来たのだろうか。ある人は単なる戦術類型の寄せ集めだと言うだろう。またある人は、実際に対戦環境において使われているポケモンの型を分類したものーそれは具体的な対戦環境に依存するーだと言うだろう。またある人は、あらかじめ風林火山という概念を(恣意的に)仮定し、それに基づいて具体的なポケモンを分類しているだけだと言うだろう。
しかし風林火山概念はこのようなものではない。風林火山は、ポケモン対戦の純粋(*1)な形式から、具体的なポケモン・持ち物・技などを一切考慮することなしに、体系的に導出される純粋な概念であり、それ故ポケモン対戦にとって必然的=客観的に導出される概念であるため、これら四属性の内どれ一つとして欠くことはできず、またこの他にどんな属性も考えられない。
本稿では、実際にポケモン対戦をそれである限りにおいて考察することによって、風林火山概念を導出することで、これらの属性が上述のような本性を持つことを証明し、風林火山理論の必然性=客観性を明示する。
風林火山概念の超越論的演繹
純粋対戦形式の導出
端的に言えば、ポケモン対戦とは対戦する二人のポケモンが技を出し合う事である。従ってポケモン対戦に含まれる要素は、ポケモンと技(そしてテラスタルなどの対戦システム)のみである。しかしポケモン対戦という概念そのものについて考察する場合(*2)、「どんなポケモン・持ち物・技が存在するのか、そのポケモンはどんな特性を持っているのか、特殊な対戦システムはあるのか、あるとすればそれは如何なるシステムか」という事は、その概念を分析することによっては導き出せない。それゆえそれらはポケモン対戦にとって純粋な概念ではない。以上のことを踏まえると、ポケモン対戦に含まれる要素は全て純粋な概念ではないという事になる。
ではポケモン対戦には純粋なものは一切ないのだろうか。ここでポケモン対戦を形式と中身に分けて考える場合、どんなポケモンが存在し、どんな技が使用されるかという事はポケモン対戦の中身といえるだろう。他方でポケモン対戦の形式とは何か。それは、それぞれのターンごとに為される行動は何らかの技を出すか交代するかであるという事に他ならない。この対戦形式は具体的なポケモンや技などを一切考慮することなく、ポケモン対戦という概念そのものを分析する事のみによって得られる。したがってこの技か交代かという形式は純粋であり、したがって任意のポケモン対戦がこの形式に適合する。また技/交代はお互いに対して肯定・否定の関係にあり、したがって純粋対戦形式は技(交代)の肯定・否定としても記述できる。プレーヤーが各ターンに為せる対戦への介入は技か交代の選択であるという事を想起されたい。
純粋戦術概念の導出
先に示された純粋対戦形式を分析しよう。それは技と交代からなるものであった。まず交代という概念を分析する。「交代する」という術語は二項述語であり、その概念を完成させるには、「AをBと交代する」というように場から引くAと場に出すBを必要とする。よって交代という概念は「引く」「出す」という二つの概念に分析することができる。これらの概念にはその否定も当然存在する。この時もはや技の分析は為されたことが認められる。というのも技を出すことは引かないことだからである。(技とは交代の否定であった。)したがって技と交代は「引く」「出す」およびその否定に分析できることが示された。するとこれを用いて任意のポケモンを<引く/引かない×出す/出さない>というように四通りに分類できる。私は、この「引く」「引かない」「出す」「出さない」という、純粋対戦形式から導出された4通りの概念を純粋戦術概念と呼ぶ。ところで「引く/出す」という二つの述語はお互いに対して能動・受動となっていることがわかる。すると四つの純粋戦術概念は「引く」(または「出す」)という術語に能動・受動と肯定・否定をそれぞれ一つずつ適用したものであるとも考えられる。(*3)(*4)
林の導出
ここまでの議論で純粋戦術概念によってポケモンが<引く/引かない×出す/出さない>の四通りに分類されることが示された。まず<引く×出す>について分析する。この属性のポケモンは「引く」。すなわち、引かなければならない対面を想定している。これはつまり行動保証(*5)が無く有利不利が大きいことを示している。このとき有利な相手も存在することも認められなければならない。なぜなら不利対面のみが存在し有利な相手が存在しない属性は対戦における類型とはなりえないからだ。有利不利が大きいと言ったが、「大きく有利である」とは、「交代を成立させる=受け出しからでも勝てる」もしくは「交代を成立させない=有利対面を作った際受けることができない」ということだ。(*6)このとき、この属性のポケモンは「出す」ことを考慮してみると、このポケモンは有利な相手に受け出しするポケモンであることがわかる。この<引く×出す>の属性を林と名付ける。この属性は不利な相手からは引き、有利な相手に繰り出される。
火の導出
次に<引く×出さない>について分析する。「引く」に関して先ほどと同様の議論から、この属性のポケモンは行動保証が無く有利不利が大きいことがわかる。ここでこの属性のポケモンは「出さない」ことを考慮してみると、この属性における大きく有利とは、「有利対面を作った際受けることができない」ということになる。この<引く×出さない>の属性を火と名付ける。この属性は不利な相手から引き、有利対面を作れば受けられることがない。
