おはようございます。今日はイージー・リスニングの最高峰、パーシー・フェイスの「夏の日の恋」を。
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21世紀に入ったらさすがに頻度はぐっと減ったように思いますが、ある年齢以上(?)の方なら、必ずどこかで耳にしてきた曲でしょう。
例えば旅行先の中庸なホテルのロビーとか、さまざまな施設の「待合室」とか、積極的に音楽を聴く必要はないけれど、全くの無音だとちょっと気まずい空気になりそうな場所。そういった”どこか”で低い音量で品良く流れてくるんですよね、この曲が。
その最たる場所はエレベーターでしょうか。一昔前の百貨店のエレベーターとこの曲の相性はぴったりです。知らないもの同士が、かなり近い距離でつかのま同じ時間を過ごすエレベーターは、完全な無音はけっこう気まずいものです。思わず唾を飲み込んだ音が響いたりして。
こういう音楽を日本では一般的にイージー・リスニングとかムード音楽と呼びますが、海外ではエレベーター・ミュージックという言い方もあるようで、それには深く頷いてしまいます
村上春樹の小説でこの曲が何度か出てきたことがあったはず、とふと思って、ネットで調べてみると、この曲が出てきたのは「 ねじまき鳥クロニクル」と「女のいない男たち」でした。
「彼はアイロンのスイッチを切ってアイロン台の上に立て、『夏の日の恋』をテープにあわせて口笛で吹きながら、奥の部屋の棚をごそごそと探していた。
僕はその映画を高校のときにガールフレンドと二人で見た。トロイ・ドナヒューとサンドラ・ディーの出ていた映画だ。リヴァイヴァルで、たしかコニー・フランシスの『ホーイ・ハント』と二本立てだった。『避暑地の出来事』、僕の記憶によればそれはあまりぱっとしない映画だった。でも十三年後にクリーニング店の店先でそのテーマ音楽を聴いていると、その頃のいいことしか思い出せなかった」 (「ねじまき鳥クロニクル」)
「夏の日の恋」は「避暑地の出来事(Summer Place)」という映画のテーマでした。リゾート地のホテルを舞台に、かつて報われない恋をしたもの同士が再会して、その子供達がまた恋に落ちて、、、という内容のようです。
実は映画ではこの曲はメイン・テーマではなく、映画に主演していたサンドラ・ディーとトロイ・ドナヒューが演じた二人のための”愛のテーマ”的なものだったんですね。
また、映画で実際に使われたのはこの曲を作曲したマックス・スタイナーのヴァージョンで、パーシー・フェイスは”カバー”だったんです。
パーシー・フェイスはカナダのトロントで生まれ育った人です。日本のウィキペディアによると、彼はピアニストを目指していたのですが、18歳の時に妹の服にマッチから火がついてしまったときに、それを手で消したため大火傷を負い、ピアニストを断念し指揮者を目指すようになったとありました。
カナダ放送協会の専属編曲家、指揮者として活躍したのち、1940年にアメリカの放送局の指揮者として呼ばれたことを機に、アメリカに移住することになります。
そして、「カーネーション・コンテンティッド・アワー」や「ザ・コカ・コーラ・アワー」といった番組の指揮者として活躍の場を広げていきます。
そして、” パーシー・フェイス&ヒズ・オーケストラ”をスタートさせ、1944年からレコードをリリースしています。
「Amor」
1950年頃からコンスタントにヒットチャートの上位に入るようになりますが、最初の大ヒットは1952年リリースの「デリカード(Delicado)」。全米NO.1になっています。
そして、その翌1953年には「ムーラン・ルージュの歌」で再び全米1位に輝きます。この曲は映画「赤い風車」の主題曲で、マントヴァーニが先にリリースしイギリスで1位になりましたが、アメリカではパーシー・フェイスのヴァージョンのほうが大ヒットし、なんと合計10週で1位を記録、1953年のビルボード年間シングル・チャートでも1位になるほどの特大ヒットになっています。
そして、パーシー・フェイスにとって2曲めの年間シングル・チャート1位(9週連続1位)になったのが、この「夏の日の恋」でした。ちなみに、9週連続1位というのは当時の新記録で、年間シングルチャート1位を2曲持つのは、他にプレスリーとビートルズだけだと言いますから、すごいことです。
今では、エレベーターでよく流れるBGM、として認知されてしまっていますが、リアルタイムでは特大のヒット・ポップスだったわけです。
ちなみに、この曲の発売は1959年の11月でした。秋から冬という時期だったんですね。映画の公開との兼ね合いもあったのでしょうが、夏の曲は夏のリリースするばかりが能じゃない、と言いますか、夏を恋しく思う時期に出すのものありなんでしょうね。E,W&Fの「セプテンバー」が12月に9月のことを思い出す歌だったように。。。
これだけのヒットですから、当然ヴォーカル・ヴァージョンも作られ、アンディ・ウィリアムスなどが歌っています。その中で一番ヒットしたのが、1965年のレターメンのヴァージョンでした(全米16位)。
There's a summer place
Where it may rain or storm
Yet I'm safe and warm
For within that summer place
Your arms reach out to me
And my heart is free from all care
For it knows
There are no gloomy skies
When seen through the eyes
Of those who are blessed with love
And the sweet secret of
A summer place
Is that it's anywhere
When two people share
All their hopes
All their dreams
All their love
And the sweet secret of a summer place
Is that it's anywhere
When two people share
All their hopes
All their dreams, all their love
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夏を過ごす場所があって
そこでは雨が降ったり嵐が吹いたりするかもしれない
それでも私は安全で暖かい
その夏の空間の中で
あなたの腕が私に伸びてきて
私の心はすべての不安から解放される
そうだとわかってるから
愛に祝福された人たちの目を通して見れば
曇り空なんてないわ
そして夏の場所の甘い秘密
それはどこにでもあるの
二人がすべての希望を分かち合い
すべての夢を分かち合い
すべての愛を分かち合うならば、、、
(拙訳)
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この曲を聴きながら思うのは、こういう曲がヒットチャートの1位を独走していた世界というのは、今僕が生きている世界とあまりにもかけ離れている気がするということです。
かなり年をとっている(?)僕ですら生まれる前です。記憶がないわけですから、当時の映画やTV番組と重ね合わせて想像を膨らませるしかありません。しかし、そこには今の時代にはない類の”幸福感”というものがあるのははっきりとわかる気がします。
「ねじまき鳥クロニクル」の主人公が、「夏の日の恋」を聴きながら、その頃のいいことしか思い出せない、と思ったということも何だかわかるんですよね。
人間には、時間とともに記憶を自分のいいように編集、脚色していき、それを心の栄養にすることで、ストレスフルな日々をなんとかやりくりしてゆく、そんなメンタルのシステムがありますよね。
古い音楽をさかのぼって聴くという行為は、今の時代に失われてしまったものを探しに行くことなのかも、と思えてきます。時に、現実世界では味わうことのできないような至福感を。
若い人たちが、生まれる前の時代の80年代のポップスや日本のシティポップを聴くという行為にも、それは当てはまるような気がします。
最後は、パーシー・フェイスが亡くなった1976年に発表された「夏の日の恋'76」を。時代を反映してディスコ風のアレンジになっています。
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