~この物語は、真理を求めたとあるポケモントレーナーの記録である~
教室で新米ポケモントレーナーたちが騒がしくはしゃいでいるのを横目に見ながら、きてふわ(※1)は授業をさぼって家路につく。校舎を出ると校庭では今日も生徒たちがポケモンバトルをしており、日々強くなるために切磋琢磨している様子が見えた。私にもこんな風にポケモンバトルに夢中になっていたころがあったものだと思うと、悲しいような切ないような気持になる。パルデア地方に引っ越してきてからすぐに生徒会長のネモと知り合い、アカデミーに入学しないかと誘われたところまでは良かったものの、入学してしばらくするとポケモンバトルのモチベーションも失い、気が付けば授業にはほとんど出ないようになっていた。かといってスター団のように学校の外でやんちゃしようなどという気力があるわけでもない。日々何もせずだらだらとすごす生活が長く続き、校長先生にもらったニャオハはもはや私のことを主人などとは思ってもみないといった様子である。授業にはほとんど参加していないため成績は最悪で、当然単位もほとんど0である。今年の春、私は入学した年から数えて20年目になった。
授業に出る気力はないが、かといって何かほかにやることがあるわけではないので、今日もいつものように朝のホームルームにだけ出席して授業は受けずに帰るつもりで、きてふわはアカデミーに来た。担任のジニア先生が今日も特に面白くもない話をしてホームルームを終えようとしたところだった「あ、言い忘れていましたが、」ジニアは言った「そういえば今日はあの聡明と名高い風林火山賢者がアカデミーに来ているようです。なんでもクラベル校長の古い友人で、久しぶりに会いに来たのだとか。興味のある人はこの後見に行ってみたらいかがでしょうか、校庭にいるようですよ。」周りの若い生徒たちが驚きと期待でざわめきだしたのは明らかであった。なんでもあの風林火山賢者が学校に来るというのだから無理もない。かの理論がはじめて提唱されたのは、はるか遠い昔の神々の時代にまでさかのぼるとされるが、風林火山賢者はいまやこの理論の長い歴史の中でも提唱者のK氏を除けばもっとも高みまで至り、K氏に最も近づいた存在として世間の人々が崇拝しもてはやしているところの人物である。ホームルームが終わると生徒たちはいっせいに校庭へと駆け出した。私はというと、普段ならこういったことには興味を示さず無視するところではあるが、今回ばかりは流石に衝動を抑えきれず、群衆からは少し遅れて校庭へと向かった。
校庭に出るとすでに大勢の生徒たちが集まっており、グラウンドの中心に人がたくさん集まっていて、その輪の中にいるであろう賢者の姿は全く見えなかった。「皆さん落ち着いてください」群衆の中でクラベルは言った「一斉に話しかけられては賢者といえども対応しきれないでしょう。さあ、いったん落ち着いて各自その場に腰を下ろしてください。」そう校長の声が響くと生徒たちはみな賢者の前に座り始め、私も彼らの後ろに腰を下ろした。するとそれまで生徒たちに隠れてよく見えなかった賢者の姿が眼前に現れた。賢者は年老いた男でその身体は老衰し頼りなく見えたが、その目は鋭い眼光を放ち真理を見つめるが如くであり、身に纏う物どもはみなみすぼらしく、しかしその佇まいは静けさを纏いつつも堂々たるものであった。
続く
※1:本作の主人公、文中の「私」は基本的にこの人物を指す