山の導出
次は<引かない×出す>を分析する。この属性のポケモンは「引かない」。これはつまり行動保証が有り有利不利が小さいことを示している。引かないのは行動保証によって不利対面でも一定の役割を果たすことができるからである。行動保証について考察すると、それは耐久によってか素早さによってかのどちらかである。(*7)ここで、この属性のポケモンは「出す」ことを考慮してみると、この属性の行動保証は耐久によることがわかる。受け出しには一定以上の耐久力が求められるからだ。この<引かない×出す>の属性を山と名付ける。この属性は、耐久力によって行動保証と受け出し性能を持つ。
風の導出
最後に<引かない×出さない>を分析する。この属性は「引かない」ので同様に行動保証が有り有利不利が小さい。この属性のポケモンは「出さない」ことを考慮してみると、この属性の行動保証は素早さによることがわかる。耐久があるわけではないため受け出せないのだ。この<引かない×出さない>の属性を風と名付ける。この属性は、素早さによって行動保証を持つ。
総括
以上の議論によって風林火山のすべてが導出された。これについて以下のことを確認されたい。
・風林火山は、現にある(もしくはあった)具体的な対戦環境を分析し、対戦環境において使用されている方を類型することによって作られたわけではない。風林火山の演繹において、私は如何なるポケモン、特性、持ち物、技、対戦システムの存在も前提しなかった。私が導出に用いた概念は全て純粋対戦形式から導出された純粋な概念のみであり、したがって風林火山は純粋な概念である。すなわち、ポケモン対戦にとって必然的=客観的なものである。
・風林火山はあらかじめそれを知っていなくても、ポケモン対戦をそれである限りにおいて考察することによって導出できる。私はこれらの導出に際して、「風/林/火/山は~である。」という論法を使っていない。私は「~であるものが風/林/火/山である。」と言っただけである。必然的=客観的に導出された四つの類型に対して名前を与えただけである。
・風林火山は単なる戦術類型の寄せ集めではない。これらは純粋対戦形式から導出された純粋戦術概念について、能動と受動のそれぞれを肯定するか否定するかという方法で導出されている。したがって属性は2×2=4つ以外ではありえない。
まとめると、風林火山はポケモン対戦そのものを分析するだけで導出される純粋な概念であり、それゆえ風林火山はポケモン対戦と不可分である。ここまでの議論をすべて理解した者にとっては、風林火山理論に必然性=客観性を主張することが正当であることは明らかである。
理論とは本来、偶然見いだされた概念の寄せ集めではなく、その理論の体系全体が一定の原理によって導出されるべきものである。その意味において風林火山理論はまさしく理論であり、将来理論を打ち立てるものにとっての範型としてふさわしいものである。
私は祖がこの理論をはじめて提唱して以来一年以上この理論を研究してきたが、今ようやく理解を実感できる水準に達することができた。この記事は間違いなく、一方で私の主著となり、他方で風林火山理論における最重要文献となるだろう。私は本稿で示されたことについてこの上ない確信を持っているが、その晦渋さゆえに読者に理解されるかには不安を認めざるを得ない。しかしここで示されたことを人々が認めるようになれば、風林火山を疑う者はいなくなり、この理論の研究は全く新しい段階へと至ることは間違いない。
注
*1ここでの「純粋」は、「経験的な要素、すなわち、どんなポケモン、特性、持ち物、技、テラスタルなどの対戦システムが存在するかという事を考えることなく、規定することができる」という意味である。一般に純粋な概念のみから導出された概念は純粋である。
*2考察の対象となるものをXとすると、「Xがポケモン対戦であるということ以外にはXについて如何なることも規定せずに考察する」ということ。
*3この点に着目することによっても四つの純粋戦術概念を導出することができる。本文では「交代する」という術語の二項性から「引く」「出す」という概念を導出したが、「交代する」という術語に能動・受動を適用することによってもこれらを導出できる。というのも「出す」ことは「交代される」ことだから。
*4ここで用いた肯定・否定、能動・受動という概念は「引く/出す/交代する」にとって純粋な概念である。というのもこれらは述語という概念に必然的に付随するものであるから。
*5ここで行動保証という概念が登場することに違和感を覚えるものもいるだろうが、これは純粋対戦形式から導出される純粋な概念である。というのも技か交代かを分けるものは行動保証だからである。
*6不利という概念が交代を強いられるということによって説明された以上、有利という概念も交代という概念によって説明される。この際純粋対戦形式である交代によって導出される有利・不利も純粋な概念である。
*7ここで気合の襷などを行動保証に含めないのは、この一連の議論が、ポケモン対戦をただそのものである限りにおいて考察している純粋な議論であるため、具体的な持ち物の存在は一切前提されていないからである。